第一話 父と母。
「いやー母さんにも見せてやりたかったよ。昨日の純は本当に凄かったよ。一般の死神はFクラスから始まるんだよ?純はすでにBクラスの実力だ。」
親爺が新聞を見ながら母さんに語る。新聞の一面は昨夜の一家心中(?)だ。親爺はそれを読みながら、これでもかってくらいの笑顔を見せる。
「はいはい。その話は昨日聞きましたよ。私が寝てるのを起こして熱く語ったでしょ。それより新聞を読みながら朝食食べるの止めて下さいってば。」
母さんは食器を洗ってるから背を向けているけど、きっと笑顔だ。
親爺はおとなしく新聞をテーブルに置き、コーヒーを飲む。
俺はパンと目玉焼きを口に急いでほおりこむ。
「純。そんな無理して高校なんか通わないんでいいんだぞ?お前には輝かしい死神の世界が――」
カチャ。
母さんが食器を洗うのを止めた。親爺ー。いくらご機嫌でも母さんの前でその話は止めとけよ。
背を向けてるけど今の母さんは眉間にシワが寄っているに違いない。
「――あなた。その話も止めて下さいって言いましたよね?純には高校までは絶対に通わせます。結婚前に言いましたよね?高校卒業するまで、子供には両方の道を歩ませる。卒業後に死神として生きるか、人間として生きるか選ばせるって。」
ほらー。母さん、熱くなっちゃったじゃんか。朝からめんどくせーなぁ。
親爺は空気に堪えきれず、新聞で顔を隠す。そして小さな声で、そうだったな、って言った。
「ごちそーさま。」
朝からこんな話は聞きたくないね。さっさっと学校行くか。
「――純。ちょっといい?」
母さんがエプロンで手を拭きながら小走りで、玄関で靴を履く俺に声をかけてきた。
「また父さんにお小遣いせびったわね?」
――あぁ、やっぱり母さんにはバレますか。
俺は苦笑いしながら答える。
「バッシュが壊れてさ。最後の夏なんだ。ごめん。」
母さんは小さく溜め息する。でも笑顔だ。
「バッシュ買ってもらうかわりに死神認定試験を受けたわけね?」
俺は小さく頷く。
「しようがないわね。あまり父さんに期待させるんじゃないわよ?」
「わかったよ。」
そう言うと、母さんの顔がみるみるうちに悪戯する顔になってきた。効果音をつけるとしたら〈ニヤニヤ〉だ。
――やべぇ。まじかよ?それも――
「彼女の前で見栄張りたいのはわかるけど、高校生なんだから割勘にしなさい。」
――知ってるのね。まじで母さんの前じゃあ、俺は丸裸です。
やっぱりすげぇな、人間って。
どうせバレてるだろうけど、顔が真っ赤なのを見せたくないので、俺は急いで靴を履き、家を出た。
母さんは俺が死神の道を選ばないのを知っている。人間に憧れているのを知っているんだ。別に口にしたわけじゃあないけどね。
んで親爺は知らないわけ。親爺には悪いけど、死神になる気はサラサラないわけさ。
俺はそんな事を考えながら真夏日の道を歩く。中間試験の勉強はほぼできてなかったため、非常に足が重い。
でも俺はご機嫌なのさ。
だって学校にはあいつらがいるから――。俺が人間の中で一番好きなやつらさ。