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第十四話 家族団欒。

息が切れた。本気で走った。とにかく走った。約五分で家に着いた。急いで扉を開ける。


「純。息を整えろ。そして何時もどおりにしていろ。」


――はぁ?意味がわからねぇよ。まじで何なんだよ。完全に俺の帰りを待ってたな。玄関までお出迎えかよ。


「純は理解しなくていい。ただ、従え。」


親爺が俺を威圧する。圧倒的だ。何てプレッシャーだ。実の息子相手に何だってんだ?


「わかったよ。何時もどおりだね。」


俺は深く深呼吸する。二回、三回。息は整え始めた。


「よし。夕飯だ。冷える前にしっかり食べろよ。」


次は夕飯かい?もう何だっていい。真意はわからない。従うよ。


俺はリビングに向った。テーブルにはカレーライスが三つ並んでいた。


「あら、お帰り純。今日は早いじゃない。」


母さんがテーブルにサラダを置きながら話す。何時も変わらぬ風景だ。親爺も席に座った。それを見て俺も座る。


「やっぱり食事は全員で食べなきゃね。」


母さんも笑顔で席に着いた。食事をする。家族団欒だ。何だよ。これが親爺の目的か?


他愛ない談笑が続いた。親爺も笑顔で会話している。先程の態度とはまさに豹変して。




――ふと、親爺に視線をやる。親爺は母さんを見ていた。その目は何故か、淋しそうな、悲しそうな目だった。だが、一瞬で笑顔に戻った。


一体何なんだよ。真意を知りたい。今の目は何なんだ?尋常じゃない態度は何なんだ?


「母さん。とても美味しかったよ。ごちそうさま。」


親爺が零れそうな笑顔で母さんに微笑んだ。


「何ですか、急にー。」


母さんが少し疑いながら親爺を見た。


「いや、本当にそう思っただけだよ。」


「あら、そうですか?褒めても何も出ませんからね。」


母さんは食器を片付け台所に向った。食器を洗っている。


「なぁ親爺。一体何事なんだよ?そろそろ教えてくれよ。」


俺は小声で親爺に聞いた。


「母さんのメシは美味かったか?」


「え?あ、あぁ。美味かったよ。」


「そうだろ?父さんの自慢なんだ。」


どうやら答える気はないみたいだな。もういいよ。諦めた。


俺と親爺は食後のコーヒーを飲んでいた。また、ふと親爺を見る。チラチラと、壁にかかる時計を見ていた。


――トゥルルル


家の電話が鳴った。母さんが台所から小走りで来た。エプロンで手を拭いて電話に出る。


「――はい、もしもし。あら、高田さん?どうしたの?」


ご近所の高田さんからの電話だった。母さんは笑顔で話していた。




親爺はというと。テーブルの下で拳を固めていた。小刻みに震えていた。何なんだよ、まじで。


「あなた。ちょっと出掛けてきていいかしら?」


「あぁ。また高田の旦那の愚痴かい?」


「そうなのよー。なるべく早く帰ってきますから。」


母さんはそう言って電話を切った。急いで身仕度を整え、玄関に向った。俺は親爺と二人きりになった。すると親爺は俺の耳元で呟いた。


「玄関に行くぞ。」


もう疑問にすら思わない。俺は親爺に従った。


玄関では母さんが靴を履いていた。


「あら、何よ。二人揃って。」


「別に何でもないよ。母さん。気を付けてな。」


親爺はまた母さんに微笑みかけた。


「いってらっしゃーい。高田さんと仲良くね。」


俺も母さんに微笑んだ。


「何よー。ちょっとおかしいわよ?まぁいいけど。あ、食器は洗っておいたんで拭いといて下さいね。」


そう言って母さんは外へ出た。


親爺は母さんを見送ると、リビングに戻った。




――不思議と、足取りは重かった。

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