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第百話 災い転じて福となる・・・か?(7)

※この度、東北地方太平洋沖地震で、被害にあわれた皆様のご冥福と、早期のご回復を心から願っております。




星影達のやり取りは、刹那の、ほんの一瞬の出来事だった。

たが敵は、それを見送るほどのん気ではなかった。


「逃がすか!」


行かせまいとする声が上がる。

すぐに、衛青達を追いかけようとしたのだが、



「逃げれるんだよ!」



後を追おうとする賊に、剣を向けて足止めをする星影。



「おのれ!絶対に逃がすな!」

「紅嘉ぁ!大将軍達を守れっ!噛み殺せっ!!」

「ぐああぁあああああ!!」



大声で怒鳴れば、地鳴りのような声で答えた。

毛が逆立たんばかりに吠えると、それまで以上に猛攻で暴れはじめる。



「お、叔父上!虎が、紅嘉が我らを守って!」

「わかっています!さぁ、急ぎましょう!玲春もおいで!」

「でも旦那様!安様を一人残しては!」

「彼は必ず私が助ける!今は君たちだ!!」



向けられた刃を返しながら叫ぶ。

すべてが順調にいっているかと思えたのだが、






「おのれ衛青~~~!―――――――逃げられると思うなよっ!!」






怒りに満ちた叫び声と同時に、バリバリというものすごい音がした。




「――――よけて衛青将軍!!」



それに気づいた星影が叫ぶ。

星影の声で身をひるがえす衛青。

その瞬間、彼の頬に赤い筋が入った。



「叔父上!?」

「旦那様っ!」



寸前で二人を庇ったこともあり、皇太子も女官も無傷だった。

しかし、少年少女の視線は、大将軍ではなく敵の持つ得物へと注がれていた。



「あれは――――!?」



(なんだ!?)



皇太子達同様、敵の持つ武器を凝視する星影。


(見たことあるような、ない様な・・・??)


持ち手である鉄の棒の先に、輪っかでつないだ鉄の棒が連なっていた。



「鎖でございますね!?でも、普通とは違う・・・鞭のような形をしていますが・・・?」



玲春の言葉でハッとする星影。




「九節鞭かっ!!?」


「「くせつべん?」」




とっさに叫んでいた。

声をそろえて聞きかえす二人に向かって星影は言った。



「はい!軟器機の一種で、携帯に便利な飛び道具でございます!九つの節でつながっているので『九節』というのですが・・・!」



『九節鞭』とは、強力な打撃力を持つ武器である。

特徴としては、持ち手である鉄の棒に、複数の鎖が鉄のリングでつながれているものだった。この持ち手部分を「鞭把むちたば」と言い、先端の第一節部分は「鞭頭べんがしら」と呼ばれる紡錘形ぼうすいけいの重りがついている。わかりやすく言えば、槍の先のようなもの。この先端で敵を突き殺すことができるのだ。

また、振り回す際には「バリバリッ」とい大きな音を伴い、拳に巻いて使うなどという用途もある。

一般的には携帯用の武器として重宝されていたのだった。



(だが、九節鞭にしたら、全体的にかなり長くないか!?)



星影が知る限り、九節鞭はそれほど長くない。

しかし敵が持つ得物は、明らかに普通の鞭(3m弱)と同じぐらいあった。



(鉄を輪の鎖でつなげている武器だから、長ければ長いほど扱いにくい。)



だから、体の半分ぐらいの長さぐらいが限界だが――――



(長さに関係なく、扱えるだけの技量を持っているということか・・・!)



それだけならまだしも、



(―――――――節の数!!)



「くそ!よりによって十二節もあるなんて・・・」



余談だが、『九節鞭』には、『七節鞭』『十三節鞭』という種類もあるが、九つの節がつながっているから『九節鞭』とは限らない。

中には、節が十や十二ついていても『九節鞭』と呼ぶ場合がある。

それには諸説あるが、長さの調節のためにそう呼んでいるというのが一番有力である。

人間で言えば、関節の部分に当たる節。

多ければ多いほど、その動きを予想するのは難しい。



「グッハハ・・・・!武器の名前はもちろん、節の数通りの武具でないことも、この鞭の節の数まで一目で把握するとは・・・!やはり貴様はただの宦官ではないな!?安林山っ!!」

「貴様こそ、携帯用の武具を持ち込むなど・・・・念入りなことだ!」

「何度でも言うがいい!衛青が死ぬところそこで大人しく見ているがいい!」


叫ぶなり、大将軍めがけて勢いよく鎖を放った。


「くっ!?」

「衛青将軍!」

「叔父上っ!」


ギリギリで交わしたが、近づくことはできない。



「あれでは接近戦には持ち込めない・・・」



(不利じゃないか!)



そのことは、大将軍も察したらしい。自分達の戦いを見守る甥に言った。



「拠様お逃げください!」

「でもっ!」

「私のことはいいから!玲春、皇太子を頼む!」

「旦那様!」

「早くっ!」

「――――今更遅いっ!!」



そんな彼らのやり取りを失笑すると、黒衣の頭は空いている手を懐に入れる。

その動きに星影はハッとした。



(まさか!?)



「衛青将軍!そいつは双鞭使いですっ!!」


「なに!?そうべん―――――!?」



星影の言葉を裏付けるかのように、衛青を攻撃するのとは別の「九節鞭」が姿を現した。

そして、俊敏な動きで放たれた。



「うわぁあ!?」

「きゃあ!?」



十二の節でつながれた鎖は、生きた蛇のごとく二人の少年少女に絡みついた。


「ぐっ!」

「いやあっ!」


体を一緒に拘束された二人は、仲よく地面へと倒れ込んだ。



「拠様!!」

「玲春殿!」



衛青と星影の叫びが重なる。



「拠様――――!」



皇太子に大将軍が気を取られた時だった。

蛇のように唸りながら、鉄の鎖が衛青の腕に絡んだ。



「ぐあ!?」

「馬鹿が!よそ見をするからだ!」

「衛青将軍!!」



そのまま引きずられる武人。



「なんて馬鹿力だ!!」



大の大人も含めて、三人もの人間が身動き取れなくなるなんて!

多少感心はしたが、そんな時と場合ではなかった。



(ヤバイ!両方ヤバいって!)



槍を突き出してくる敵をあしらうと、星影は紅嘉を大声で呼んだ。



「来い紅嘉!皇太子達を救え!!」



それまで敵をなぶっていた虎は、星影の一言で衛青達の元へと向かう。



(間に合うか!?)



今動けるのは自分だけ。

急いで三人の側まで向かうが、



「もう手遅れよっ!」



頭目の言葉に、五人の男が二人に駆け寄る。



「衛青将軍!皇太子殿下!玲春殿!」



その手には、大斧が握られていた。



「拠様ぁああ!」

「叔父上っ!!」

「安様ぁぁぁぁぁ!!」

「―――――――やめろっぉおお!!」



最後の星影の制止に、してやったりという顔で斧を持った敵は笑う。

そのまま、迷うことなくそれを彼らに振り下ろした。




「きゃあ!」

「うわぁあ!?」

「くっ!!」

「もらったぁ!」




万事休す!!

天帝よ!

普段あんまりお願いしたことないけどお願いします!!



どうか日頃の私の行いに免じて、皇太子殿下と玲春殿を救ってくださ~~~~~い!!



「お前それなら間違いなく、助けてもらえないだろう!?」



星影の脳裏に、親友の的確なツッコミが響いた。



(林山っ・・・・!!)



そうかもしれない。

でもさ、林山。

この場にお前がいてくれたら。

お前の長い脚で、強靭な脚力で、あの斧ごと敵を吹き飛ばしてもらえたら。

形勢逆転できるんだけどな~~~!!

めったにしない、他力本願たりきほんがんをした時だった。







「だっれが―――――――やるかぁぁぁ!?」


「やらねぇよっ!!バーローぉぉぉぉ―――――――――!!」






耳に届いたのは二つのツッコミ・・・ではなく、怒声。



「え!?」



星影の目の前で、それは起こった。




「ぎゃ!?」


「ぐはっ!?」




離れた場所にいた、大斧を持つ男と九節鞭を持つ男が同時に叫んだ。

皇太子を狙っていた男は、眉間に鞘の入った状態の短刀をぶつけられていた。


「う、うう!?」


その衝撃で軽いめまいを起こしたのか、足取りがフラフラとしていた。

一方、皇太子達を拘束していた賊の首領は、しきりに顔を振っていた。



「げぇ!ぐは!お、のれ!ただの目つぶしだけならまだしもこれは・・・!!」



せき込みながら、悪態をついていた。

どうやら、顔に何らかの粉をぶつけられたらしい。

その中身がなんであるかは、わからないが足元にそれが入っていたらしい袋が転がっている。

頭目は、自分の顔にかかったそれを落とすために、頭を振っているらしい。


「お、お頭!」

「大丈・・・で・・!?」


側にいた部下もゲホゲホとむせているので、かなりとんでもない目つぶしを食らったらしい。



「いつの間に、あんな攻撃を・・・!?」




(一体誰が!?)




そう思った瞬間、星影の耳にある声が届いた。




「はあぁああああ―――――――!!」



足に力を入れる時に発せられる声。

かろうじて斧を振りかざしている男と、皇太子達との間に割って入った人影。

痛みを抑えながら踏ん張っていた敵は、突然のことに斧を動かそうとしていた動きが止まった。


「ゃあぁっ!!」


そこを狙って、斧を持っている肘めがけて、下から勢いよく右膝を突き上げた。



「あだっ!?」



ゴキッという音がして、その手から斧が落ちた。

それを素早く奪い取ると、刃ではない背の方で持ち主の顔面を叩いた。


「ぶぎゃ!!」


その打撃で敵は後方へと倒れる。


「て、てめぇ!?」


これに慌てて、他の敵数名が襲いかかろうとしたのだが、


「はっ!」


追い払うように斧を投げつける。よけるために数歩後退した賊の一人へと人影は突進した。

駆け寄る速さも利用して、体をひねりながら相手の首に蹴りを入れる。


「やぁ!」

「うっ!?」


蹴った足を素早く地面に戻すと、その足を軸にして後ろに迫っていた別の敵を逆の足でけり飛ばした。


「はぃ!」

「がっ!」


そして、蹴った反動を利用して両手を地面につけて倒立すると、



「なっ・・・・!?」


「あいっ、やぁ――――――!!」



両足を開脚させると、両手の力を使って素早く回った。



「うぐ!」

「がは!」

「ぎゃん!?」



その攻撃で弾かれるように敵が四方に飛んだ。


「テメー!?よくもやりやがったな!?」

「殺してやる・・・!」


飛んできた仲間を受け止めながら憎々しげに言う賊達。

仲間を蹴り倒した相手を仕留めようと、左右からその人物の腹めがけてやりを突き出した。


早贄はやにえにしてやるよ!!」


ところが次の瞬間、相手は彼らの視界から消えた。


「なに!?」

「どこへ!?」


そう発して動きが止まった時、足元から殺気が放たれた。


「あ!?」

「たぁ!」


素早く屈んだその人物は、左足を軸にして、右足を伸ばしてコマのように回転した。

のばした足の表面、足の甲が敵二人の脛に思いっきり当たる。


「痛!?」

「うぁ!」


痛みに身をかがめてうずくまる動きと入れ替わりに、その人物は立ち上がる。彼は立ち上がる動作に合わせて、それぞれのみぞおちに拳を入れた。


「ごぉ!」

「ぐぅ・・・!!」



正確で的確な場所に入った拳は、相手の体を地面へと沈めた。

無駄のない動きで皇太子達の側にいた敵は、あっという間に倒された。

その鮮やかな手並みに、星影は茫然とした。

なぜなら彼女は知っていたから。



(あの動きは―――――――!?)



この世に二人といない、見間違えるはずのないその人物の動き。



「な、何者―――――――!?」



そう言いかけた頭目の言葉が悲鳴に変わる。



「――――――うっぁああ!?」


「え?」

「な!?」

「ひっ!?」

「お、叔父上!?」


頭目の痛みを訴える声に、星影や衛青をはじめとした面々がそちらを向く。

見れば、敵の親玉の両手首に『ひょう』が・・・現代で言うところの手裏剣が刺さっていたのだ。



「ぐっ・・・て、手が!?」



镖による痛みで、衛青将軍を拘束していた九節鞭から手を離す頭目。

反対の手も、镖の攻撃で落とした得物を拾うことができなかった。



「どうだい大将?俺様自慢の可愛い風采(小さい布)付きの得物の味はよぉ・・・?」

「これ以上痛い思いをしたくなければ、早々に立ち去れ!」



楽しそうにそう言う声と、真剣に怒る声。

星影はその後者の方に、くぎ付けとなった。


まさかあれは――――







(林山っ!!?)







黒衣の衣装で身を包んだ姿。

更衣に合わせた黒い布で顔は隠してはいたが、星影にはわかった。

目だけしか見えていなかったが十分だった。

それが誰であるか理解するのに。







間違いない!






(林山だわ!!)







それは紛れもなく、親友兼義弟である本物の安林山であった。








最後まで読んでくださり、ありがとうございます・・・!!



この度はおかげさまで、『破天荒列伝』も百話達成となりました。

文章も長く、更新スピードもゆっくりですが、必ず完結させますので、気長に待って頂ける方、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


さて、小説の方ですが、ついに林山&義烈が星影達に合流しました。

どんな展開になるかは、次回までお待ちいただけるとありがたいです。


最後に、小説の中で出てきた『早贄はやにえ』という言葉についての解説だけさせて下さい。

これはスズメ科の鳥にあたる『もず』が、捕まえた獲物を木の枝等に突き刺したり、挟んだりする行為のことを言います。

なぜそのようなことをするかわかっていませんが、冬の保存食として確保などがあります。そのため、冬の保存食を安全な場所に保存しているという点から、鵙が早贄をする場所を目安に、積雪量を占ったりもしていたそうです。



では、これからも、星影が主役の『破天荒列伝』をよろしくお願いいたします(平伏)





※誤字・脱字・変換ミスがございましたら、こっそり教えて頂けると助かります(汗)ヘタレですみません!!※

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