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第百十三話 心の準備ができてない~林山編~

命からがらとは、このことを言うのだろう。

林山はそのことを、身を持って体験していた。



「あ~死ぬかと思ったぜ!生きてるか、お前達!?」


「おかげ様でな!」


「そういうあなたは、どちら様ですか?」



自分達を小脇抱えながら言う男に、義烈は呑気に、林山は警戒気味に言った。


宮中から決死の脱出をし、無事、義烈の隠れ家に帰還した安林山。

逃走を助けてくれたのは、自称・仙狸と名乗る謎の大男。

彼は慣れた様子で義烈の邸宅へと戻ると、小脇に抱えていた林山達を下ろした。

そんな3人に気づいた屋敷の者達は、すぐさま恭しく出迎えてくれた。



「お頭!」

「義烈のアニキ!」


「義烈、星影!無事だったのね!?」

「玉蘭さん・・・」



そう言って、待機していた義烈の子分達と現れたのは、一足先に引き上げていた玉蘭。


「玉蘭さん、ご無事だったんですね?」

「あなたはボロボロね、星影!可哀想に・・・!」


大人の女の悩ましい顔で言うと、土がついた顔を上品な絹の布で拭いてくれる美女。


「玉蘭~俺は?」

「あんたは、ボロ布でこすってな!」


にやけた顔で言う男に、ぞうきんを叩きつけながら言う美女。

同時に、厳しい顔で義烈に言い放った。



「義烈!なにしてんのよ、あんたは!?星影まで巻き込んで、大騒ぎじゃないの!?」

「うるせぇー!その星影が暴走しやがったんだ!」



腰に手を当てて怒る美人に、ぞうきんを部下へと投げながら義烈は言う。


「オメーこそ、よく無事だったな?仕事、切り上げてきたはずだろう?」

「ええ!足止めをしていた兵達が、宮中に曲者が出たって知らせを受けて・・・可哀想にあの人。昇天できずに、仕事に戻ったわね~」


玉蘭の話す相手がだれか、林山はわからない。

しかし、彼女が何をしていたか知ってるだけに、顔が熱くなるのを感じる林山。


「ふん・・・あいかわらず、上手いこと逃げやがるな・・・。けど、これじゃあ、星影の依頼は完遂できないかもな・・・」

「え!?」


その言葉に林山がギョッとすれば、にやりと笑いながら義烈が近づく。




「反省会だ。ついて来い・・・!」

「うわ!?お、おい!?」




そう告げると、星影の首根っこを掴んで引きずる義烈。


「ちょっと!猫じゃないのよ、義烈!?星影が可哀想でしょう!?」

「子猫になら、宮中で会ったぜ!」

「わははは!あれは、虎だろうが?」


そんな義烈と林山の後に続くように、玉蘭と仙狸男もついてくる。




(つーか、誰だこの男!?)




初めて会う相手を睨みながら、小声で林山は尋ねる。




「義烈、あの人は・・・あなたの味方か?」

「うるせぇ!のどがかわいてんだから、しゃべらすな!」

「悠長に構えるということは、味方なのか・・・?」

「わかってんなら聞くな、子供!」

「こ!?誰が、子供だ!?」



相手の暴言を言い返したところで部屋につく。


青龍の絵が美しい部屋。

ここで反省会をするらしい。

部屋に入れば、ほどなくして義烈の部下がカメに入った水を持ってきた。



「お頭、ご無事で何よりです。」

「おう!世辞はいいから、水よこせ、許蘇!」



部屋の中央にある椅子に深々と座りながら言う侠客の親分。

これに慣れた様子で、杯に水を入れて差し出せば、義烈はそれを一気に仰ぐ。



「オメーらも飲めよ!」


「あたし、お茶がいいわ。冷たいのでね。」


「わしは酒くれ、酒!」


「来て早々、酒かよ?まぁ、俺も飲みてぇーからいいけど。」


義烈の言葉に、それぞれ自己主張する玉蘭と謎の男。

むろん、林山も反発した。




「おい!?反省会じゃなかったのか!?つーか、本当にこの大男は誰!?」


「飲んで忘れるのが一番だよ。林山は子供用の果実の飲み物にしてやろうか?」


「だ・か・ら!子ども扱いをやめろ!あと、質問に答えろ!」


「じゃあ、お前も酒な。頼んだぞ、許蘇。」


「はい。」



仙狸の男の話題をそらすと、義烈は晩酌の準備を許蘇に命じる。

その部下が部屋を出たところで義烈は言った。




「それで?今どうなってるんだよ、玉蘭?」

「どうもこうもないわよ。」



この問いに、机の上に常備されていたみずみずしい果実を口に入れながら答えた。



「都は、大騒ぎなのよ。曲者を探すために役人達が、動き回ってるわね。」

「え!?」

「大事にする気かよ。」


その言葉に林山が驚けば、鼻を鳴らしながら義烈はつぶやく。



「どうも今回は、手薄なところが多いぜ。宮中の警備はもちろん、取り締まる方の動きも鈍い・・・。」

「それだけじゃないでしょう?あんた達が闘った刺客は、二番手。皇太子の前に、先に皇帝が暗殺されかけたそうだから。」

「え!?」

「皇帝をか?」

「あたしの聞いた話じゃあ、陛下を狙った賊が先に来てたんですって。」



(その話知ってる・・・)



玉蘭の言葉を聞き、複雑な顔で固まる林山。

同時に、彼女がその先、何を言うかもわかっていた。




「そうよ。殺される直前に、迷子の宦官が陛下を庇って、賊を倒したらしいわ。」


「宦官・・・」



(それも知ってる・・・)



美女の発言で更に固まれば、玉蘭は新たな言葉を紡ぐ。



「名前までは聞き出せなかったけど・・・ここ最近、宮中に入ったばかりの子ですって。」



気だるそうに、義烈の向かいにある長椅子に寝転がりながら色気ただよう美女は言う。




「見た目もよくて、あっという間に李延年ぐらいの寵愛を得て出世したらしいわ。」


(――――――――――――――やっぱり星影のことか・・・!!)




呆れた気持ち半分、説教したくなった気持ち半分の林山。




(あいつ~あれほど目立つなと言ったのに・・・なんで、李延年と対等の立場にまでなってくれてんだっ!)




名前と身分を交換したとはいえ、世間は自分がそうなったと思うだろう。

名誉棄損もいいところだと思っていれば、義烈が声をあげて笑う。




「なるほどね~!やっぱり、あのガキが・・・・迷子の宦官とやらか。」

「義烈?」




怪訝そうに林山が聞けば、急に真面目な顔で義烈は言った。



「星影、俺に言うべきことがあるだろう!」

「は?」



聞いてくる声は、なにかを知っている口調。




「お前、安林山って義弟がいたな?」

「あ・・・ああ。」


核心を突かれ、ドキッとすれば、義烈と目が合う。




「さっきの宦官が、そうだろう?」

「っ!?」



まっすぐと、目を見ながら言われた。




(・・・・・やっぱり、バレたか・・・・・)




もしかしたら、バレるかもしれないとは思った。

否、星影を助けるために石を蹴りつけた時点で可能性は半分あった。

相手に、ごまかしがきかないとわかったので素直に言った。





「まさか・・・・あんなことになってるとは、思わなかったんだ。」

「たいした男前だな。」



渋い顔で言えば、鼻で笑われた。

これに玉蘭も目を見開く。



「どういうこと?」

「こいつの義理の弟が、迷子の宦官だ。」

「えっ!?」

「いやはや、世の中は狭くていけねぇ~ぜ。」



茶化すように言うと、グイッと杯の酒の飲みほしながら言った。




「星影よ、お前どうする?」

「え?」

「妹婿に、加勢してやるのか?」

「それは・・・」



(最初から、星蓮を一緒に助けるつもりなんだが・・・)



さすがに、そこまでは言えない。

しかし、肝心な点については言っておかなければならない。





「加勢じゃない。」


「あ?」



「俺は、加勢してもらう側だ。」


「・・・テメーが主役で、『事』を起こそうっての?」




鋭い目で睨まれたが、睨み返しながら言った。





「星蓮は俺の・・・・『妹』だ。」




俺が唯一愛している女性。



(―――――――――――俺だけの花嫁。)




「だから、星蓮は俺がとり返す。」




(他の誰にも渡してなるものか・・・!俺が、この手で、必ず、彼女を――――――!)




「家族思いだな。」



そんな俺に呆れながら笑う義烈。

そして、空になった杯に酒を注ぎながら告げる。




「二度と、勝手な行動はするなよ。」




それ以上も、それ以下の言葉もない。


二度と、今日みたいなことはするなと言ってるだけ。



「わかってる・・・!今日みたいな真似はしない。」


「頼むぜ・・・星影ちゃんよ。」



その言葉で、決まったようなものだった。


納得する俺達だったが、蚊帳の外で話を聞いていた美女は納得できていなかった。





「ちょっと、どういう意味なの!?」




バン!と机をたたくと、林山と義烈をにらみながら聞いてきた。



「あたしにもわかるように説明しなさいよ!どういうこと?星影の弟って・・・失恋して旅に出た人よね?」

「いや、それは・・・」



キレイな眉をへの字にして言う玉蘭さんに、俺が返事に困っていれば―――――





「婚約者追いかけて、宦官になってたんだと!」

「義烈!?」



代わりに答えてくれたのは義烈。



「婚約者目的で入ったはずが、皇帝と皇太子の暗殺を阻止しちまってたらしい!」

「はあ!?本当なの、星影・・・?」


義烈の言葉に、目を吊り上げ、心配そうに林山に聞く玉蘭。




「星影、本当・・・?」

「・・・ああ。」


(こうなったら、嘘を突き通すまでだ。)




「・・・義弟は、あの宦官は、義弟だったよ。」

「星影貴方・・・弟が宦官になったのを知らなかったの?」


「知っていたら、一緒に行動してる!!」


「それは・・・そうね・・・」


「まさか、まさか林山が・・・!宦官になっていたなんて!一目見て、まさかとは思ったが、あれは俺の弟だった!妹の婚約者だ!!」


「そう・・・」



必死に訴える林山を見た後で、目だけで義烈を見る玉蘭。



「義烈あんたは、いつからそのこと知ってたの?」

「馬鹿言え。しらねーよ。」

「天邪鬼!あんたが、依頼人のことをよく調べてないわけないでしょう?」

「俺は覗きに連れ出しただけだ。そこまでするほどでもない。」

「あら?実際は、大事になったじゃない?」

「口の減らねぇ女だな・・・」

「なんかあったでしょう?」



白くきれいな手を、義烈の顎へと伸ばす美女。

強引に掴んで自分の方へと向けさせると、玉蘭は形の良い唇を開いた。



「ふぬけてるわよ。なにかあったでしょう?」

「・・・・・・ちーとばかし、可愛い花を見つけたんだ。」


「「花?」」



これには、林山も一緒に聞き返す。




「花って・・・後宮の庭の花のことか?」


「馬鹿!女だ・・・・」



「女!?」



そう告げる目は、林山も玉蘭も見ていない。

どこを見ているかわからない眼のまま、静かに義烈は言った。




「いろいろと女を見てきたが・・・・あんなに将来有望な可愛い子は初めてだ。」

「はあ!?」

「義烈??」




首をかしげる2人をよそに、義烈は淡々と語る。



「最初見た時、ちょっと引き寄せられる程度だった。けど・・・廓で女を選ぶ時とは違う・・・!」

「な、なにが??」



首を傾げながら林山が聞けば、ふっと笑いながら侠客は言った。




「顔も体もだが・・・・あのくるくる変わる表情。魂のこもった声、あいつの一途な目を見ていたら・・・やられちまったみてぇだ・・・!!」


「だ、だから何にだよ!?」


「ははっ!この凌義烈様ともあろうものが・・・!女一人に本気で一目惚れしちまったってことだよ?」


「「はあああああああああ!!?」」



冗談じゃない告白を、冗談とは思えない顔と声でする凌義烈。

打ち明けられた内容は、あまりにも衝撃が大きすぎた。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!



大侠客の親分・凌義烈のまさかのコイバナです。

林山が星影を助けるのに夢中の間に、可愛い子にハートを射ぬかれたようです。

どうなっていくのか・・・続きます(笑)

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