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第百十二話 心の準備ができてない~星影編~


翌日、宮中は騒然となった。


皇太子が宮殿内で襲われたことで、重臣達は色めきたった。

中でも、皇太子が襲われた宮殿では、暗殺決行のために、無関係の宦官や宮女達が惨殺されたと言うことが多くの者達を震撼させた。


「恐ろしい・・・なぜ、立てつづけにこうも・・・?」

「現場には、あの宦官もいたと言うけど?」

「いやいや。あの宦官のおかげで、被害は小規模で済んだらしい。」

「馬鹿を言うな!あの宦官が来てからおかしなことが増えているのだぞ?」

「では、あの宦官が原因というのか?」

「わしは、それほど悪いとは思えないぞ。」

「いいや、私から見れば、雲散臭いぞ!」

「よせ。決めるのは陛下だ。」

「むむ・・・あの宦官は皇帝のお気に入りだったな・・・」

「やれやれ。肝心の陛下は、一体どうされる気だろう・・・」


あの宦官と言われているのは、安林山となっている劉星影のことだ。



(本当に・・・不自然だわ。)


噂の的になっている星影自身も気になっていた。



(林山が宮中に何らかの方法で入れたのはわかるけど・・・賊は?)



昨夜の会話で、なんとなく林山達が後宮御用達の商人などに化けたのがわかっていた。

それも、男女の営みに関することを専門とする商人だったらしいので、うやむやにされてしまっていた。



(男女の秘め事を暴かれて困る奴は多いからね・・・)



林山達はそれでいい。

しかし、皇太子を狙った連中はそうもいかない。


(賊は・・・あんなに大人数で、どうやって入り込んだんだ?)


前の賊は、陛下を狙った。

今度は皇太子・・・そうなると、敵の目的は、皇位を狙う輩なのかしら?



(内部に、共犯者がいたとみて間違いないか・・・)



しかし、星影にとって問題はそこではない。






「安林山よ、朕達親子の命を受けてくれるな?」


「それは・・・!」



星影の左右を重心が占め、目の前には笑顔の皇帝と皇太子がいた。


「朕としても、その方が心強いのだ・・・。」

「しかし・・・」


「お受けなされ、安殿。」


横から、穏やかな声で自分に言う相手が忌々しい。




「蔡将軍・・・。」




賊を倒した翌日。


・・・と言うよりも数時間後。


毒が残る体のまま、星影は陛下に呼び出された。

琥珀と空飛に肩を貸してもらいながら現れた星影に、陛下はそんな体でよくぞ息子を守ってくれたとねぎらう。




「見ているだけで、痛々しいのぅ!」

「はぁ・・・」


(だったら、呼び出すなボケッ!!)




正直、寝ていたいのが本心だが、賊に関することを話さなければいけない。

今回の暗殺未遂について、狙われた本人とその甥を中心として話が始まった。

琥珀と空飛は、事件に遭遇した目撃者ではあったが、関係者の中では一番身分が低いため、ほとんど発言を許されなかった。

そのため、皇太子と大将軍の話に、星影が言葉を付け足す形で語った。



「新手のようじゃのぅ・・・。」



話を聞き終え、しみじみと語る皇帝。

あまり、危機感を抱いているように思えなかった。



(変な人・・・)


普通なら、もっと大騒ぎしそうなのに、まるで他人事のようにしている。


それが星影の率直な感想だった。



「陛下、皇太子殿下。これを機会に、共をきちんとお連れ下さい。」


「わかっておる。」

「気を付けよう。」



霍光の言葉に、親子そろって答えるが、本当にそうするかどうか怪しいと星影は思う。


(まあ・・・それほど追求されないからいいか。)


初めて、家臣たちの前に連れてこられた時と違い、誰も何も私に声を上げない。

あの祭勇武でさえ、余計なことを言わない。



「父上。これ以上は、安林山殿の体に障ります。」

「うむ?それもそうか。」



最初と違って、こちらを気遣ってくれる人がいる。



「叔父上が敵と対峙している間、身を挺して私を庇ってくれたのです。」


(『私を』・・・か。)



林山達が引き上げた後、玲春は衛青の側近である張願が連れて行った。

皇太子の口添えもあって、自分の宮殿から抜け出したことは不問とされた。

どうして彼女が脱走したのか、星影はわからなかったが・・・



(きっと、私のことで平陽公主がいじめたんだろうな・・・)



自分を心配しただろうという考えにはたどり着かなかった。




(どこまで性格が悪いんだ、あの女は!)




むしろ、星影の中の皇帝の姉の評価を落としていた。



「どうした、林山?急に思いつめたような顔になって・・・?」

「い、いえ!お気になさらず、陛下!」


(お前の姉のおかげで、そういう顔になったんだけどな。)


愛想笑いをして答えるが、皇帝が何か言う前に別の声が言った。


「気疲れもあるのでしょう。初めてお会いした皇太子殿下の手前、緊張もあったのでは?」

「衛青将軍!」

「陛下のお許しも出た・・・。ゆっくり休みなさい、安林山殿。」

「は、はい!」


少しずつ、わかってきたことがある。

衛青将軍は無表情だと言われているが、ちゃんと表情は変わっている。

未だって、少しだけ笑っている。

笑顔でいる。




(私だけに向けての笑顔・・・!)




緩みそうになる顔で衛青将軍を見ていたら、急に視界から彼が消えた。



「あれ?」

「いつまで眺めておる。」



目の前にいたのは男前の中年。



「へ、陛下ぁー!!」

「ひっ!?き、今上がこんなお側に・・・!」



これで、星影が驚き、彼女を支えていた空飛が頭の上で合唱しながらひれ伏した。

琥珀に関しては、微動だにせず頭を下げたままだ。



「い、いつの間に・・・!?」

「衛青!!」



驚く星影の前で、皇帝は大将軍の名を呼ぶ。


「さっさとさげれ!宮中の死体を何とかせよ!」

「はい・・・かしこまりました。」

「そなたがついていながら、これほど被害が大きくなったのだ!もっと引き締めよ!」

「えっ!?」


(衛青将軍のせいって・・・!?)


「あ―――――――!」


あれは衛青将軍の責任ではありません!

そう言いたかったが、


「・・・・危ないぞ。」

「えっ!?」


側にいた琥珀が、耳元でそうささやく。


「今は、黙ってるんだ・・・!」

「な、なに・・・?」



意味は分からなかったが、琥珀が危ないと言う時はそうなのだと思えた。

だから、言いたいことを我慢して静かにしていれば、皇帝がこちらへと振り返った。


「林山、手を貸してやろう。」

「ええ!?い、いいです!いりません!!」

「ほお・・・衛青が運ぶのはよくて、朕は嫌だと言うのか・・・!?」


その言葉で、小さくざわついていた声が止まる。

冷たく凍り付く空気。


(な、なに?なんなの?)


変化した周囲に星影も気づくが、それどころではない。



「朕自ら、運んでやろうと言うのだ。不服か?」

「不服ということでは~」


(勘弁してくれ。)



ただでさえ、隙があればいやらしいことをしようという最高権力者。


(このジジイ・・・自分が皇帝なのを良いことに、だれでも自由になると思うなよ!)


相手の真意を見極めるよりも、ここはどうやって皇帝の魔の手から逃れるかが星影には重要だった。



「嫌なのか!?答えよ、安林山!?」



それもあって、怒鳴る皇帝に林山は穏やかな顔を作りながら短く言った。



「嫌です。」

「なにっ!?」

「り、林山!!」



ニッコリと笑顔で言う星影に、皇帝も家臣達も友達もぎょっとする。

これで顔を赤くした皇帝が、声を出す前にもう一度言った。




「陛下が襲われでもしたら嫌です。」

「・・・なに?」

「り、林山!?」



その言葉で、また周囲は騒がしくなるが、皇帝の顔から赤みが引く。


「・・・どういう意味じゃ?」


(かかった!)


相手が自分の話を聞く姿勢をとる。

これにしめしめと思いながら、星影は笑う。

そして、真横でガタガタ震えている空飛に気づくと、その頭を撫でてから言った。



「衛青将軍も陛下も、弱っている者に手を差し伸べてくださること、尊敬と敬愛の念を持って、私はありがたきことだと思っています。それゆえ、もう安全だと言われていても、先ほどの皇太子さまの礼があるゆえ、陛下の身を思えばこそ、お許しいただきたく存じます。」



にこやかに言う星影に、皇帝の目が丸くなる。

それは空飛や他の者達も同じで、しばしの沈黙のうち、皇帝の声から笑い声が上がった。




「はーはっはっはっ!!そなた、まことに大した肝よ!!」




そう言うと、顔色の悪い星影の顔を手で触りながら言った。



「よかろう。そなたに免じて、この件は不問にしよう。」

「はい、ありがとうございます。」


(ちょろいもんだぜ!)



これで性的嫌がらせは回避できた。

ただでさえ、男のふりをしているので、バレるような危険は避けたい。



(まぁ・・・いざとなれば、李延年を利用しよう。)


陛下に二人きりで状態を誘われた時に、その情報をわざと李延年に教えればいい。

絶対奴は、邪魔しに来てくれるはず。



(陛下の愛妾・男部門で一番だからね~期待を裏切らない、嫉妬の炎で動いてくれるわ~)



本物の林山が聞けば、「お前にとって、最高権力者とその愛人は道具かよ!?」と言うかもしれない。



(すべては、星蓮のため!文句は言わせないわよ~林山!?)


どっちにせよ、私は李延年とは馬が合いそうにない。


(それは無効も、同じでしょうに・・・)


目だけで皇帝の男寵を見る。

そとにいたのは、口元をゆがめながら自分をにらんでいる林延年の姿。


(・・・素晴らしい歌声を持つとは聞いてるけど・・・腹の中は美しくない・・・)


早々に視線をそらせて知らん顔する。

そんな星影の動作に気づかない皇帝は、お気に入りの安林山を抱き寄せながら言った。


「朕の身を案じるそなたの気持ちは意地らしい!愛い奴じゃ・・・」

「ちょ!?人前ですよ!?おやめください!陛下の評判が下がりますよ!?」


人目もはばからず接してくる男に、本気で拒む星影。

それさえも、謙虚と思ったのだろう。

皇帝はなおも言う。



「うんうん。そこまで朕が好きか~」

「あの、恥ずかしいので、顔を触らないでくださいませ・・・!」

「よしよし、今度ゆっくり話すとして・・・」


腕の中の星影の頬を愛おしく撫でながら、皇帝は告げる。



「前は少し自重してもらうぞ、衛青!」

「へ?」


(自重??)



そう言って衛青へと向けた劉徹の表情は厳しかった。


「あまり、出過ぎた真似をするでないぞ!わかっておるな・・・!?」

「・・・・・この場を持って、以後気を付けます。どうか、お許しを・・・」

「まったく・・・!お主は、身分が上がってもその性格だけはどうにもならぬな!」


吐き捨てるように言うと、再び星影に視線を戻すと優しく告げる。


「林山、よくよく養生するのであるぞ。ほしい物があれば、なんでも言うて参れ。」

「は・・・はあ。」

「またな、林山。」


どこまでも甘い顔で言うと、星影から離れる皇帝。

これに重心が続き、美貌の李延年も付き添う。

すぐに、皇帝の近くを確保すると、星影の方をにらんでからそっぽを向いた。

こうして、劉徹が去った広間は、残った家臣たちの胸をなでおろす音だけが響き渡った。

特に、星影の隣にいた宦官がそうだった。


「ふ・・・ふぇえ・・・!じゅ、寿命が縮みました・・・!」

「空飛。」

「り、林山~!あなた、今迄どれだけ修羅場をくぐってきたのですか~!?」

「はあ?なんだ急に・・・?」

「だって、今のやりとり見たでしょう?」

「・・・なんのことだ?」

「え!?わかってないんですか!?」


空飛の言葉に、素で首をかしげる星影。


(何があったていうんだ?)


「どういうことだ、空飛?」

「ですからね、林山!陛下が衛青大将軍へおっしゃったことは、はどう考えても~」

「空飛!」


何か言おうとした友を、ずっと静かにしていた琥珀が制する。


「反省会は、部屋に戻ってからだ。林山の体にも障る。」

「あ、すみません!そうでしたね・・・」

「いや、俺は別に構わ・・・」

「かまった方がいいよ、林山。・・・・・・・・こちらを見てる者が多い。」


その言葉で、周囲を見渡せば、多くの者が自分から視線を逸らした。



「・・・・・・・・俺、またまずいことを言ったのか?」

「いいえ。あれは、陛下が大人げないのだよ。」



ばつが悪そうに聞けば、上から声がかかる。

振り返れば、苦笑いしている少年がいた。



「劉拠皇太子殿下!!」



先ほど、過激な初対面を果たした皇帝の嫡子だった。


「こ、これは、失礼を――――」

「あ、よいよい!楽にしなさい。」


慌てて姿勢を正す星影達を、手で制しながら皇太子は言った。


「疲労困憊の体に無理をさせる気はないが・・・林山。」

「はい。」

「よければ、私のところへ立ち寄らないかい?」

「へ?」


わたしのところって―――――――・・・・!?


「こ、皇太子殿下のところにですか?」


突然の申し出に、丸くした目で相手を見れば少年は笑う。


「そうだ。今、医者が来ていてね。きっと君の症状に合う薬を調合してくれると思うのだよ。」


(医者が来てる・・・?)


「医者ということは・・・皇太子殿下、お体が悪いのですか?」


心配になって聞けば、手を横にふりながら劉拠は言った。



「私ではなく、母だ。」

「母上様が・・・・?」

「そうだ。せっかくだから、私の母を見舞っておくれ。」



そう言って差し出された手に、星影だけでなくその場にいた全員が驚く。

慌てる周囲をよそに、その手と少年の顔を見比べる星影。


(・・・・陛下側から星蓮の情報を得るよりも、皇太子側に取り入った方が操も身も安全かもしれない・・・)



「・・・・ありがたきお言葉、謹んでお受けいたします。」



打算もあって、皇太子の手を取って微笑む星影。

それで周囲はさらに騒ぎ出し、両脇の友も固まってしまった。



「ならば、参ろうか。王琥珀、張空飛。安林山殿を借りるぞ。」

「・・・御意に。」

「ひゃ!?あっ、はうう、は、はい!!」



こうして、皇太子に手を引かれ、彼の護衛に囲まれ、ふらつく足取りで友達から離れる星影。




(そういえば・・・皇太子殿下のお母様は、衛青将軍の姉君よね!?)


あの人のお姉様って、どんな人なんだろう!?



そんな気持ちで歩いていれば、不意に強い視線を感じる。

思わず、そちらを目だけで見れば、男がじっとこちらを見ていた。


「・・・衛青将軍・・・?」


彼は、すぐに視線を逸らしたが星影はに落ちない。



(・・・どうして、あんな悲しそうな顔をしていたのかしら・・・?)



意味は分からなかったが、それだけが妙に心に引っかかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


あまり好かれたくない陛下に、息子を助けてくれたと言う理由で、また好かれてしまった星影です。同

時に、陛下と衛青の微妙な空気、皇太子からのまさかのお誘い、衛青の悲しそうな顔の理由とは一体?

良かったら、次回も読んでやってください。




※大丈夫だとは思いますが、誤字脱字がありましたら、こっそりお知らせください・・・!!※

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