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第十話 覚悟。

連載を再開します。色々煮詰まりましたが、これからまた頑張りますのでお付き合い下さい。よろしくお願いします!!

通学路を下校した。何時もの帰り道を歩く。街路樹に青々とした葉。少ない街灯。空を見上げれば満天の星空と満月。見慣れた景色。落ち込んだ気持ちは消えることはないが、なんとか昇華できそうだ。時間が解決してくれる。足取りもさっきよりは軽い。景色を眺める余裕もあるからな。


その内、家が見えてきた。今日は早く寝よう。疲れた時は寝るに限る。ドアを開ける。


「仕事はどうだった?」


親爺が玄関に立っていた。俺の帰りを待ってたのか。


「楽勝だったよ。でも部活で疲れたから今日はメシはいいや。寝るよ。」


俺は靴を脱ぎ、親爺の横を通りすぎ階段に向かった。


「同じ高校の女だったらしいな。」


足が止まる。何故、親爺が知っている?回覧板には場所と時間と個数しか書かれていないのに。


「さっき、直樹様から電話を頂いた。純にルールを躾直せと申し付けられたよ。」


クソッ。あの野郎は俺をどこまで苦しめればいいんだ。


「純。直樹様は王族だ。逆らうことはできない。同業者と争うこともルール違反だ。」


わかってるよ。死神なんて糞食らえだし、親爺は理解してもそれに逆らわない律儀者だってこともな。


「――すまないな。」


え?どうした?親爺が俺に謝るなんて。珍しいにも程がある。俺は振り返り親爺を見る。


「直樹様はお前に異常な執着を持っていらっしゃる。あの時、お前が直樹様を殴って以来、それは限度を越え始めた。だが、それを止める力が父さんにはないんだ。」


親爺は下を向き、苦しんだ表情をしている。らしくねぇよ。人間みたいだ。


「人間との混血はお前以外いないからな。珍種を見る目でお前を観察している。」


「大丈夫。直樹の性格は理解しているから。なんとかあしらうよ。親爺に迷惑はかけないさ。」


俺はそれだけ言って階段を登った。直樹への怒りが込み上げる。だが、親爺を思えば怒りは治まる。大丈夫。あしらえるさ。自分に言い聞かせる。




ふと、足が止まった。俺は何となく聞いてみたくなった。今の雰囲気なら親爺は答えてくれるかもしれない。淡い期待を抱いた。


「もし、もしもだよ?死ぬはずの人間を救ったらどうなるんだ?」


親爺は振り向き、俺を見る。目を鋭くする。眉間に皺も寄っている。――やべぇ。怒らせたか?


「純。それだけは許されないことだ。それ以上でも、それ以下でもない。」


圧倒された。親爺のこんな顔は始めてだ。鋭い表情に、重い声が俺にのしかかった。俺は少なからず怖れを抱いてしまった。


「だが、答えよう。回収されるべき魂が現実に存在する。その矛盾は現実世界に小さい亀裂を呼ぶ。回収されなかった魂が、人間と接触するだけで、多くの運命が変化する。回収されるべき魂が回収されなければ、死後の世界と現実の世界の境目が曖昧になるだろう。」


戦慄した。俺の軽はずみな偽善は、やはり世界を崩壊させるんだ。死後の世界と現実世界が入り交じる。死んだはずの人間が現実へ。現実に生きている人間が死後へ。考えるだけで恐ろしくなる。混沌の世界だ。




だが、親爺はどうするんだ?聞きたい。親爺の答えを聞きたい。


「なら、親爺は母さんが死ぬとわかったらどうするんだ?」


親爺は相変わらず俺の目を見ている。だが、その目からは鋭さは消えた。変わりに、穏やかな目になっていた。口元も緩やかになる。そして、こう言った。




「母さんの魂は父さんが回収するさ。父さんは死神だからな。」




――覚悟が伝わった。きっと親爺は母さんを愛した時点で、逃れられない現実を覚悟している。それまで伝わった。


「やはり疲れているな。今日は早く寝なさい。」


そう言って親爺はリビングに行った。




今日は本当に疲れたよ。もう寝よう。考えるのも疲れるしな。

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