第三話 雄司。
試験終了のチャイムが鳴る。
やっちまったー!
そりゃあできるわけないですよ。明け方まで街中駈け回って、魂刈ってたんだぜ?人間の能力じゃあ、こんぐらいが限界さ。
「その様子だと散々だったみたいだな?」
さすが長年のツレ。俺の顔見て結果わかるか。
「わかりきってたことだろ?そんなことより早く練習行くぞ。」
そんなことより?さすがバスケ馬鹿。あの結果じゃ俺だって人並にへこむぜ?
そんな俺の心情など毛程も気にしない男。それが雄司だ。バッシュが壊れたのも知っているのに関係ないみたい。
試験終了後から約五分。俺は体育館にいた。雄司に連れられ、あれよあれよと練習着になっていた。
「練習時間までまだあるな。」
そう言って雄司は俺にパスをした。俺は胸の前でキャッチ。雄司を見ると足腰を落とし、両手を広げていた。
「これが目的かい?」
俺はそう言うとドリブルを始めた。雄司の表情がみるみる内に歓喜していく。まるで玩具を見る子供だ。
こうして一対一が始まった。
俺は人間と競い合う時に、死神の能力は絶対に使わない。直樹の様に人間にバレないくらいの力を使うこともできるけどな。けど、フェアじゃない。そうだろ?
それに俺は人間の努力ってもんを尊敬している。親爺や直樹には理解できないだろうな。
先の見えない鍛練の毎日。
やがて訪れる、成長の兆し。
だが、さらに現実には上がいる。
報われるとは限らない。
けれども続ける。
日々、鍛練。
続けた者でも成功は保証されない。
けど成功した者は必ず、努力をしているんだ。
俺は誰よりも努力をしている人間を知っている。今、目の前で最高の笑顔を見せている男だ。
雄司は努力の天才。そう言っても何ら差し支えない。
雄司はインターハイに出場していないにも関わらず、次の五輪の日本代表の候補に挙げられている。すでにプロチームからもオファーを受けている逸材だ。
俺は雄司を尊敬し、雄司を目標としている。バスケを通じて互いを高めあっている。
膨大な努力と、ほんの少しの才能で俺達はバスケ部を引っ張ってきた。けど、いかんせん他のメンバーはついてこれない。バスケは団体競技だからな。だが、そこに最高の喜びがあるんだ。
俺達の最後の夏。後輩達も育ってきた。今年こそ。今年こそインターハイに出る。そして全国制覇。それが俺と雄司の想い。そして夢だ。
「これで俺の二百五十連勝だな。」
雄司がリングを手で掴みながら俺に言う。俺はといえば、雄司の強烈のダンクを止められず、吹っ飛ばされていた。
俺はまだ雄司に勝てないでいる。俺だって県のベストファイブに選ばれているのに。
俺のもう一つの夢。
誰よりも、尊敬している、雄司を越える事。
「もう一戦だ。」
俺は雄司にパスをした。だが雄司はボールをコート外に放った。
「残念だな。もう時間だ。いつの間にか客も入ってきてるし、練習に移るか。」
雄司が放ったボールを後輩の一人がキャッチしていた。気が付くと周りには後輩達が集まっていた。後輩達は俺達の勝負を魅入ってたようだ。
「なーに見てんだよ。練習始めるぞ!」
雄司の一声で俺達は練習を開始した。