第六話 死神になりたくない理由。
翌日。昼休み。天候は曇り。
俺は学校を抜け出して、家の近くの大通りに来ていた。抜け出すのは楽勝だった。透過能力を使って消えればいいだけだからな。だけど、早く済ませないとクラスの連中や先生が心配する。急ぎたいところだ。
今の時刻は十二時五十分。
回覧板には一時と書かれていたが、それは正確ではない。約十分程前後する。死神といえど、全ての運命を司ることはできないからだ。しかし、死の運命から逃れられることはない。確実に訪れるのだ。
大通りが赤に変わる。
歩行者が大通りを歩きだす。
女性。制服だ。
――なんてことだ。あの制服は見覚えがある。あれはつい先程まで見ていた制服と同じだ。
すると大型のトラックが猛スピードで赤信号に向かってくる。
俺の人間の心が疼いた。偽善の心が疼いた。
それよりも早く、激しいブレーキ音が鳴る。それと同時に、女が芯を無くした人形の様に吹っ飛んだ。
それでもトラックの勢いは止まらない。女は前輪に巻き込まれ、後輪に踏み潰された。
即死だ。
悲鳴と喧騒が聞こえ始めた。
―――だから、俺は死神になんかなりたくない。
人の死に慣れる事はない。
救いたいという偽善が消える事はない。
この感情がある限り、絶対に、死神になりたくないんだ。
回覧板には死の予定時間と場所しか書かれていないのは、この最悪の仕事で、僅かな救いだった。
もし、人間の名前が書かれていたら。もし、それが俺の知っている人間だったら――。
思考を止めた。意味がない。
いや、恐いんだ。
考えることを拒絶したいだけか。
肉の器から赤い魂がはみ出した。とにかく今は魂の回収だけを考えろ。せめてあの世で幸せに過ごせるように、魂は傷つけるな。
さっさっと終わらせて、学校に戻ろう。