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第百五話 買った喧嘩の行方

8月15日、終戦記念日、戦争で命をささげた、落とされた方々のご冥福を、心から願います。


大事に思う衛青に対する義烈の暴言。

我慢して聞いていた星影だったが、義烈の最後の一言で彼女の瞳孔が大きく開く。

星影の中の『なにか』が切れる音は、林山の耳にも空気を通して届いていた。


「やばっ!」


彼女から漏れる冷たい殺気。

親友の異変を感じた時、すでに手遅れだった。





「―――――――――――誰が奴隷上がりだクソッタレ!!」





雷鳴のような罵声を上げながら手にしていた剣を鞘から抜くと、鞘の方を義烈めがけて投げつけた星影。


「おっと!」


義烈はそれを余裕で交わすと、足元のがれきを数個、星影向けて蹴りつけた。



「馬鹿が!そんな攻撃当たるわけが―――・・・!?」



そう言ってかわそうとして、星影は気が付いた。


(私じゃない!)


進行方向が違う!


(狙いは私じゃない!?)


自分への攻撃ではないと気づき、急いで動きを変える。

誰に向けて瓦礫が投げられたのかわかったので、星影は声を上げた。



「皇太子殿下、玲春殿、危ないっ!!」

「えっ・・・!?」

「きゃ・・・きゃああ!?」



標的は皇太子と玲春だった。


「れ、れん様!!玲春!」

「衛青将軍!?」


星影の言葉に、狙われた2人よりも早く反応する武人。

危険を察した衛青が2人を庇えば、



「ガァアア!!」

「紅嘉!?」



星影に名を呼ばれた猛獣が、その身を盾にして3人を庇った。


「ギャウ!?ウウウウ・・・!!」

「紅嘉!!」


紅嘉のおかげで、人間3人は怪我をしなくて済んだ。


「衛青将軍、皇太子殿下、玲春殿!ご無事ですか!?」

「ああ・・・皇太子殿下達に大事はない・・・!」

「だ、大丈夫だ!」

「私達よりも―――」

「紅嘉!大丈夫!?」

「グルルル・・・!」


心配する少年少女の前には、身をふるいながら毛を逆立てる紅嘉がいた。


「紅嘉!」

「ガウ!!」


星影が呼べば、立派な体躯で人間達を庇いながら尻尾を振って答えてくれた。


(よかった!大怪我はしてないようね・・・!)


ホッとする星影だったが、すぐに彼女の心をかき乱す声が響き渡る。


「まったく、従順なこって!」

「貴様!?」

「虎が人に慣れるだけでもスゲーのにな~?いい猫ちゃんじゃねぇか?」


狙いが外れたことに、悪態つきながら言ってきたのは黒衣の男。


(凌義烈・・・・!)


星影が攻撃を仕掛け、やり返してきた本人だった。

これに今度は、言葉で言い返した。


「当然だ!紅嘉をそこら辺の人食い虎だと思うなよ!この子は優しい子なんだ!」

「へぇ~優しい子ね~・・・」


星影の言葉に楽しそうに微笑むと、首を一度鳴らしてから言った。


「じゃあ試してみようか?」

「なに?」

「――――――――どこまで虎ちゃんが耐えられるかよぉ!?」


そう叫ぶと、続けざまに庭の飾りに使われていた石を蹴り飛ばした。



「数もそれなりに打てば、当たるからよぉ!!」



これに対して星影は―――――



(やられっぱなしでたまるかっ!!)



反撃に出た。


「それは当たればの――――――!!」


紅嘉の前まで滑り込みながら向かうと、軽やかにその身をひるがえす星影。



「―――――――話だけどなっ!!?」



自分へ、自分達へと上下左右からやってくる飛び道具。

それらの到達地点を見切ると、動体視力で判断すると持ち前の反射神経で動いた。



「弾くだけなら問題な―――――――――い!!」

「「「え―――――――――!?」」」



そう告げた宦官の体が回る。

それに驚いて声をあげる劉拠、玲春、そして林山。

彼らの視界で弾き飛ばされていく瓦礫。

回転を利かせれば、持っていた得物に瓦礫が当たって弾かれていく。


「安様すごい!」

「見事な!あれでよく、目が回らないものだな・・・!」


(いや、根性で耐えてるんだろう・・・)


感嘆、感心する少年少女の言葉を、心の中でそっと否定する林山。

ここまで星影がするということは、それだけ3人が『まともな人間』だからだろう。


(とはいえ、あの義烈がこの程度の攻撃で終わらせるはずが――――――――)


ない、と林山が思うのと、その声が響いたのは同時だった。



「――――――――危ない!」

「衛青将軍!?」



玲春と皇太子の称賛の声に続く、衛青からの危険を知らせる言葉。


(危ないって・・・!?)


その声と、近づく殺気で体の回転を止める星影。

それで体勢を立て直した瞬間。

目の前に現れた人物を見て、『危ない』の意味を察した。


「オラヨッ!!」


剣を持っていた利き手ごと、義烈に強く叩かれる。


「うっ!?」


回転によるめまいもあって、星影の手から武器が滑り落ちる。

そこを狙って、固く握られた義烈の拳が、星影の顔面に放たれた。


「あっ!?」


「っ!?」

(星影っ!!)


声にならない声で叫ぶ本物の林山の前で、星影の体が揺れた。


「安様!?」

「安林山殿ぉ!」

「くっ!?」


(星影!!どうなった!?)


女官の悲鳴が上がる中、至近距離からの侠客の攻撃によって体を宙に浮かせる親友。

その光景に、林山の背中に冷たいものが走る。


やられた?

まさか、あの星影が――――――・・・!?


(やられたというのか・・・!?)


最悪の事態が頭をよぎった時、義烈の声があたりに響く。



「やるじゃねぇか!」

「へっ!?」



同時に鳴り響く、彼から発せられた大きな舌打ち。

目で確認するよりも早く、耳がその答えを林山に教えてくれた。



「こんのぉ~下種野郎―――――!!」

「ああ!?」



聞き覚えのある声をたどれば、そこに星影がいた。


(よかった!無事だったのか・・・!!)


後方へと飛ばされたように思えた星影は、その場にとどまっていた。

それも先ほどとは違い、義烈に背を向け、両手を地面につけて倒立していた。

それで林山も、何が起こったのかわかった。


(そうか!義烈の拳にあたるふりをしてよけ、前のめりになったと見せかけ、そのまま逆立ちしたのか!?)


義烈に背を向け、首だけ上を向け、相手を下から睨み上げる星影の顔には、血はおろか、傷一つさえない。


(義烈の攻撃を、無傷で回避したのか・・・!)


林山がそう理解した頃には、



「なにしやがるっ!?」



星影の腰から下が、天を向いていた足のかかとが、義烈めがけて振り降ろされていた。


「お!?」


自分へと迫る足、かかと落しに、素早く両手を組んで対応する義烈。


「このっ・・・!」


星影も星影で、自分の攻撃を防がれたと分かると、次の一手に出た。


「ほっ!」


防がれた方の足を軸にして、飛び上がって、起き上がる。


「てめっ!?」


それにより、義烈の両手に星影の体重がかかった。

義烈を踏み台にすることで、今度は星影が相手を見下ろす形になる。


「覚悟っ!!」


嬉々とした顔でほくそ笑むと、まりを蹴る体勢で、義烈の顔面に反対の足を使って再度蹴りを入れた。


「おお!?」


宦官からの身軽な攻撃に、驚きの声を上げつつも義烈の反応は良かった。

交差させて、星影の蹴りを防いでいた両手を前に突き出す。


「な!?」


それにより、星影と義烈の距離が離れる。


「お、のれ!」


バランスを崩して、尻から地面に落ちるかと思われたが、


「はっ!」


突き飛ばされた反動を利用し、星影は後方で空中一回転をする。


「チッ!」


そのおかげで、背中から地面に落ちると思われた宦官を狙って向けられた義烈の拳が空回りで終わる。

空を切る音だけが虚しく響いた。



「危ないな!」

「おめーもだよ!」



地に足をつくと、数歩後方へ下がる星影。

義烈も、同じように様子を見ながら足を後ろに下げる。

距離を取りつつ離れた両者。

いつでも動けるようにか、腕を前に構えたままの姿勢で止まった。



「・・・!」

「な、なんという動き!」

「すごいですわ・・・!」


(おいおい・・・変なことになってきてないか・・・!?)


衛青の腕の中、固唾をのんで見守る少年少女の感想をよそに、その反対側の離れた場所にいる林山の顔は引きつっていた。

事前に、凌義烈が味方であることは星影に話していた。

勘のいい星影だから、自分と一緒にいるのが凌義烈だと気づいているはずだ。

雲をつかむような星蓮捜索には欠かせない人材として、味方という分類には入れてくれていると思う。

しかし、現状は同士討ちのような方向に行きかけている。


(誤解を解こうにも、部外者がいるし・・・!)


闘う2人を見守る大将軍の顔は、心なしか厳しい。

これでは星影にも、ましてや義烈にも事情を説明出来やしない。



「久しぶりだな・・・。」



林山がヤキモキする中、先に口を開いたのは義烈だった。


「俺の顔に傷つけた奴。」


そう語る義烈の顔を、目を凝らして見れば、頬の皮膚がかすかにめくれていた。

星影の攻撃を寸前でよけたようにみえたが、彼女の蹴りを完全には防げなかったらしい。



「武官顔負けの宦官じゃねぇーか?」



楽しそうな笑い声に合わせ、口元を覆っていた布が落ちていた。

それで月下の元に顔が晒される。


(強いわね・・・)


目の前に現れた顔に、そんなことを考えながら星影は口を開く。


「あなたもだ。商人とは思えない面構えだな?」

「いやいや!男前だからこそ、商人をしてるんだぜ?女のお客さんを口説くのには重要だぜ?」


舌なめずりしながら言えば、荒い調子で舌打ちをする星影。


「商売は中身が勝負!・・・貴様、何者だ?」

「夜の商人だよ。これでも、良い体してんだぜ~?」

「まったくだ。胸の傷は、刀傷だろう?」

「・・・目が良いね~・・・・あんたこそ、本当に宦官かよ?」

「宦官だ。偽商人め!」

「正真正銘、本物の商人だよ。まだ、納得できないってか~!?」


挑発しながら叫ぶと、身をひるがえして落ちていた槍を拾う。


「おしゃべりも疲れた。」

「なんだと?」

「コイツで勝負をつけようぜ。」


そう告げる男の手にあったのは、2本の長柄武器。

拾い上げたのは、赤色の房飾りを付けた槍。


「ほらよ!」

「!?」


自分へと投げよこされた武器を受け止めれば、義烈はあざ笑いながら告げる。


「俺を退治するんだろう、オメーは?」

「貴様っ・・・・!」


片手で乱暴に動かしながら、穂先を星影に向ける義烈。

一瞬の隙も見せない姿は、林山が語った通の大侠客に相応しい。


(こいつ、槍術にもたけてるか!?)


慣れた動きに、額に汗がにじむ。


「安様!」

「おい、無茶するなよ!」


その様子に、玲春と本物の林山が声を上げる。

そちらを目だけで見れば、林山と目があった。




(まったく・・・難しい引き際を作ってくれたものだな、林山?)


この舞台から、どうやって下りればいいやら、引きずり下ろせばいいのやら・・・




そう星影が呆れる一方で、林山も林山で同じ思いだった。




(あいつは!あいつら!なんで平和的にできないんだよ!?)


これじゃあ、俺らも賊と変わらない!




(まったく・・・もう少し、星蓮のことを考えろ馬鹿!)




互いに怒鳴りたい気持ちを抑えながら、手にした花槍に力を込める星影と、硬く握った拳を震わせる林山。


「よぉ、どうすんだい、宦官ちゃん。」


そんなことを知らない義烈が聞けば、問われた美貌の宦官は答えた。



おとこたるもの、1度口にしたことは覆さない・・・!」

「ほお~」

「衛青将軍にお詫びしないなら、ひどい目に合わせてやるよ・・・!」



そう告げて、渡された花槍を構えた。


「そりゃあ、俺も楽しめそうだぜ・・・!」


(謝る気なしか・・・!)


自分の要求に答えない相手に、覚悟を決めると槍術の姿勢をとる。

そんな星影に満足したのか、同じように構えながら告げる義烈。

やる気の男を見据えながら、静かに呼吸を整えて気の流れを変える星影。



“星影、頭に血がのぼれば、勝てる物も勝てんぞ。”



厳師匠の教えが自然と浮かんできた頃、星影の頭は冷えはじめていた。

目の前にいる『敵』(?)を見据えながら、彼女は冷静に分析した。

相手が、どうしかけてくるかを。


(槍は、持つ柄の部分によって、変幻自在に攻撃範囲と攻撃方法を変えられる武器・・・!てこの原理を使えば、簡単に骨を折ることができる・・・!)


元来槍とは、長柄の回転運動だけでなく、柄をどう持つかによっても攻撃が変わってくる。

日本では、『刀よりも危険な武器』とされていたため、江戸時代は、市中での持ち込みは厳しく規制されるほどだった。


(この場合・・・仕掛けるか?それとも来るのを待つか・・・?)


そう考えながら、静かに相手の体の一点へと視線を向ける。

さりげなく、気づかれないようにその手元を見る。

棒状の部分を、婿綱手がゆっくりとすべり・・・



(柄を長く持った!)



―――――柄を長く持つのは、先制攻撃の特徴。――――



(先に仕掛けてくる!!)


「うらぁ!」

「はっ!!」


予想通り、男が先制攻撃をしてきた。

義烈の槍の持ち方で、男がどう攻撃しようとしているか予測できていた星影。

それをたやすく防ぐと、守りの体制で受け流した。

同時に、男の次の動きも読み取っていた。


(この攻撃方法は、通常よりも威力が高くなる反面、至近距離での戦闘には向かない!)


そう予測したのち、己へ降りかかる危険を回避した。


「よっ!」


自身の槍の絵を短く持つと、短剣を使うような動作で相手を攻撃した。


「うおっ!?テメー!?」


それで、慌てて後方へと距離を取る義烈。

視界には、相手の髪の毛らしいものがパラパラと舞っていた。


(急所は狙わなかったけど、よけたのね・・・!)


それだけ思うと、星影は地面を蹴って義烈へと近づいた。


「たぁっ!」


突き進んだ勢いをそのままに、男めがけて下から槍を突き上げた。


「へっ!テメーの槍はねぇーのに、使い方、わかってるじゃねぇーか?」


突撃向きの技を使う星影に、男は感心しながら柄を中ほどへと持ち替えた。


「おらっ!」

「くっ!?」


義烈の槍が縦横無尽に彼の体を守る。


「はあっ!」


その隙間を狙って槍をつきまくるが、流れるような動きで防がれてしまう。


(くそっ!柄の中ほどを持つことで、こちらの動きを防御したか!)





「あの曲者・・・強いのですね、叔父上・・・」

「いえ・・・ただ強いと言うだけではございません、拠様。」


2人の戦いを見ていた皇太子が言えば、それに大将軍が丁寧に答えた。


「・・・槍術が、多種多様な技を使えるのは、扱い方・持ち方が多様でもあるからです。だからと言って、持ち方を覚えるだけではいけません・・・」

「つまり?」

「戦では・・・戦いの場になれば、『技』のみではなく、『経験』も勝敗にかかわってきます・・・。」

「経験ですか?」

「戦場のような人の入り乱れる集団よりも、個人対個人で戦う場合、個人で使う際に、その経験がそれゆえ、よほど使い慣れていないと扱えない武器なのです・・・」

「使い慣れていないと・・・か?」

「はい・・・。」

「・・・曲者はともかく、安殿・・・ものすごくうまく使ってるんだが・・・?」

「うわっ!?テメー足払いしてんじゃねぇーぞ!?」

「あっ!?貴様こそ!至近距離で槍を回すな!」

「彼は・・・本当に宦官なのですか・・・?」

「・・・。」



苦笑いで聞く皇太子に、無表情と無言に徹する衛青。

武術に詳しくない玲春からすれば、どんな戦いをしているのか理解できなかったが、旦那様が返事に困っている時の顔をしているのだけはわかったようだった。

そんな皇太子たちがそんなやり取りをする一方で、話題になった星影と義烈の戦いは白熱する。


「らぁ!」

「ふん!」


星影が打ち込めば、義烈が打ち返し。


「ほっ!」

「たぁ!」


義烈が斬りつければ、星影が受け流す。


「どりゃあ!」

「うおおお!」


弾いて、払って、互いの花槍をぶつけ合う。


「ぐぅ・・・!」

「ふっ・・・・!」

「あ!巻き上げましたぞ、叔父上!?」

「え?巻き上げ・・・?」


互いの槍を交差させて動かなくなる様子に皇太子が声をあげる。


「つばぜりあいを、巻き上げとも申すのですか、皇太子様。」


聞きなれない言葉を玲春が着聞けば、側にいた武人が答えた。


「・・・・それは槍術の場合だ、玲春・・・。」

「旦那様!」

「あれは巻き上げと言い・・・棒状の武器同士でなければあの技は成り立たぬことだ・・・。本来は、相手の武器を巻きながら押さえ込みむ。力あるものならば、そのまま跳ね飛ばしてしまう技だ。力か、あるいは勢いが均等なのか、どちらも動けなくなっているがな・・・」

「そんな・・・安様・・・!」


不安げに玲春が見詰める先では、槍の棒部分を押し付け合ったまま動かない2人がいた。


「くぅ・・・!」


(まずいわ・・・毒にやられた体では、力技だと押し切られる・・・!)


「よぉ・・・頑張るな、宦官ちゃん・・・!?これじゃあ、俺を攻められないだろう・・・?」

「ふふ・・・それはお互い様だろう・・・!?同じ獲物を使い、同じ状況にあるということは、同じ立場に変わりない・・・!」

「くっくっくっ!ちげーねぇー・・・!俺がお前の武器を絡め捕っても、俺が攻撃できなきゃ、疲れるばっかだからな~・・・そう考えてるか・・・」


(なんだこいつ・・・?)


含み笑いをする相手に、違和感を覚える星影。


(売り言葉に買い言葉で戦うことになったとはいえ、こいつは林山の協力者・・・私の味方にもなるわけだが・・・)


そのせいなのだろうか?



(この男・・・私と本気で戦ってない?)



「・・・私を試しているのか?」

「試してやろうか?」


何気なくつぶやいた一言。

その瞬間、感じたことない何かが体に走る。


「ふぅ~・・・!!」

「あんっ!?」


義烈の顔が星影の顔へと近づき、くすぐるような吐息が耳吹き込まれた。


「なっ・・・!?」

「何してんだコラ―!?」


自分の声とは思えない声に驚く星影と、何をしたのかわかっている林山が声をあげる。

顔が熱いと思った時、組んでいた相手の棒が離れる。


「あっ・・・!?」

「初心だね?」

「がはっ!?」


伸びてきた棍棒が腹にたたきつけられる。


「安様ぁぁぁ!!?」

「おおおぉーい!?なに思いっきり突き飛ばしてるっ!?」


玲春の悲鳴と林山の声で、自分の状況を理解した星影。


「このっ!」


飛ばされた体の勢いを殺そうと、握りしめていた槍を地面に突き刺す。

それで、はじかれた体の動きも止まった。


「安林山殿!!」

「ゴホ、ゴホ・・ゲホ!だ、大丈夫です・・・!」


駆け寄ろうとする皇太子を手で制しながら、体制を立て直す星影。


(な、なんだったの、今のは・・・!?)


何度も間近で見てきた凌義烈の顔。

それが、耳元に顔を近づけたのかと思えば、息を吹き付けただけ。

それだけで、鳥肌の立つような、体の力が抜けるような変な感覚になった。


「妖術でも使ったのか・・・?」


よくわからないことをやってきた相手に、小さくつぶやく星影。

それが義烈の耳に届いたのか、ニヤニヤしながら男は宦官を見る。


「誰が徐福だよ?俺は、ただの平民だぜ?」

「平民が宮中で宦官と組手などするか!!わ・・・私に何をしたんだ・・・!?」


恥を忍びつつも堂々と聞けば、両目を丸くした後でニヤリと義烈は笑う。


「なによぉ~宦官ちゃん?初めて?」

「なに?」

「俺からの熱い吐息がわからないようじゃあ、肉体関係は未経験ってかぁ~?」

「なっっっ!!?」


義烈の言葉で、星影の疑問は解ける。

同時に、顔じゅうが熱くなる。


「おいおい、ずいぶん初心な宦官だなぁ~?そうか、お前素人だったか~淫乱だと言ったのは悪かったなぁ!」

「貴様!まだ侮辱するかっ!?」

「ひっひっひっ!顔が真っ赤で可愛いなぁ~!皇帝に粗相がないように、俺が初めてを食べてやろうか?」

「きっ、きさまぁ~・・・!!」


自分が何をされたのかわかった星影は、羞恥と怒りで染まりながら告げる。



「お前ぇ~~~・・・!!そんなに私の仲間(宦官)にされたいか・・・!?」

「おんやぁ~?なによ?俺ら、もう知った仲じゃんか~宦官ちゃん?」



無論未経験の、秘め事の分野を言われ、頭に血がのぼる星影。

憎たらしい顔に向き合った時、ふいにめまいを覚えた。


「うっ・・・!?」


(なに、こんな時に・・・!)


自分の体に起きている異変に、グッと歯をかみしめて耐える星影。

そう思案していれば、玲春の悲鳴が耳に届く。


「危ない安様!」

「――――――――え?」

「ばあ!」


声のした方を見れば、視界に買い飾りが揺れた。


(穂先か!?)


花槍の先についている赤い房飾りが、間近まで迫っていた。

それで、義烈と自分との距離が縮まったことに気づく星影。


(一瞬のめまいで、一瞬の間にこの距離・・・間を詰められた・・・!)


「よそ見か!?」


余裕で笑いながら、自分へと花槍を向ける男。

楽しそうに、嬉々として自分に向かってくる姿。

これに、懐かしいものを感じたのかもしれない。


(あいつは・・・・とんだ協力者を連れてきたものね・・・)


それで、毒で歪んでいた星影の感覚情報が軌道修正された。


「林山・・・」


小さく親友の名を呼ぶと、義烈に向かって笑い返した。



「よそ見じゃない。」



不敵な笑顔と。




「悪巧みだよ。」



大胆な言葉で切り返す。



(・・・星蓮探しに、よそ見をしてられるか――――――――――!!)



盛られた毒が少なくてよかったと思いながら、星影は槍の先につけられた赤い布へと目を落とした。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!


小説の中に出てきた『花槍』ですが、穂先の近くに赤い房飾りがついた槍のことをいいます。

中国武術ではよく見られる槍です。

房飾りがついていることが、特徴の武器とも言えます。

この房飾りには意味があり、穂先の近くにつけることで、槍の練習において槍の軌道を見やすくして、効率よく修行することができるそうです。

実戦では、房飾りが敵の目くらましになったり、突き刺した相手の返り血を、房飾りが吸い込んでくれるので、血が柄の部分まで流れてこないから手が汚れない、血で濡れて滑らなくて便利・・・という怖いけど、理に適っているという利点もあります(汗)


血なまぐさい話になりましたが、もう一つご紹介を(笑)

小説の中で義烈が言った『徐福』という人物は、秦の始皇帝に不老不死の薬探しを命じられた方士(道士)の方です。

『道士』とも呼ばれる『方士』の職業は、呪術・祈祷・薬剤・占星術・天文学等に詳しい、今でいうところの学者のことを言います。

徐福のいた時代は、方士・道士は仙人になるための修行をしている人達のことを指していたみたいですが、現代では中国三大宗教の1つ『道教』を信仰してる人達のことを言うようです。

ちなみに、三国志といわれる時代の頃、『道教』は『太平道』として張角、于吉が広めた宗教でもあります。内容も、不老不死と深く関係しており、仙人になることが究極の理想であると説いているそうです。

始皇帝関係の書物では、徐福の扱いが詐欺師とされ・・・扱いがひどいです。ただ、彼が不老不死の薬がある場所は日本だとしてやって来たこと、日本各地に残る伝説を聞く限り、悪人とは思えないです。

善人も悪人も、その時代の人々によって受け止め方が違いますからね(苦笑)

星影と義烈の姿が、衛青達にどう映っているのか・・・気になる方、よかったら読んでやってください。


※お手数ですが、誤字・脱字を発見した方、こっそりでいいので教えてください!!お願いします・・・!!


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