第十五話 親爺の真意。
先にリビングに戻った親爺を追う。親爺はリビングの椅子に座った。両肘をテーブルに起き、頭を抱えている。肩が小さく震えていた。ひどく、落胆していた。尋常じゃない。
「…親爺。まじでどうしたんだよ?話してくれ。」
問い掛けても返事はない。頭を抱えたままだ。
「絶対、変だよ。何かあったんだろ?教えてくれよ。」
親爺は頭を抱えたまま答えた。
「……正確には、これから、だ。」
そう言うとまた沈黙した。
もういい。自分で考えるよ。状況を分析しろ。
まず携帯の怒号。真意は解らないが、とにかく俺に早く帰ってきてほしい。それは間違いない。
次に、息を整えて何時もどおりに。つまり変化に気付かれたくない。誰に?もちろん母さんしかいない。
そして夕飯。母さんには目立った変化はない。親爺は時計を気にした。《正確には、これから、だ。》つまりこれから何かが起きる。
一瞬見せた悲しい目。一瞬なのは何故だ?母さんに気付かれたくない?何故だ?それに母さんに対する親爺のあの白々しい態度は何故だ?
――待て。待てよ。俺の中で小さなピースが形を整え始めた。類似点のないと思われた点達が、線で結ばれ始めた。
親爺の異常な行動は全て、母さんに繋がる。母さんを中心に動き、母さんにひた隠した。
これから起きること。親爺のこれからがわかること。決まってる。一つしかない。
――魂の回収時間だ。
そして、あの一瞬だけ見せた悲しい目。そして、淋しそうな目。その意味――。
――俺の中で雷光が走るような衝撃が走った。信じられない現実を予測してしまった。ま、まさか……。
「親爺!回覧板はどこだ!?」
「…電話の下の棚だ。」
力ない返事。疑心が確信へ近づく。いや、信じるものか。この目で見るまで信じたくない。
俺は急いで回覧板を開いた。
『○月×日。回収魂個数。一。場所。東京地区。江戸川河川敷。人間時間。午後八時二十分。』
江戸川河川敷――。高田さんの家までの道程。時計を見る。
八時十五分。
疑心は確信に変わった。だが、信じられない。けど親爺の行動。回覧板。全ては一つの事象を指していた。
「親爺!母さんが死ぬのか!?」
親爺はさらに頭を抱え込む。テーブルに頭を置いた。
「……そうだ。」
思考が止まった。