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第十九話 暴走と、いつか見た男。

泣き暮れた。涙は枯れなかった。枯渇を忘れた涙腺は止まる事を否定し続けた。泣き続けた。


母さんを失った。圧倒的な喪失感。絶望的な虚無感が俺を覆い尽くした。




だが――。ふと、俺の心の中で、別の感情が目を醒ました。静かに、だが確実にその感情に火が灯り始めた。胸に熱さを覚える。やがて火は炎へ。胸が燃えている。心に灼熱を感じた。その感情は噴火寸前の溶岩の様に、俺の中で暴れ出した。巨大化したその感情は、悲壮と虚無を飲み込みさらに増大される。

この感情は何だ?知っている。俺は知っている。




――これは怒りだ。母さんを殺した犯人を許さない。母さんを奪った犯人を許さない。




殺してやる!!!!




感情が弾けた。止まらない。従え。この怒りに従え!!


俺は死神の能力を解放した。全身を強固な筋肉が覆う。五感が絶対的な敏感さに変貌を遂げた。何だ、この感覚は。体の隅々に絶対的な力がほとばしる。経験した事がない、強大かつ洗練された感覚が備わった。まずは嗅覚――。母さんの血の臭いを辿れ。まだ遠くない。次に足の筋肉――。跳べ。いや、翔べ。舞うんだ。


「純!止めろ!餌を私的に刈れば、世界は崩壊するぞ!」


刹那に親爺の声が聞こえた。その刹那を越えて、俺は夜空に舞っていた。


すでに遠くに親爺が能力を解放した感覚を感じた。俺を追っている。だが、俺の速度に追い付けない。距離をどんどん引き離している。


一瞬にして母さんの臭いに近づいた。


地を見ると、中年の男が歩いていた。禿上がった頭。醜い脂肪。腐った卵の臭いを放つ汗。手には血のついた包丁。


こいつか。間違いない。こんな糞野郎に母さんは……!!




――殺してやらぁぁっ!!




俺は全力で能力を解放した。犯人を目指し、天より降下を開始した。右手に全ての力を集約させる。右手は筋肉の硬度を越え、鋼鉄の硬度と変貌した。振り上げる。首を目がける。


「そこまでです。」


遠くで声が聞こえた。記憶の片隅に覚えがある声だ。それと同時に宙空で全身の自由を失った。体に鞭の様な物が巻き付いている。俺はまた空に昇った。鞭の力だった。犯人から数百メートル引き離されて、地面に叩きつけられた。


「君はそれでも死神ですか?」


声を近くに感じた。倒れたまま、声の主を見る。黒髪の長髪。一本に結わかれ朱色の帯で止めている。長身細身。鮮やかすぎる紺色のスーツ。何処かで見た男だ。関係ない。犯人を殺せ――。俺の全細胞が唸っていた。


「てめぇ!!邪魔するんじゃねぇ!!」


俺は吠えた。鞭をぶち破れ。全身を鋼鉄に変化しろ。ぶち破れ!!


男はクスッ、と吐息と共に美麗な笑みを浮かべた。


「無駄です。いくら天才と呼ばれようと、君はまだ若い。私には及ばない。」


言う通りだった。鞭の力は巨大だった。切れない。


「純!!」


親爺の声だった。母さんの感覚もする。母さんの亡骸を抱いていた。親爺は土煙を舞わし俺の近くに着地した。


「躾がなっていませんね。」


親爺は声の主に膝まづいた。ひれ伏している。


「申し訳御座いません。カミュ様自ら、馳せ参じて頂くとは。お恥ずかしい限りです。」


カミュと呼ばれるその男は長髪を風になびかせた。微笑んだ。違う。妖しい。人間の筈はない。何者だ。


「君には紹介がまだでしたね。ジュミラール・カミュです。大王様の親衛隊長ですよ。」


カミュは欝陶しいほどに、妖艶に微笑んだ。



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