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第百三話 油断強敵、ご用心

殺気を持った曲者達が立ち去った後。

口を一文字に結んでいた少年が、つぶやくように言った。


「・・・去ったのだろうか?」

「おそらくは。」


皇太子の問いに、剣を鞘に収めながら静かに大将軍が答える。


「数で劣るとはいえ、武運はこちらにあります。」

「そうか・・・」


それでようやく、全員の戦闘態勢は解かれた。


(やっと終わった・・・!)


安堵を込めた息を吐きながら、呼吸を整える星影。

そんな武人達をよそに、険しい顔で皇太子は衛青に聞く。


「叔父上・・・奴らは一体・・・?」

「正確な正体はわかりませんが・・・目的は拠様でした。なによりも、何故宮中にあのような輩達が侵入できたのか・・・。」

「もしや・・・内通者がいるのでは?」

「安林山殿。」


大将軍の言葉に、星影も手にしていた剣を収めながら言う。


「内通者と?」

「はい、大将軍、皇太子様。」


星影の言葉に、衛青と劉拠が聞き返す。

これに真面目な顔で星影は答えた。


「陛下が襲われた時から感じていたのですが・・・どうも曲者どもは、宮中の内部を知っているような節がありました。」


皇帝を助けた時、自他ともに感じたこと。



「後宮は、一般人が絶対に立ち入れない場所です。」



すぐ横にいる義弟とその協力者はいい(?)として、あまりにも都合が良すぎる。

宮中に来てわずかな時間しか経っていない星影から見ても、徹底した守りの城と言えるのが宮中。


「それが間をおかずに、立て続けに陛下と皇太子殿下を狙って侵入してきました。それゆえ・・・そう考えるのが、自然ではないでしょうか?」


星影の問いに衛青の表情は変わらなかったが、狙われた本人は違っていた。


「そう言われてみれば・・・父上の、陛下の立ち寄られる庭のことなど・・・限られた者しか知らぬことだ!叔父上!やはり、私を狙ったのは―――・・・!?」

「拠様、めったなことは申されますな。」


青い顔で何か言いかけたその先を、鋭い声で衛青が制する。


「私情のみで、決めつけてはいけません。」

「だが叔父上!安林山とて、内通者ではないかと言っているではないか!?私のみならず、叔父上だってあいつらに―――!!」


(私情?『叔父上だって』って・・・?)



「やめなさい、拠!!」



皇太子の言葉を衛青が制す。

嬌声的に黙らせ、大声を張り上げるだけで驚きなのに・・・


(皇太子を呼び捨てにした・・・?)


衛青将軍らしくない。

普通ではない。


(なにかある・・・?)


叔父の言葉に、怒った顔で黙っている甥に、星影は慎重に問いかけた。


「恐れながら、皇太子殿下。なにか心当たりがおありで・・・?」

「む・・・いや、それは・・・」


(この反応・・・やっぱり、誰が仕掛けてきたかわかってるんだわ・・・!)


言葉に詰まる皇太子に、目星はついているのだと察しながらさらに質問する星影。


「もし、そうでしたら、早急に手を打つべきではないかと思います。そうでなければ、犠牲になった者達が浮かばれません。今宵は、あまりにも流された血が多うございます。」

「あ、安林山・・・私は・・・!」

「これだけの事態になったのです、皇太子殿下。皇帝陛下にまで害が及ぶ恐れもあります。どうか、不埒者の御成敗を・・・!」

「それは・・・私も!安林山、私もそなたと同じ気持ちなのだが――――――――」


「口を慎め、安林山!!」


必死の形相で言う皇太子だったが、その声は叔父によって再びさえぎられた。


「衛青将軍!?」

「宦官が知っていいことではない。」

「叔父上!?」

「え、衛青将軍・・・!」

「それ以前に、宦官たる者が武人の領域に口を出すものではない。」

「っ・・・!」


無表情ではあったが、自分に向けられる顔はいつもと違う。

瞳の色が違っていた。

粗相をして怒る自分の父親のような目で、ジッと見てくる姿に星影は衝撃を受けなが思った。


(え、衛青将軍に・・・)



衛青将軍に――――――――――――!!



(衛青将軍に怒られたぁぁぁ!?)



武術面で、人間面で、慕っている衛青からの厳しい言葉。

それで傷ついた星影の心は、しっかりと表情に現れる。


(ち・・・ちくしょう!なんで私が怒られなくちゃならないの!?)


これというのも、あの曲者たちのおかげ・・・!!


(あいつらが襲ってこなかったら、私は衛青将軍の腕の中で平和に休めたのに・・・!)


幸せだったひと時を思い出しながら星影は決意する。


(曲者共が・・・!!次会ったら、覚えてろよっ!!)


心の中で、ふつふつと怒りをたぎらせる星影。

同時にそのことが、別な形で新たな衝撃を生んでいた。




(な、なに!?まさか星影の奴・・・傷ついてるのか!?)


3人のやり取りを静かに聞いていた林山が、星影の異変に気づく。

昔から一緒にいるだけあって、星影の変化には敏感な林山。

だからこそ、現在の星影の状態を察した時、顔がゆがみそうになるのを必死で耐えながら思う。


(・・・本気か?本当に、あの衛青という武人に・・・!?)


平陽公主の夫に、人様の旦那に。



(心奪われてしまったのか・・・!?)



自分の知る劉星影は、恋なんかしない。

しないというよりも、する気がないと言った方が正しい。

過去の傷が、彼女をそうさせた。

同時に、恋をしないことと引き換えに力を手に入れていた。


(そんな星影が・・・年上の武人を・・・)


会ったばかりなので、衛青という男がどんな人物か林山にはわからない。

しかし、恋というものがやっかいだと知るだけに、複雑な気持ちになる林山。

そんな林山の気持ちをよそに、大将軍は痛烈な言葉を親友にかける。


「宦官は宦官でしかない。皇族に使える忠誠心はよいが、出過ぎた真似は許されない。」

「お、恐れながら!私は、そういうつもりは――――――」

「ないとしても、そなたの行動は・・・少々度を越えている。いくら陛下に気に入られた宦官とは言え、分を忘れてはいけない・・・!」

「え、衛青将軍・・・!」


(嫌われた!私、衛青将軍に嫌われた・・・!?)


目に見えて沈んだ星影だったが、次の言葉でさらに表情が変わる。


「目下から、目上に声をかける家臣など無作法にもほどがあるぞ。」

「・・・え?」

「皇太子殿下への無礼は許されない・・・わかるね?」


(無礼・・・?・・・あ!?そういうことか!?)


それで星影は思い出す。

宮中では、後続などの目上が話しかけない限り、ほかの者、家臣から話しかけてはいけないということを。


(そういえば、そうでした!)


その決まりを犯していたことに星影は気づく。


(皇太子殿下に、私から話しかけちゃダメなのに・・・皇族から声をかけない限り、家臣から口を利いてはいけない・・・!)


そうか!


(衛青将軍は、私の無作法を注意してくださったんだ~!)


ということは~・・・!



「気をつけなさい。」



初めて出会った時の様な優しい顔で星影に告げる衛青。


(嫌われてない・・・・?)


怖々、上目づかいで見上げれば、いつもの表情で自分を見つめる武人がいた。


「衛青将軍・・・」

「わかるね?」

「はい・・・!」


少しだけ柔らかくなった相手の顔を見ながら、星影もホッと胸をなでおろす。


(よかった・・・!怒ってない。私が嫌いになって、怒ったんじゃないんだ~!!)


楽天的な彼女らしく、それを自分に都合のいい風に解釈した。

不安も解消されたので、星影は素直に謝った。


「は!申し訳ございませんでした。」


手を胸の前で合わせ、深々と頭を下げる宦官。


「下賤の身でありながら、皇太子殿下への出過ぎた真似、どうかお許しを・・・!」

「あ、安林山・・・!」

「・・・わかったのなら、余計な検索はせぬように。」

「はい。分をわきまえ、以後気を付けます。」




(何かが違う・・・)


衛青と親友のやり取りを見聞きしながら、星影の義弟は思う。


(星影の奴・・・あんなに傷ついた顔だったのに、もうご機嫌になっている・・・反省する以前に、衛青将軍に対して、何かしらの強気な解釈をして精神的な負担を回避したように思えてならない・・・)


前向き過ぎる型破りな親友にはかなわない。



(星蓮よ、君の姉さんは本当に強すぎる・・・。)




わずかな星影の変化を感じ取り、ため息を飲み込みながら呆れる林山。

星影の考えはわからなかったが、気持ちの切り替え方の早さはさすがだと思った。それに星影は星影で、低く静かな声で言う衛青の言葉から、別のことを読み取っていた。


(やっぱり、衛青将軍もご存知みたいね。皇太子殿下を襲ってきた相手が誰か・・・)


見えてきた彼らが隠している血なまぐさい事情。

衛青と皇太子の会話、大将軍の話し方からして、2人がさっきの敵の黒幕を知っているということを星影は察していた。


(皇太子殿下の狼狽ぶり、わかりやすかったからな・・・。きっと、林山も林山の協力者の凌義烈もそれに気づいているだろうしね・・・)


親友達に視線を向けることなく、星影は考える。


(この手の揉め事は、外部に漏れるとメンツにもかかわるって厳師匠もおっしゃっていた。だから、皇太子殿下の言葉を遮りながら、衛青将軍は私をしかった・・・。ご気性の優しい衛青将軍がここまでおっしゃるほどなんだから、きっと厄介な相手なのね・・・)


そう思った時、胸の中が痛んだ。



(助けて差し上げたい。)



純粋に沸き起こった気持ち。


(衛青将軍のお力になりたい。なにか、私にできることでお役に立てないかしら・・・?)


無意識で考えたこと。

しかし、すぐに星影は我に返る。


(馬鹿ね星影!何考えてるのよ・・・!?)


私がここに来たのは、妹を助けるため。

相手は、十以上も年上の立派な武人。

あんなんだけど、きちんとした奥様もいらっしゃるお方。


(憧れとお節介は違う!私は、近づいたらダメなんだから・・・!)


頭を下げたまま、きつく唇をかみしめる。

自分らしくない後ろめたい気持ち。

それを戒めるように下を向いたまま目をきつく閉じる。


(落ち着け、星影!)


私がここに来た目的は、星蓮を取り返すこと!

将来の皇帝である皇太子さまが襲われて、民として心配するのはいいことよ。自然なことよ。

だけど、私は林山に成りすまして、林山や一族すべてを危険にさらしてここにいるの。



(星連を優先で、動かなきゃダメでしょう・・・!?)



それに衛青将軍達は、襲ってきた犯人の見当がついてるみたいじゃない。

だったら、新たな襲撃に備える準備だってできるわよ。

彼らは国軍で、皇帝陛下公認の精鋭なんだから・・・!


(元々、私は深入りする気はなかったし・・・・無理に聞きだす必要はないわ。逆に、余計なことを口にすれば、こちらのぼろが出てしまう・・・!!)


そう自分に言い聞かせると、表情を引き締めて顔を上げる。

気まずそうな顔で自分を見ている皇太子に、視線を合わせないよう伏し目で笑顔を作りながら言った。


「皇太子殿下、無礼をお許しください。私のような卑しい者がお訊ねすることではございませんでした。」

「安林山。」

「今はただ、皇太子殿下がご無事で何よりでございます。今しばし、他の皆様がこちらにいらっしゃるまで、この宦官を盾として、その御身を守らせてくださいませ。」

「・・・うむ。」


きっぱりと言い切る星影に、皇太子もそれ以上は言わなかった。

ただ、その瞳が自分に何かを伝えたそうにしているのだけわかった。

それを皇太子があきらめたところで、場違いな明るい声が言う。



「同感だねぇ~足止めされていたらしい味方さんも、そろそろ来るんじゃねぇのか?」

「え?」


(凌義烈?)



そう言ってきたのは、林山の隣で首を回していた黒衣の男。


(なんのつもりだ、こいつ・・・?)

(また余計なこと言うんじゃないだろうな・・・!?)


ギョッとする星影と林山をよそに、侠客の親分は言った。


「辰の方角から足音がするぜ?足踏みばっかだけど・・・どこかで止まっているんじゃないのかい?」

「辰の?」

「止まっている?」

「・・・確かに。」

「え、衛青将軍!?」


その言葉で耳をすませば、小さくもよく通る声で大将軍も言う。


「耳に届く限り・・・近くまで来ている・・・」

「え!?」

「ま、まさか!?他にも曲者がいてそ奴らと、対峙をして―――・・・!?」

「安様っ!どうしたら―――――!?」


衛青の言葉に、最年少の2人だけが表情を曇らせる。

それを察した大将軍が優しい声で言った。


「ご安心を、拠様。さっきを含んだ気配はございません・・・玲春も、怖がらなくていい。」

「で、ですが、旦那様・・・!足止めとは・・・どういうことですか?ねぇ、安様・・・!?」

「大丈夫。衛青将軍のおっしゃる通りだよ。」


震えながら、自分の側に聞く少女に宥めながら星影は告げる。


「あくまで・・・推測だけど・・・こちらへ通じる道が、ふさがれるか何かしていて、身動きが取れないのだろう。」

「み、道をふさぐ!?」

「ええ。ここで皇太子殿下を亡き者にしようとしていたのでしたら、邪魔が入らないようにするはず。」

「まぁ!誰がそんな恐ろしいことを・・・!?」

「先程の連中だっ!!」

「皇太子殿下!?」


口元を手で覆う玲春に、いら立ちの表情で少年が叫ぶ。


「あいつらは言っていた!私を殺すために、私にたどり着くまで、何の関係もない者達を殺してきたとっ!」

「皇太子殿下・・・」

「私達がいくら騒ごうが、暴れようが、誰も来れぬはずだ!みな、私のために、すでに葬られ―――・・・・!」

「拠様、どうかお怒りを収めてください・・・!」

「叔父上、私は悔しい!私のために・・・いったいどれほどの者が巻き込まれたのかと思うと・・・!」

「拠様。」


興奮気味に言う甥を、叔父は優しく抱き寄せながら言った。


「あなた様に罪はございません。もし、贖罪をと望まれるのでしたら、陛下のように立派な聖人になられるように励まれることです・・・」

「叔父上・・・!」

「旦那様・・・」

「衛青将軍・・・」


(陛下のようにって・・・!)


衛青の言葉に、口元を抑えながら星影は思う。



(そりゃあ、ねぇーだろう・・・?)


笑えない冗談に、感動的な場面が一気にシラケて見えた。


(その助言は、駄目でしょう?)



遠目の表情で、可哀想なものを見るような気持で強く思う星影。




(こんないい子に、あんなクズになれって?)


会話を重ね、行動を目にしてきた限り、いい皇帝になれると思っていた。

しかしそれは、今の皇帝とは違った意味。

現状のまま、成長してくれたら問題がないが、


”林山~!!”


宮中に、後宮に来てから皇帝陛下から自分が受けた仕打ち。

寵愛をねたむ周囲からの嫌がらせ。

取り入ろうと近づいてきた部下となった同僚や、女官達。

それらに合わせ、今まで見てきた皇帝陛下の姿。



(総合的に考えても、あんな馬鹿皇帝は敬えねぇ―――――――――・・・!!)



おそらく今は、感動的な場面なのだろう。

しかし、衛青将軍のその言葉ですべてが台無しに思えて仕方ない星影。


(というよりも・・・女ったらしで、男ったらしな暴君になったらダメでしょう・・・。)


大将軍として建前で言っているのか・・・

それとも本心から言っているのか・・・

衛青の言葉を聞きながら、残念ながら本心から言っているのだろうと察しながら切ない気持ちになる星影。



(逆に、そこまで衛青将軍に思われてる陛下ってどーよ・・・!?)


面白くねー・・・!



ケッと舌打ちしたいのを我慢して、口元を抑えてそっぽを向く。

感動しているふりをする。

すると、同じように顔を隠すようにそっぽを向く林山が目に留まった。


「あ・・・・」

「う・・・。」



(ダメだよな・・・・?)

(うん、ダメだよね・・・陛下を見本にしろってのは・・・)



目と目で静かに語り合う義姉弟。



俺の愛しい星蓮を奪っておいて・・・!人妻泥棒・・・!!

私の可愛い星蓮をさらっておいて・・・!愛妹あいまい泥棒・・・!!




((天帝様、お願いします!!))



思い出した怒りを胸に、義姉弟は強く願う。



(叶うならば、奴に天罰が下りますように・・・!)

(天罰に見せかけて、奴を懲らしめられますように・・・!!)



天罰に関する思いは同じだが、天任せか、自分でするかで考えが分かれていた義姉弟。

そうこうしているうちに、叔父と甥の話は進む。


「さあ、拠様。男子たる者が、軽々しく泣いてはいけません。あなたは皇太子なのですから、お父上のように堂々となさいませ。」

「う、うん・・・」


(いやいや。知ってる者が聞けば、悪の道に誘ってるにしかならないよ、衛青将軍。)


言いたいのを我慢して、自分の言葉を飲み込む星影。

皇帝のいろんなことを知ってしまっただけに、シラケた顔になりそうになるのを我慢しながら耐えていれば―――――――・・・・


「安様・・・。」


そんな星影に、青い顔の少女がふらふらと近づく。


「安様・・・もう、曲者はいませんよね・・・?」

「玲春?」

「私・・・私・・・怖いです・・・」


不安げに言う相手に、気を紛らわすのにちょうどいいという気持ち半分、慰めようという気持ち半分でそっと抱き寄せた。


「大丈夫・・・玲春の怖いものは、私がすべて倒してあげるよ。」

「安様・・・!」

「だから、もう怖がらなくていいからね・・・?」


怯える少女の体を撫でてやれば、腰の辺りに何かがすり寄ってきた。


「グルゥ・・・。」

「紅嘉。」


まん丸の双璧で星影を見上げながら、自分の頭を押し付けてくる。

甘えるようなその仕草に小さく笑うと、空いている手で引き寄せながら鬣を撫でてやった。


「どうしたんんだい、お前?紅嘉も、曲者が怖いのか?」

「ガァルゥ!」

「違うのか?」


不機嫌そうに唸る小虎に、じゃあ何が原因なのかと考えて星影は気づく。


「・・・ああ、そうか・・・」

「あ、安様?」

「そうだったか、紅嘉。お前は、悪い奴をやっつけるのに頑張ったんだったな?」


星影の体に強く抱き付く玲春の頭を片手で撫でながら、空いている手を紅嘉へと向けながら星影は言った。


「まだ、紅嘉に助けてもらったお礼を言ってなかったね?それで拗ねてたのかい?」

「ガウ!」


星影そう聞けば、尻尾を振りながらすり寄り始める。


「ふふふ・・・そうか、そうか。すまなかったね、紅嘉。お前のおかげで助かったよ。ありがとう。」

「ガルゥ・・・」

「よしよし。紅嘉は、本当にいい子だね?可愛い私の坊や・・・。」


優しい声色で、星影がいたわるように紅嘉の頭や背を撫でる。

それで、満足そうに気持ちよさそうに喉を鳴らす小虎。


「お、叔父上・・・安林山とは、まことに肝の座った者ですね・・・?」

「・・・ええ・・・」


猫でも撫でるようにして触る仕草に、誰もが目を離すことが出来なかった。

雲の間から差し込む月明かりに照らされ、美しい乙女と勇ましい虎をはべらせる美丈夫の姿は様になっていた。


「眼福とはこのことかね?」

「そうかよ・・・。」


自分の隣で、ご満悦に言う義烈に本物の林山は呆れる。


「ともかく、みな無事で何よりだ。」

「皇太子殿下。」


叔父の腕の中でひとしきり泣き、落ち着いた少年が赤い目で星影達をねぎらう。


「みなのおかげで、私は助かった。感謝する。周りから聞こえる人の声も増えてきた・・・。いずれ・・・間もなく、助けも来るであろう。」

「はい、皇太子殿下。」

「そなたらの働き、陛下にも伝える。きっと、良きに取り計らってくれよう。特に玲春・・・お主のことは。」

「皇太子殿下。」


内緒で宮殿を抜け出て来たであろう少女に、少年は優しく言う。


「そなたが、安林山の身を案じてここまで来たであろうこと、私にも伝わっておる。」

「そんな、もったいない!」

「謙遜せずともいい。事実であろう?それゆえ叔父上も・・・許してあげてください。」

「拠様。」

「彼女は、私の恩人でもあるのですから。」

「・・・・あなた様にそう言われては、私は何も言えません。」


おねだりをする子供のように言われ、眉毛を八の字にしながら衛青は告げる。


「なによりも、玲春は妻の侍女です。私に裁く権限はございません。」

「では、守る方向でお願いします。」

「・・・あいにく、玲春は妻の一番のお気に入りです。そういうことは不要かと?」

「ならば、問題ないな?」


そう言って子供らしく笑う少年に、自然と星影達もつられて笑う。


「よかったな、玲春?」

「はい、安様!」


少女の頭を撫で、虎の頭も撫でながら宦官が言えば、玲春は嬉しそうにうなずく。


(ただでさえ、玲春は悪い立場になってるんだ。これ以上、平陽公主の機嫌を損ねては困るが・・・)


特に目をかけているなら、強く罰せられないだろう。


(もっとも、興味をなくしてるなら、私といた時に何かしているからね・・・)


苦いことを思い出したが、振り切るように明るい口調で星影は言う。


「本当に良うございました。これで一件落着ですね?」

「うん、そうだな。」

「はい!」

「本当によかった~」

「めでたしだなぁ~」


星影の言葉で、その場の空気は穏やかに緩んだのだが、



「まだだ。」



殺気を含んだ声で体が制された。


「なっ!?」


(なに!?)


あまりの気に、思わず皇太子と女官を抱えて数歩後退していた。

二人を庇いながら、それを感じた方角を見れば―――



「・・・何の真似でございますかね、大将軍様。」

「察してもらおう・・・」



義烈の首の真後ろに、剣の切っ先を突き付ける衛青の姿があった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!


サブタイトルに悩み、アップが遅くてすみません(大汗)


小説についてですが、衛青的には、「助けてもらったが、お主達も侵入者であることには変わりなかろう?」という・・・「それはそれ、これはこれ。」というオチです(笑)

史実通りの真面目な衛青を再現してみました。


続きが気になる方、読んでもいいよという方、次回まで、しばしお待ちください(平伏)



※誤字・脱字がありましたら、お知らせください・・・!!

ヘタレですみません・・・(土下座)

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