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第百七話 臭い者に蓋ができない



今更ながらに聞いてくる相手に、星影の神経はさらに鋭くなる。


「・・・・だったら、なんだ?」


(なんだこいつ?どうして、誰でも知ってるようなことを聞いてくる・・・!?)


腕だけではなく、口も達者な男。

さっきのはしたない攻撃も思い出されたので、目だけで睨んでいれば言われた。


「すごいな、お前?彗星のごとく現れ、皇帝様の寵愛を得ちまうなんてよ?宦官なんぞ、媚び売ることが仕事だと思ってたんだがな?」

「お前のその考え方は偏見だぞ!?外の世界に善悪があるように、宦官世界も同じ事・・・!」


そう、李延年のようなバカもいれば、空飛のような優しい子もいる。


「同じ人間に、何の違いがある・・・!?」

「それもそうだな。」


笑った相手にすごみながら言えば、あっけないほど相手は折れた。


「なに?」

「陰陽と同じで、男がいれば女がいる。善人がいるから、悪人がいる。夜がなくならないように、昼もなくならない。ついになる両方があってこそ、成り立つ世界だ。」

「貴様・・・」



(・・・思っていたよりも学がある?)



内心失礼なことを想いながら凝視すれば、元のように人を馬鹿にした笑みを作りながら義烈はつぶやく。


「まぁ・・・宦官で生きてくなら、馬鹿正直はやめた方がいいぜ。若けりゃ花だが、年を取れば哀れなもんよ。」

「ずいぶん、私の心配をしてくれるのだな・・・?」

「おりゃあ、親切な人間でもあるからな。大体、陛下がくれるって言うなら、宝石でも象牙でも、貰っちまえばいいんだよ。断るか、普通?」

「私は、宝をもらうために来たわけではない。それ以前に、あれは陛下宛に献上されたものだ。盗人のような真似が・・・!?」


そう言いかけて、ハッとする星影。



(・・・『陛下がくれるって言うなら、宝石でも象牙でも、貰っちまえばいいんだよ。』だと?)



気づいた矛盾に、星影は男に問いかけた。



「・・・では貴様は・・・・あの時、私が陛下から象牙を受け取るべきだったと言いたいのか・・・?」

「相手は、象牙の彫刻がされたお車に乗ってんだぜ?少しぐらい下賜されても、困りはしないだろう。」



慎重に聞けば、不敵な笑みでニヤリと笑い返す男。

それで確信した。




「なぜ、貴様がそれを知っている・・・?」




皇帝陛下を暗殺者から救った後、改めて謁見して二人きりで会った時。

皇帝は、先に渡した金品だけでは足りないと言って、水晶や毛皮、象牙などの宝物を星影に渡そうとした。



「あの時・・・陛下が私に象牙を下賜するとおっしゃった時、周りには誰もいなかった。」



後から、空飛と琥珀と再会し、李延年なる面倒な宦官とも言葉を交わしたが――――



「なぜ・・・象牙だと、品物を特定できる?具体的な話の内容を、貴様が知っている・・・!?」



仮に、李延年が潜んでいて話を聞いたとしても、そこに争点を置いてよからぬ噂を流すだろうか?


(私が林延年ならば、賊から陛下を救ったという点であら探しをする。)


陛下にどんな宝物をもらったかなど、蹴落とすための材料になるか?

品物まで、こと細かく、話すだろうか?



(長年、噂をされてきた身からすれば、どんな小さいことでも、人の揚げ足を取ろうと言う奴いは多い。だけど――――――)



「悪意がないぞ・・・」

「ん?」



険しい顔でつぶやく星影。

自分の一言一句に目を細め、頷くようにこちらを見る男に星影は強く思う。



(こいつの話には・・・悪意が足りない。)




「宮中の連中が言っているのは、私が霍去病の再来だということと、陛下に気に入られているということばかり・・・!」




人が人に話を伝えるうちに、どこかで尾ひれがついてしまう。

あるいは、はぶかれてしまう。

宝物にかかわる話など、嫌な元同僚を追い返す際に投げたことを陰でいろいろ言われているのは知っている。



(それを聞かずして、象牙の話を――――――)



陛下と2人だけだったとしか思えない場所でのやり取りを。




「なぜ、外から来た貴様がそこまで知っている・・・!?」




いくら話が大きくなったとはいえ、宮中の話が外部に漏れるには時間がかかる。

貰たとしても、片言の美談だけ。

それが誇張されて広がるだけど。

面白おかしく流れるのが噂。


それなのに―――――――――



「貴様が知っているはずなどないことを―――――・・・!?」



(仮に、こいつが林山の言うような裏社会に通じて、情報収集が長けていたとしても―――――――――!)



口で利く前に、先に頭が動いた。

聞かされた話が思い出される。



“ある男に会ったんだ。・・・男の名前は凌義烈。”


“『百面夜叉の義烈』っていう通り名で知られている、裏社会を取り仕切る男だ。”


“正確には、悪党共の元締めらしいがな。”


“聞き込みをしててな、偶然出会ったんだよ。”




林山から聞いた凌義烈の情報が、一気に星影の頭に流れる。



(偶然出会った・・・?)



おかしい。



(あまりにも、ここまでの展開がうますぎる・・・!この男との出会い方、普通はあり得ない!こんな偶然、ありえるわけが――――――!)




そんな思いと共に、星影の心の中に疑問が生まれる。




何故、こいつが私の名前を知っているのか?

―――きっと、林山が話したから。



何故、こいつが私を安林山と特定できたのか?

―――衛青将軍たちが、そう呼んでいたから。



何故、こいつは、陛下が私に象牙を下賜しようとしたことを知っていたのか?

――――――林山にも、そこまで話していないのに?




(林山が、話せるはずがない。)




だとしたら、答えは一つ。




(『百面夜叉の義烈』という名で、裏社会を取り仕切っている男ならば―――――”





「貴様は危険人物だ・・・!」




背筋に走る冷たいナニカ。

グッと、義烈にあてている拳に力を込めれば、楽しそうに口元をゆがめる男。



「お褒めに預かり光栄だ。会いたかったぜ~林山ちゃん?」


「私は、会いに来てくれなど頼んでいない・・・!」



(こいつ・・・林山から聞いた話以上に、厄介な相手だな・・・!)



いいや、厄介ではなく、性質が悪い。



(本当に危ない奴を連れてきてくれたわね・・・)



私にも、あなたにも、私達にも、必ずいいとは言い切れない。


(林山のためにも、星連のために、私のためにも、この男はこの場で倒した方がいいかもしれない―――――――――――!!)


林山が、彼自身が見込んで連れてきた人かもしれないけれど―――――――



(妹の幸せには代えられない!!)



すぐ側にある散乱している武器。

それを足で踏み、飛び上がってきたところを手に持つ。

そんな星影に合わせるように、義烈も残していたらしい手裏剣を手にして構えた。



(星蓮のためなら・・・私は人だって殺せる・・・!)



そう腹をくくって、静かに殺気をにじませた時だった。






「お前達、もうやめろ!」




その声は、星影達に向けてかけられた。



「え・・・!?」

「星影?」


(林山!?)


言ったのは、劉星影と名乗っている安林山だった。

彼は険しい顔で、足音を大きく鳴らしながら二人に近づく。

そして、星影と義烈を目だけでけん制したままきつい口調で言った。


「双方、そこまでにしてもらおう!」

「あんだよ、邪魔するんじゃねぇーぞ!それとも、オメーも戦いたいのかよ?」

「その通りだ。まったく、どういう感覚をしてるんだか・・・少しは状況を見て判断しなさい。」

「そのセリフ、そっくりそのままお前らに言ってやるよっ!!」


シラケる義烈と、真面目な星影に、林山は心底呆れながら告げる。



「これ以上・・・ここで、このように争っていいのか・・・・!?」

「え?」

「あん?」


その言葉で林山を見返せば、どこか怒っているらしい眼が語りかけてくる。



限られた時間しか、宮中に入れないこと。

身代わりで宮中にいるのに、これ以上目立っていいのかということ。




「こんなことをするために、ここにいるわけじゃないだろう・・・・・・・・!?」




―――目的を忘れるな―――




いろんな意味を隠した言葉と、真摯な瞳。


そうだったわね。


(私が宮中に宦官としてきたのは、妹を助け出すため・・・。)


離れた場所から発せられる気配に、意識を向けながら星影は思う。


(凌義烈なる人物が完全には信用できないことはわかった。しかし、ここで何かするのは私に不利だ・・・。衛青将軍や皇太子殿下の手前・・・ここで宦官らしくない武術を見せるわけにはいかない・・・)


自分を見つめている皇太子に女官は騙せても、大将軍までは誤魔化せない。

目だけで義烈を見れば、つまらなそうな表情をしていた。

しかしその目からは、闘争心は消えていた。

同じ単語でも、2人の受け止め方は全く違っていたが――――



「わーてるよ!」

「・・・・。」



義烈と星影の行動は同じだった。

林山の真意を察すると、二人は殺気を収めた。

林山の言葉に義烈は悪態をつき、星影は無言で殺気を沈めたのだ。


「相棒にそう言われちゃ、手を引くしかないか。」

「ぎ・・・あ、相棒。」

「命拾いしたな、宦官ちゃん?」

「・・・お互い様だ。」


義烈も星影も、多少言葉にとげはあった。

しかし、きつくにらみ合った後で、それぞれ相手に向けていた拳をゆっくりと下ろして離れてくれた。

喧嘩をやめてくれた星影と義烈に、ほっと胸をなでおろす林山。

どちらにしても、ここで争っても無意味なこと。

二人の気持ちが静まったところで、この様子を傍観していた者達に向かって林山は言った。



「衛青将軍、皇太子殿下、無礼を承知でお願い申します!我ら二名、わけあってこのような成りでこの場にいる者でございますが、決して怪しいものではございません!」

「・・・顔を隠しているのにか?」

「俺は隠してねぇだろう!どこかの玉無しに剥かれちまって、このざまですけどー?」

「貴・・・!」

「黙っててくれ!」


星影の声を遮りながら注意すると、林山は言った。


「お疑いと、おっしゃることはごもっともです!ですが、私達には借りがございましょう?」

「借り?」

「皇太子殿下がご無事なのは、我らの助太刀あってこそではござませんか?」

「・・・!」

「ちょっと!」


(なんてこと言うのよ、林山!?)


義弟の言葉で、林山に近づこうとした星影を、衛青が渋い顔で制す。


「・・・よしなさい。」

「衛青将軍!」

「そう大口をたたく、そなたたちの要求は何だ・・・?」


渋い顔のまま聞く衛青に林山は言った。


「はい、我らの望みはただ1つ!この場をお見逃し下されば、貸し借りもこの場でなくなりましょう・・・・!」

「恩を着せるか・・・?」

「近頃、陛下が押していらっしゃる儒教でも、恩を返すのは当然であると教えていると聞きました!将軍筆頭の肩が、知らぬはずはないことを、ないがしろにしてよろしいのでしょうか?」


大将軍を見つめながら言えば、いつの間にか隣に来た侠客が嬉しそうに言う。




「やるじゃねぇか、お前!賢くなったな?」

「どこがだ!?卑怯だぞ!」




義烈の言葉に星影が怒鳴る。



(私の知ってる林山はこんな子じゃなかった!それが、少し合わない間にこんな風に・・・!!)



「どこでそんな悪知恵つけたのよ!?どこで!?」

「悪知恵って・・・」


(お前にだけは言われたくないぞ、星影・・・・)



そんな思いで目だけで星影を見れば、鋭い彼女はそれに気づいて林山を睨む。



(林山っ・・・・何が言いたい・・・!?)


(やばいやばい。)




慌てて視線を元に戻すと、自分を見つめたままの武人に言った。


「我々は、敵ではございません。もし敵ならば、お守りなどしません。」

「・・・・信用は出来ない。」

「叔父上・・・」

「信用させておいて、裏切ると言う輩を私は何人も見てきた・・・」


そう語る眼は、何も映していないような虚無へと変わる。


「ここで貴様らを見逃せば、私が後悔するかもしれない。」

「後悔させません。」

「他の者達も許さないだろう。」

「どうかこの場は、お見逃しを・・・!」


大将軍を見ながら、林山は手にしていた刀を土の上に置いた。


「・・・お主。」

「へっ!無抵抗だって示すのかい?」


林山の言葉に、大将軍も相棒も呆れかえる。

しかし、次の義烈の行動で衛青は、侠客の親分にも呆れた。



「まぁ、それがわかりやすいよな。」



そう告げると、林山が置いた剣の上に、自信の武器である镖を放り投げた。



「貴様!?」

「俺も敵じゃぁないんだよ、宦官ちゃん?」

「・・・お前・・・」



片目を閉じながら言う相手に、星影の中の怒りも沈下する。



(どこで見つけたのか知らないけど・・・とんでもない大当たりね、林山?)



そんな思いで、親友をチラッと見てから、彼女も無言で武器から手を離した。



「安林山。」



それに気づいた衛青が声をかければ、軽く会釈をしてから紅嘉を自分の背後へと下がらせる星影。




「人の出会いは一期一会・・・貸し借りはない方がよろしいかと?」

「そなた・・・」


(上手いぞ星影!)




親友の助言に、真顔を保ちながら心で喜ぶ林山。

そんな義弟の心情を察し、星影も心の中で微笑む。



(・・・ここであなたに死なれたら、元も子もないからね?)



そう思いながら林山を見た後で、厳しい顔をしている武人を見る星影。

これで、異議を唱えるのは大将軍だけとなった。



「衛青将軍。」



訴えるように言えば、低い声で衛青は告げる。


「・・・私がそなた達の意見を受け入れれば、私の部下達にも示しがつかない。」

「衛青将軍・・・」

「だが、あいにくここに、私の部下はいない。」

「衛青将軍!?」



(見逃してくださるのか!?)



期待で頬が緩むのを我慢しながら、次の言葉を待つ星影と林山。



「私が決めることではない。すべては、皇太子殿下のお心のまま・・・。」


「皇太子、殿下?」



武人はそう告げると、立ち尽くしたまま、このやり取りを静観していた少年へと向き直る。



「この場で一番、重んじられるお方は劉拠様である。」



林山達に背を向けると、皇太子へとかしずきながら言う衛青。


「拠様・・・・。」


そんな叔父に、星影達のやり取りを見ていた皇太子が笑う。



「・・・ああ。私は何も見ていない。」



片膝つく叔父に近づきながら少年は告げた。


「私を助けてくれたのは、叔父上と安林山殿と玲春・・・だけだ。」

「皇太子殿下!?」

「それ以外は・・・黒いハヤブサが二匹、周りを飛んでいただけ。」

「拠様。」

「虎やハヤブサもいたので、賊も逃げて行った。そうであろう、安林山?」

「は、はい!」


その言葉で、決まったようなものだった。


「ありがとうございます、皇太子殿下!」

「こらこら、どうしてお主がお礼を言うのだ、安林山。」

「あ!いえ、その、感動して~」

「本当に、そなたは変わっているのだね?」


慌てる宦官に穏やかに微笑むと、その笑みをひそめながら皇太子は言った。


「話はまとまった。・・・去れ。」

「皇太子殿下・・・。」

「早く行くのだ。」

「はい・・・!」


真面目な顔で、どこか寂しそうに言う少年に林山は頭を下げながら答える。

義烈も、綺麗な姿勢でお辞儀をすると、星影達に背を向けた。



(林山・・・)


(星影・・・)



背を向ける直前、義兄弟の視線がぶつかる。



(星蓮を、必ず見つけてくれ・・・・死ぬなよ。)


(星蓮を必ず見つけるわ・・・死なないでね。)



目と目で短く語り合うと、完全な赤の他人となる星影と林山。

こうして男二人、そのまま立ち去ろうとしたのだが・・・





「皇太子殿下!」


「衛青将軍!!」




すぐ近くの壁が、大きな音を立てて崩壊した。



「なっ・・・!?」

「ええ!?」



突然のことに、そちらへ視線を向ければ・・・




「皇太子殿下、衛青大将軍、お助けに参りました!」




土煙が上がる中、完全武装した衛青の部下に、宮中の近衛兵。

そして―――――



「大丈夫かい、林山!?」

「琥珀!?」



同僚の王琥珀の姿がそこにあった。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます・・・!!


星影VS義烈の戦いは、義烈の闇の部分を見て終了となりました。

一方、本物の林山が見せた男気のおかげで、彼らの不法侵入は皇太子のお墨付きで許されましたが・・・タイミングよく、琥珀が助けに来てしまいました。

この内容を踏まえ、今回のサブタイトルは『臭い者には蓋ができない』です。


『臭い者に蓋をする』ということわざをもじっておりまして、意味は「悪臭を放つものを捨てることなく、その匂いを絶つために蓋をして一時しのぎをする。問題を解決しないで、一時的に隠す。」というものです。

話の中で、星影は義烈に対して危険なにおいを感じたのにそれを一時保留にし、皇太子と衛青も、男子禁制の宮殿に忍び込んだ本物の林山達の罪に目をつぶりました。

知らん顔『する』つもりだったのが、琥珀の登場で『できない』事態になったということで、『臭い者(林山&義烈)に蓋ができない(大目に見て許すことだができなくなった)』としてみました(笑)

もう少し、波乱が続く次項ですが、よかったら読んでやっってください(笑)




※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!

ヘタレですみません・・・(土下座)



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