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第百八話 鬼が出るか蛇が出るか

穏便に終わりかけた舞台は、新たな登場人物のおかげで蒸し返りつつあった。


「遅くなって、すまない林山!」


現れたのは、同じ高級宦官の王琥珀。

何か訳ありで宦官をしているらしい、本名を【伯燕】という人材。

裏も表もある友の登場に、狼狽しながら星影は問う。


「こ、琥珀!どうしてお前がここに・・・!?」

「君を・・・皇太子殿下と衛青将軍をお助けするためにきたんだよ・・・!」


そう言いながら星影に近づくと、荒い呼吸を整えながら琥珀は言う。

その後には、あまたの兵士達が続く。


「劉拠皇太子殿下、ご無事で何よりです!」

「衛青将軍!只今馳せ参じました!」

「ど、どうなってるんだ・・・!?」


口々に、安堵しながら言う宮中の猛者達。

そんな星影に、呼吸の整った琥珀が告げる。


「林山、君は知らないが・・・衛青将軍と共に君が部屋を出た後、魏忠殿が訪ねてきたんだ。」

「魏忠殿が?私をか?」

「そうだよ。紅嘉殿のことで、安林山に面会を求めて・・・」

「紅嘉のことで・・・私に?」


(心当たりはないが、新しい飼い主になった私への忠告でもあったのだろうか?)


「でも本当によかったよ。やっぱり、林山と一緒にいたんですね、玲春殿。紅嘉殿も?」

「へ?」

「あ・・・」

「ガルゥ。」


星影を見ていた眼が、大将軍の後ろで小さくなっている女性と猛獣の側へと向かう。


「玲春殿、魏忠殿から聞きましたよ。真夜中に自身の宮殿を抜け出すなど・・・いくら平陽公主様付きのご贔屓の侍女とは言え、罰は免れませんよ?」

「おい、琥珀!?」

「・・・わかっております。お咎めは――――――」

「咎などない。」


硬い表情で言う玲春の言葉を、低い声が遮った。


「王殿よ。玲春は罰を受けるようなことはしていない。」

「衛青将軍!」

「旦那様!?」


言ったのは、玲春の使える主人の夫。

無表情のまま、目だけで琥珀を見ながら言う。


「いくら衛青将軍の奥方で、陛下の姉君・平陽公主様お気に入りの侍女とは言え、よからぬ前例を作るのはいかがなものかと思いますが?」

「よからぬことを、玲春がしたというのか?」

「自分の宮殿を抜け出すことは、硬く禁止されているはずです。」

「それが、そなたたちの勘違いだ・・・先の一件で、玲春が安林山殿ことを心配していたのだ。それゆえ、私が連れてきた。」

「旦那様・・・!?」

「すぐ戻るつもりだったから、妻には言わずに来てしまったが・・・まさか、厠に行くと言って離れたのち、なぜか小虎付きで戻ってきたのには驚いたがな。」


そう告げて、紅嘉の頭をそっとなでる武人。

ごつごつとした手の感触に、紅嘉は目を細めると、喉を鳴らしながらすり寄り始めた。


「この通り・・・この子は人懐っこい。武人の私にも懐くのだから、心優しい玲春にも懐くであろう・・・」

「ガウ!」

「旦那様・・・!」

「衛青将軍・・・!」


彼にしては、長く話した内容に、事情を知る星影達は感動する。


(なんてお優しい、衛青将軍!一生ついていきます!)


現実的には不可能なことを思いながらも、憧れの将軍への尊敬がますます深まる星影。


「では、衛青将軍が連れ出して、一緒に巻き込まれたというのですか?」

「疑うか?王琥珀殿?」

「いえ、衛青将軍がそうおっしゃるなら、それは真実でございましょう」

「琥珀・・・」


無表情の大将軍に、ゆっくりとした動作で恭しく頭を下げる琥珀。

そして、こうべを垂れた状態で、大将軍に守られている少年へと片膝をついた。


「改めまして、皇太子殿下、衛青将軍、ご無事でなによりです。」

「そなたが、安林山殿の友の王琥珀が?」

「お見知りおき頂き、光栄にございます。衛青将軍がなかなかお戻りになられず、案じておりましたところ、皇太子殿下もいなくなったと聞き・・・探しておりました。」

「そ、そうであったか・・・すまなかった。」

「劉拠皇太子殿下、みな、このように心配しておるのがわかったでしょう?これに懲りたら1人歩きはおやめくださいね・・・?」

「そんな!叔父上だって、1人だったではないですか!?」

「・・・私は具合の悪い者を運んでいただけです・・・」


拗ねる皇太子にそう告げると、横目で星影を見る。

目があった時、心地よい声で彼は言う。


「幸い・・・皆のように皇太子殿下を思うもののおかげで、窮地を脱することができた。礼を申す・・・」

「そ・・・!?」


(それって、私に言ってるんですか!?衛青将軍!?)


返事に困り固まっていれば、少しだけ機嫌の治った皇太子が口を開く。


「そうであったな。叔父上はもちろん、安林山殿には礼を言わねばならん。」

「皇太子殿下!」

「安林山殿だけではない。ここにいるみなの者も・・・私のために駆けつけてくれたことに感謝している。礼を言うぞ。」

「皇太子殿下。」


(この子はいい皇帝になる・・・)


少年の言葉に、星影は自然とそんな気持ちになる。


(公務はともかく、私生活では、今の皇帝よりもきちんとした男になる気がする・・・!)


何とも言えない存在感を漂わせる皇太子に、その将来が楽しみに思えて仕方ない星影。


「なんともったいないお言葉を・・・痛み入ります・・・!」

「皇太子殿下のためなら、我ら命は惜しくありません。」


劉拠の言葉に心打たれた兵士達が深々頭を下げる。

そして、頭を垂らしたまま彼らは言う。


「皇太子殿下、衛青将軍も、我らが来た以上、ご安心くださいませ!」

「皇太子殿下へのこれ以上の無礼はさせません!」

「そうです!不届きな曲者はどこですか!?」

「我らが成敗を――――――――!」


そう言いながら、星影達の側に駆け寄る後宮の者達の視線は、自然とある二人へと注がれる。


「・・・ん?」

「あれ?」

「お?」


兵達の様子に、星影、林山、義烈が疑問符を浮かべた時、彼らの目の色が変わった。



「「「「怪しい奴!!」」」」

「え?」

「そこの黒衣の2人、何者だ!?」

「えっ!?」

「貴様らか!?不法侵入者は!?」

「以前の賊の生き残りか!?」

「お前らが皇太子様達を狙ったんだなぁ~!?」

「「ええ―――――――――!?」」


((う、嘘でしょぉ~~~~~~~~!?))



予想外の展開に、同じ気持ちで固まる星影と林山。



((俺達が!(林山達が!)賊扱いされてる―――――――!?)



「これはなんと、運がいい・・・・逃げ遅れた賊が残っていたとは・・・!」

「ちょっと琥珀!?」

「探す手間が省けたな・・・捕まえろっ!!」


「え―――――――――!?」」




援軍の反応に、狼狽する星影と皇太子。


「だ、旦那様!」


これに、口元を抑えた玲春が戸惑いながら主人の夫を見る。

それを受け、言葉少ない武人はすぐに反応した。


「みなの者、しばし待て!そこにいる2名だが・・・」

「ご心配には及びません、衛青将軍!」


衛青が言い切る前に、その言葉は彼の部下達にかき消された。


「ここは、我々にお任せ下さい!」

「そうです!大将軍と皇太子殿下様はこちらへ!」

「おい、早くお二人を安全な場所にお連れしろ!侍女殿もだ!」

「え!?う、うっわ!?」

「お、お放しくださ・・・!きゃああ!」

「ああ!?皇太子殿下!玲春殿ぉ!」


抵抗する間もなく、少年少女は衛兵達によって、守られながら遠ざかっていく。


「皇太子殿下を守れ!」

「ご婦人も守れ!」

「衛青大将軍をお守りしろ!」


そう口々に言うと、数人がかりで衛青の体を覆う彼の部下達。

これに、口元をへの字に曲げながら衛青は抗議する。


「待て・・・!私はいいから、皇太子殿下だけを――――」

「ガルル!」

「うっ!?」

「紅嘉!?」


なんとか部下達を引き離そうとする衛青の体に、巨体を誇る子猫が覆いかぶさる。


「紅嘉ぁぁぁ!?なにしてんだっ!?」

「グル!ガルル!」

「将軍が!衛青将軍が襲われている!」

「いや――――――!?あれは違う!」


一瞬そうかと思って顔をしかめた星影だったが、紅嘉の仕草を見て気づく。


(まさか、こいつは――――――!)


「みんながしていることが遊びだと思って、衛青将軍にじゃれているっ!!」

「ええ!?」

「はあ!?」

「ガルウウ~」


その言葉にギョッとする一同をよそに、小虎は楽しそうに泣くと、ペロペロと衛青の顔をなめはじめる。


「・・・懐かれたと・・・言うのかい、林山?」

「ああ・・・あれは絶対、遊んでるだけだ・・・」


琥珀の言葉に、顔をひきつらせながら答える星影。


(このクソガキ!私だって、衛青将軍には、軽々しく触れられないのに~!)


「動物の立場を使って、上手いことしやがるじゃねぇか・・・!」

「ああ、林山の言う通りだ。見事な策。」


文句を言う星影の言葉を褒めると、琥珀は大声で言った。


「兵の皆様、紅嘉が抑えているに衛青将軍も安全な場所へ!このすきに、衛青将軍の傷の手当てを!」

「え!?」

「なに!?おお、言われてみれば・・・」

「本当だ!怪我をされているではありませんか!?」

「ま、待て・・・・!私に構うな・・・!」

「無理はいけません!医者を呼べ!早くしろ!」

「傷口に、毒など受けているかもしれないぞ!」

「私よりも、あの2人は――――――」

「ガルル~!」


弁護しようにも、献身的な部下達が・・・人間よりも重たい猛獣が乗っかってきて動けない。


「よくやった、紅嘉殿!」

「そのまま、衛青将軍をこちらへ!」

「我らの大将軍を守るぞ!!」

「ま、待たぬか・・・紅嘉も、どきな・・・!」

「ガルゥゥゥ~!」


あっけにとられる星影の前で、元々口数の少ない男の声も姿も遠くなっていく。


「衛青将軍!もっと大きな声を出さないと聞こえないと思われますっ!!」

「ガァア~」


その様子に、普段から感じていたことを星影が言うが彼には届かない。

完全に虎の楽しそうな声にかき消されてしまった。


「紅嘉!あの野郎~!」


原因を取り除こうと思って駆け寄ろうとすれば、ふいに肩を強くつかまれた。


「林山、君も来い!ここは危険だ!」

「琥珀!?なにするんだ、離せ!」

「離せないよ!・・・・林山はわかっていないかもしれないが、君は毒も抜け切れていない体なんだぞ?」

「そ、それはそうだが――――・・・!」

「あまり心配かけさせないでくれ。」


そう告げると、星影を自分の後ろに隠しながら琥珀は叫んだ。



「賊が2名残っている!早急に捕えてくださいませ!」

「「「おうっ!!」」」



琥珀の言葉で掛け声をあげる兵達。


「待ってくれ、琥珀!」


とんでもない指示を出す友に飛びつく星影。


「誤解だ!待ってくれ、琥珀、みんな!」

「誤解だと?」

「そうだ!」


静止を呼び掛ける星影の言葉に、琥珀が聞き返す。

そんな相手に星影は言った。


「あの者達は賊ではない!」

「なにを言ってるんだ、林山?」

「賊ではないと言ってるんだ!賊だと誤解しているが、あの者達は――――」

「・・・ああ、そういうことか。」

「え?」

「わかったよ、林山。」


星影の弁解に、意外とあっけなく従う琥珀。


「君の言いたいことが、わかったよ。」


(わかってくれたの?)


そう思ったのもつかの間だった。



「賊ではなく、刺客ということだね。」

「なんでだよ!?」



あまり変わらない違いを口にする相手に、額に青筋を浮かべながら怒鳴る星影。

これに落ち着いた口調で琥珀は返事をする。


「意外なところで細かい君のことだ。賊は盗品目的、刺客は命目的だから、この場合は刺客と言った方がいいんだったね?」

「お前が細かすぎるんだよ!なにそれ!?わかってねぇよ!全然わかってない!!なんで刺客!?呼び方が変わっただけで同じだろう!?」

「いいから、病人はさがっていなさい。後は、兵達が始末をつけてくれる!」

「始末!?捕えるんじゃなかったのか!?」

「彼らが大人しく捕まるとは思えないだろう?」

「はあ!?な、何する気だよお前!?」

「私ではない。彼らだ。」


武装した兵達を横目に、琥珀は冷静な琥珀。


「これは兵士の領分だよ。」

「だ、だったら、兵士より上の方がさばくべきだろう!?」


そう告げると、琥珀の後ろへ、最後の頼みの綱へと視線を向けながら星影は言った。


「だ、大将軍を差し置いて、琥珀がそんなことはできないぞ!皇太子様もいらっしゃるのに・・・」


止めてくれそうな人たちへと助けを求める。



「皇太子殿下!私が捕えるのは、武官の方々に失礼ですよね!?」



まだ、視界に映る少年に言えば、相手も応じてくれた。


「ああ!安林山の言う通りだ・・・!勝手な真似は許さぬぞ!」

「なにをおっしゃいます、皇太子殿下。」


見かねた劉拠が庇おうとすれば、真面目な顔で琥珀は言う。


「宮中に忍び込んだだけでも大罪なのに、この宮殿の人間をほとんど皆殺しにした輩ですぞ?」

「皆殺し!?」

「はい。あなた様を亡き者にするため、騒がれる前に皆殺しになったのですよ。私の友人の宦官、張空飛殿の知らせで駆けつけましたが、宦官のみならず宮女も多くが犠牲に・・・」

「・・・知っている。」

「皇太子殿下!」


その言葉に、青い顔で気丈に彼は答えた。


「私のせいで・・・多くの者が犠牲になったのは知っている。」

「皇太子様・・・!」


少年の様子に、側にいた少女が気遣うようにその身に寄り添う。

それを受けながら静かに彼は言う。


「私のせいで死んだのだ。それゆえ・・・無益な殺しはしたくない。」

「それは違います、皇太子殿下!他の者達が死んだのは、あなた様の責任ではありません!」

「安林山殿・・・」

「そうです、拠様。あなた様のせいではございません・・・!」

「叔父上・・・」

「左様でございます。すべては、あの者達の起こしたこと・・・」

「「はあ!?」」

「って、琥珀!?」


そう言いながら、本物の林山を指さす琥珀に星影はギョッとする。

それは林山達も同じだった。


「おいおい、俺達のせいにするなよ!?」

「そうだな。どっちかというと、味方なのになぁ~この恩知らず共め~・・・!」

「逃げ遅れた賊が、なにを見苦しい言い訳をする・・・!?」


本気で林山が弁解するが、横にいる義烈が茶化すことで説得力は軽減する。


冗談じゃない!


(片方はともかく、もう片方は私の親友で弟よ!)


それを補うため、星影は訴える。


「馬鹿なこと言うなよ!」

「林山!?」

「そんなことさせないぞ!彼らに手を出すな!」

「なんだと・・・!?」

「安林山殿・・・!」


驚く琥珀と衛青たちの前で、星影は動いた。


「彼らに手を出すことは、この私が許さない!」


そう宣言すると、本物の安林山達と琥珀達の間に割って入る星影。

林山を庇うように、琥珀の前で両手を広げて行く手を遮った。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!



小説の内容ですが、琥珀の登場によって、林山&義烈が完全に賊扱いをされます。

みんなの前で、林山達を必死でかばう星影ですが、この行為が吉と出るか凶と出るか・・・です。


次回も続きますので、興味のある方は読んでやってください。





※ないとは思いますが、誤字・脱字・変換ミスがありましたら、ご一報いただけるとありがたいです。ヘタレですみません!!!※


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