第十一話 時の執行者。
部屋の前に着く。巨大な扉の前に立つ。扉の前からも圧倒的なプレッシャーが私を襲う。この職に就き数百年。ライル様の威厳に慣れるという事はない。息を整える。鼓動を収める。だが、収まることはない。わかっていたことだ。扉をノックする。
「失礼します。」
「問題か?」
低く、くぐもった声。重い重圧が襲う。だが、仕事だ。報告しろ。
「これを御覧下さい。」
部下から渡された資料をライル様に渡す。何時もと変わらない魂の報告書。それに連なる報奨金。魂を回収する死神の名前。何時もと変わることはない。
最後のページを開く。
「ほう。ミラークの息子が回収しているではないか。順調に育っているようだな。一月に六つか。優秀だ。やはり混血は強いようだな。」
ライル様は次の資料に目を通す。来月の回収される魂。数万とある。全てを総括されている。
「要点は?」
「東京地区です。ミラークの地域です。」
ライル様はミラークの地域の資料を開く。
「――そうか。あれから十八年。思ったより早かったな。」
「ミラークに仕事をこなせるのでしょうか。」
ライル様の目が私を貫く。鼓動が高鳴る。
「カミュ。お主の杞憂に過ぎぬわ。ミラークは死神だ。それも優秀だ。必ず仕事をこなす。」
「失礼しました。親衛隊長として過剰な配慮でした。」
「許す。以上ならば下がれ。」
――ここからだ。本題は。
「もう一件ございます。ご子息様の事で。」
「アスーリか。何だ?また餌との交配か?」
「餌との交配の際に避妊は必ずしているので問題ないですが。」
「ならば何だ?要点を話せ。」
苦しい。ライル様の重圧は圧倒的すぎる。死神の頂点に立つ御方の権威は私には強すぎる。
「失礼しました。アスーリ様はミラークの息子を地獄へ戻せと申し付けてきております。」
「理由は?」
「餌と深く関わっている様です。」
「表向きではない。真意を話せと言っている。」
「…はい。アスーリ様の嫉妬と執着からくるものです。ミラークの息子に非はないとの調べです。」
「ならば聞き流せ。監視は怠るな。」
「承知しました。」
急いで部屋を出る。長居は無用だ。報告は済ませた。問題はない。
気をやりすぎか。アスーリ様にも手を焼かされる。まぁいい。全ては《時》が決める事。我々はその《執行者》に過ぎない。
誰もいない廊下から窓の外を眺める。暗い空。ぶ厚い雲が空を隈無く覆っている。この地には太陽の光は届かない。荒れた大地。緑が育つわけもないので荒涼としている。
私が立つ城には荘厳で華麗な装飾が施されている。死の神の頂点が座する城。地獄と現実世界を監視するかのように巨大にそびえ立つ。それに連なるようにいくつもの建物が並び立つ。私達の仕事場だ。
ここは地獄。
死神達の暮らす世界。