第百二話 漢(おとこ)達の逆襲
まずは、三年近く続きが更新できなかったこと、『破天荒列伝』を読んでくださっている皆さんに対して、深く謝罪させていたします(土下座)
詳しくは・・・活動コメントの方で、言い訳させてください・・・!!
「必ず殺せ。」
それが雇い主からの言葉だった。
得物は皇太子の地位にあるガキ。
多少大げさになってもいいから、命を奪えと言われていた。
大盤振る舞いで渡された前金に、長年の暗殺家業の中でも最大の殺しになると思った。
恨みも持っているという依頼主からの頼みもあり、最大恐怖と屈辱を与えて始末するつもりだった。
そのつもりだったのに、
「ぎゃん!」
足元に、部下が飛ばされてきた。
それをよけたところに別の部下の背中。
「ちっ!」
「お、お頭――――うがっ!?」
邪魔だ!と叫んで、飛んできた配下を払いのけた。
(一体どうなっていると言うんだ!?)
あのお方の命を受け、二人きりになっていた大将軍衛青と皇太子劉拠を襲った。
皇太子は共を連れておらず、衛青に至っては宦官の小僧を抱えていた。
いくら武人とはいえ、毒で動けない足手まといを連れていれば、皇太子を守ることも不可能だ。
これこそ好機と襲ったのだが――――
「はぁ!!」
「ぐわ!?」
「がは!」
お荷物であるはずの宦官は、動けないどころか率先して自分の手下を倒す始末。
そればかりか・・・
「やぁ!」
「うっわあ!」
「わっぁぁ!?」
俊敏な脚力で、また数名、部下が地面に崩れ落ちる。
「まだまだ!来いっ!」
自分達とは違う2人組の黒衣が現れたのだ。
しかもこいつら、大将軍や宦官も負けないぐらい腕が立った。
「なぁ~に、よそ見してるんだよ?」
「くっ!?」
重い剣圧に顔をゆがめる。
「き、貴様!?」
特に、二人組のこっちは・・・風采を使って攻撃してきた男は、自分達と同じにおいがした。
「このっ!」
黒衣の男の兼を弾き飛ばしてから、背後へと飛んで逃げる。
すぐに向きを変えて皇太子を探せば、正面に何かが舞い降りた。
「おかえり~!?」
「貴様!?」
離れたはずの男が、再び自分の目に現れる。
「い、いつの間に、あの距離からこっちへ・・・!?」
「オメーとは、鍛え方が違うんだぜ?」
馬鹿にしながら笑うと、ヒュンと小気味のいい音を響かせながら剣を振り下ろす。
「うっ!?」
「オラオラ!どうした!?もう終わりかい?」
「このガキ!?」
「それがど~した?あの宦官より、へばってどうするんだ~!?」
「な、なに・・・!?」
「うりゃあー!」
少し離れた場所から雄叫びが響く。
「やぁ!」
「げほ!?」
襲ってきた敵の刀を防ぎ、その体制のまま、後ろ蹴りで部下を倒す。
「よ、よくも!」
「えい。」
「うぎゃ!?」
抗議しようとしていた鍔迫り合いの相手に、指を2本立てて目つぶしをする。
それで悶えたところで、立てた指を戻して拳を作り、顔面に叩き込む宦官。
「め、目がぁ~!」
「じゃあ、寝てろ。」
顔を覆う相手を足払いすると、踏みつけて、次の敵へと切りかかっていた。
「げ、外道!」
「お前らが言うな。」
そう言った足元の部下を、踏みにじりながら告げる宦官に、敵ながらあっぱれと思ってしまう。
軽口とは反する激しい宦官からの攻撃に、こちら側は防戦一歩となっていた。
(やられた!完全にあの宦官にやられた!)
心身ともに弱っているところを狙った。
そのはずだったのが・・・!!
(逆にこちらが身体的にも、精神的も深手を負うとは・・・!!)
“我らは、暗殺の失敗よりも、お前たちが捕まって我らのことが露見する方が困る・・・!”
「おのれ・・・!」
思い出した言葉に、自分とよく似た相手と対峙しながら暗殺者は決断する。
(これ以上は分が悪い・・・!!)
まだ手は・・・・残っている。
「ちぃぃぃっ!!」
「お!?」
血がにじむのも構わず、両手で九節鞭を乱舞した。
「あ!?」
「義烈!?」
一緒に敵を倒していた星影と林山が、九節鞭特有の音に振り返る。
「あぶね~!」
九節鞭の攻撃を受け、着物の前が引きされちゃ義烈。
闇夜にさらされた肌は、傷だらけではあるが鍛えられた強靭な体を浮きぼらせた。
「貴様!やはり、我らと同じ―――・・・!?」
「ご名答。」
屈強な体をさらされた男が、闇夜の中で楽しそうに笑う。
「俺こそ、外道。」
「うっ!?」
(こいつも危険だ!)
静かな殺気に鳥肌が立った。
瞬時に判断すると、九節鞭を使って本気で義烈と距離をとった。
「――――――引けぇぇぇ!」
「てめぇ!?」
義烈が反撃する前に、自分の仲間に合図を送る曲者の頭。
「あいつ!?」
「逃げる気か!?」
音もなく、波のように去っていく集団に林山と星影が叫ぶ。
「逃がすか!!」
それを追いかけようとした星影だったが、
「よせ!」
強く腕を掴まれ、引き寄せられた。
(林山!?)
いつもいつも。
こうやって私を止める人物は決まっている。
親友であり、妹婿である若者。
安林山と決まっている。
(林山ってば、また私の邪魔をする気!?)
思わず、怖い顔で腕の主を見れば、
「深追いは禁物だ。」
自分の腕を掴んでいたのは全くの別人。
「衛青将軍!?」
思い人である武人だった。
首を横に振ると、荒い呼吸をしながら星影に告げる。
「今ここで追うのは得策ではない。」
「ですが、このまま逃がしては、再び皇太子殿下に仇を成しますぞ!?」
「その時は、また迎え撃てばいい。そなたは、万全な体ではないのだろう?これ以上無理をするな。」
「衛青将軍!」
「皇太子殿下を守るのが我らの役目。去る敵を追っては、命を落とすぞ?」
「・・・・ですが・・・。」
あれだけ、無茶苦茶した奴をこのまま逃がすのは癪だった。
しかし、黄藩様はともかく、衛青将軍の命令を無視できることは出来ない。
「そなたは賢い子だ。・・・・わかるね?」
「・・・わかりました。」
頷きながら言えば、星影の言葉に同じように頷く。
「深追いはいたしません。」
持っていた剣を地面に突き刺しながら言えば、その声に合わせて掴んでいた手を離す大将軍。
(深追いなどしませんよ・・・)
そんな目で見られ、そのように言われては、はむかう気にはなれません。
自分から離れた手を目だけで見ていれば、息の上がった2つの人影が星影達に近づく。
「叔父上!」
「安様、旦那様、お怪我はございませんか!?」
「拠皇太子殿下!」
「玲春!」
林山に守られながら、少年少女がやってきた。
それで衛青将軍の意識は、星影から二人に移る。
「お怪我はありませんでしたか?拠様?玲春も?」
「私は平気でございます、叔父上。それよりも玲春・・・怖かっただろう?」
叔父の言葉に笑顔で答える皇太子に、若い侍女も頬を染めながら言った。
「いいえ!旦那様も、皇太子殿下も、皆様お怪我がなくて・・・!安様も、ご無事で何よりです!」
そう言って、嬉しそうに宦官に向かって笑顔を向ける少女。
「・・・。」
しかし、それに相手は答えてくれなかった。
同時に、彼女は気が付いた。
「安様?」
星影の視線も気持ちも、別の方向へ向いていることを。
「安様・・・?」
「・・・。」
恐る恐る名を呼んでくる玲春に気づくことなく、別のことへと意識を注いでいた。
(・・・追いかけたしなんてしませんよ、衛青将軍。)
そうとも、この『藍田の女龍傑』の異名をとるこの私を。
尊敬する衛青大将軍を。
昏主の親とは似ても似つかない利発そうな皇太子を。
馬鹿にして、ぼろくそに言って、命を狙ったんだもの・・・!!
「衛青将軍が追うなというのですから・・・!」
「あ、安様・・・・?」
異変に気付いた少女の前で、床に落ちていた弓と矢を足でけり上げて手にする星影。
「せっかく、皇太子様のお命をあきらめておかえりくださるんだ・・・!」
「安様!?」
手にした矢の刃先を下に向けると、一本、また一本と・・・叩きつけて切っ先をつぶす。
「わ!?」
「なんだ?」
「この音は・・・!?」
尖っている刃先を叩いて丸くする星影。
「な、何してるんだお前!?」
それでようやく、玲春以外の皇太子・義烈・衛青・林山も気づいて星影の方を見ると、
「曲者さん、おかえりくださりありがとう!!」
受ける視線を気にすることなく、大音量で叫ぶ星影。
「お礼に、お見送りさせてくださいこの野郎――――――――!!」
そう言うと、弓矢を手に抱えたまま、下半身を動かす。
足元に落ちていた瓦礫を、星影は次々と蹴り飛ばした。
「「「「なっ!?」」」」
これに林山はもちろん、他の年長者二人も目を見張る。
彼等の前で、宦官の蹴った瓦礫達は、山を描きながら飛んで行った。
「おいおい・・・あれじゃ届かないだろう?」
「届いたとしても、威力が足りない・・・。当たらない・・・」
義烈と皇太子の言葉に、林山も表情を曇らせる。
「なんのつもりだ・・・!?」
(あいつの力なら、賊にぶちあてることなど十分に出来る・・・!)
怒気を含んだ声に反する手ぬるい星影の攻撃。
星影らしくない攻撃の方法。
(今更、追い払っているのか!?)
親友の性格と力量を知るだけに、一人違った意味で首をかしげる林山。
星影が放った瓦礫達は、早さが足りなかったか、距離が離れすぎていたか。
憎い敵に当たることなく、届く前に落ちていく。
それは相手にもわかった。
「ワハハハ!馬鹿が!どこ見てるんだ!クハハハ!!」
やられた分をやり返すように、これ見よがしに振り向いてあざ笑っていたのだが・・・
「お土産もどうぞ。」
「え?」
本物の林山達にしか聞こえない声で、宦官・安林山は囁く。
そのことに敵と味方が気づいた時、
「返品不可ですので、よろしく―――――――――――!」
「「「「えっ!?」」」」
笑いながら言う宦官は、弓矢を構えていた。
星影の手に中にあったのは、先程彼女が壊した矢の束。
それに玲春以下の味方が驚く中、星影はさらに動く。
先がつぶれて、殺傷能力を亡くした飛び道具。
ニッと笑うと、先のつぶれた矢を力いっぱい引き放った。
「「「「あーっ!!?」」」」
飛んでいく無数の矢を、間抜けな声を漏らしながら見送る本物の林山達。
曲者共にはその声は聞こえたが、矢の飛ぶ音は、先に投げた瓦礫の当たる音で聞こえていなかった。
矢は、そのまま一直線に『まとめ』がけて――――――
「クッハッハッハッハァ―――――・・・!!」
ざまーみろと言う顔で笑っていた賊の頭目の頭へ、
「ぬが!?」
思いっきり刺さった。
「ぎゃー!?」
否、当たったのだ。
「ぐっああ!?矢が!矢が~!」
瓦礫だと思って振り返れば、実際は弓矢だった。
これに相手は大いに慌てた。
「お、お頭!?」
「大変だ!」
「瓦礫ではなく、矢がお頭に!」
幸い、矢の先がつぶれていたので致命傷にはならなかった。
だが、相手はそうは思わなかったらしい。
「し、死ぬ!ちくしょう!!」
殺傷能力のある飛び道具が刺さったと、慌てふためいたところで、再度狙いを定める宦官。
「あははは~!それじゃあ、死にませんよぉ~!?」
「な、なに!?・・・・あ!?」
星影の言葉で敵がそのことに気づくのと、麗しい宦官が片足を前に突き出したのは同時だった。
「おとりじゃボケ―――――――!!」
片足を上げ、毒にやられているとは思えない体で瓦礫を蹴った。
「「「「「あ―――――――!?」」」」」
その動きを目で追う皇太子以下一同。
「うわぁ!?うっ、わっわっ!?」
「お頭!」
再び飛んできた瓦礫を敵の親玉がよける。
上手くかわすことはできたが、それによって体勢を崩す的になった敵。
「あ。」
傾く敵の姿に、思わず声を漏らした林山達の目の前で、
「うわぁああああああ!?」
足を滑らせて屋根から落ちる悪人。
星影達から姿を消すように、敵のお頭は落下して行く。
その後、鈍い音に続き、ヒキガエルがうめくような声が響いた。
「・・・。」
「安様・・・・!」
敵も味方も静まり返るその場で、最初に口を開いたのは玲春だった。
「おお、玲春殿。お怪我はありませんか?」
「はい・・・おかげさまで怪我はありませんが・・・」
「そうですか。皇太子殿下もご無事のようで!いや~本当に良かった!」
「あ、あの!ちょっと、よろしいでしょうか?」
「なんです?」
平然とした態度で言う宦官にうら若き乙女は言った。
「今のは・・・・・・一体・・・・?どうしてあのような・・・?」
敵が落ちて消えた方を指さしながら、作り笑いで聞く玲春。
「狙ったんだろう。」
「え!?」
そう言ったのは、虎を従える宦官ではなかった。
「完全な知能戦の勝利だな?」
「あ、あなた様は!」
宦官の代わりに答えたのは、黒衣の男。
(義烈!?)
「お前、ああなるように、狙ってやったんだろう?」
本物の林山をこの場に連れてきた人物・凌義烈だった。
「あ、安様!」
「・・・。」
返事に困る玲春に微笑んでから、林山と一緒にいる男を見る。
(この男ね・・・林山が言っていた侠客は。)
挑発的に自分を見てくる人物。
悟られないように、平静を装いながら観察する星影。
(完全な侠者ね。年は私達よりも上・・・体術はもちろん、体の傷も相当な修羅場を潜り抜けていると見た・・・。)
助けに入ってくれた瞬間から、只者ではないと察していた。
九節鞭を持つ敵によって暴かれた体は、刀傷とも矢傷によるものともいえる古傷が見て取れた。
(しかもそのすべてが・・・受け身で負ったものではないわね・・・)
さすが、林山が油断できないと言うだけあって、警戒に値する人物。
(助けてもらったとは言え、こちらの素性は知られないようにしなくては・・・!)
決意を改めると、相手の様子をうかがいながら慎重に星影は口を開いた。
「私が狙ってやったと?」
義烈の言葉に質問形式で返せば、相手は楽しそうに言う。
「そうだろう?瓦礫を当てるとなると、敵がよけることも考えなきゃならない。確実に当てたとしても、ただあてるだけじゃつまらない。あんたのやり方、肉体面だけじゃなくて、精神的にも痛手を負わせることが出来る。」
「安様!?すべて、計算なさなって・・・?」
(この男!そこまでお見通しか・・・!)
あくまで笑顔を保ちながら、涼しい顔をする星影。
その側で、困惑しながら聞く玲春に、あからさまな笑顔で義烈は告げる。
「そうですよ、お嬢さん。瓦礫と怪我しない矢で敵を翻弄することで、勝手に落ちて自滅するように仕向けたってことでしょうよ。そういうことだろう?宦官さん?」
「いや、参ったな・・・。」
男の言葉に、困り笑顔を作りながら星影は笑う。
(そう・・・私の力なら、十分賊に充てることが出来る。)
でも、相手がよけることも考えれば五分五分。
それに、どうせあてるなら一泡吹かせたい。
(飛んできた瓦礫が自分に当たらなかった?)
当たらないのに、無駄とわかって敵が飛ばしてきていたらどうする?
それが憎い相手ならどんな態度をとる?
「どこを見ているのだ?当たっていないぞ!?」・・・・なんてことを言いながらこちらを見るはず。
(そこへ、矢が飛んできて命中したら?)
上手い具合に、顔などの致命傷となる場所に当たったら?
驚き慌てるだろうけど、もし、その矢の先がつぶれていて殺傷能力がないと気づいたら?
死ぬことのない矢に当たって、慌てふためいたばかりか、それを敵に見せるという醜態をさらしたとなれば・・・
(これ以上のお返しはないでしょう?)
最高の仕返しができるじゃないの。
「やるね、宦官さん?」
「偶然ですよ・・・。」
ニコニコしながらそう言いあう二人を見て、本物の林山は思う。
まるで、狸と狐のようだと・・・。
同時に、先程の自分の考えも訂正した。
(前言撤回・・・・今の攻撃、まさしく星影らしい・・・!!)
どこまでも悪知・・・聡明な親友兼義姉に、いろんな意味で感服する。
しかし、感心したのは林山だけではなかった。
「おのれ~よくもだましおって~・・・!!」
「御頭の面子を、我らを愚弄して~!」
「このままで済むと思うなよ!」
「あ、お前らは・・・」
星影達のやり取りを最後まで、あっけにとられながら聞いていた敵の残党達。
「まだいたのか?」
「ケンカ売ってるのか宦官!?」
「いや、主にあたるお頭がああなったら、すぐに助けに行くでしょう?意外と薄情ですな?」
「やかましい!!」
「今から助けに行くんだよ!」
ヘラヘラしながら言う星影に、命を取り留めた敵達は吠えるように叫ぶ。
「覚えていろよ!!」
「このままですんだと思うなぁー!!」
矢の当たった場所を抑えながら、ありきたりな捨て台詞を残す宮中への侵入者達。
こうして動けるわずかな者達は、頭目が落ちた方へと消えて行った。
※最後まで読んでくださって、ありがとうございました・・・・!!
星影&衛青&林山&義烈が、協力して敵を撃退できました。
サブタイトルは、『男』ならぬ、『漢』あふれる四人による共同作業だったので、こうなりました(苦笑)
間が空かないように、今後は完結まで続けるつもりですので・・・心のヒロ会方だけ、良ければ次回も読んでやってください(土下座)
※誤字・脱字・変換ミスがございましたら、こっそり教えて頂けると助かります(汗)
変わらぬヘタレですみません・・・(土下座)!!※