聖女を処刑した王国の滅亡RTA
「偽聖女エリシア! お前の罪は明白だ!」
王都の中央広場で、王太子が高らかに宣言した。
私の罪は、聖女を騙ったこと。神聖な力を私物化したこと。そして、真の聖女である男爵令嬢を害そうとしたこと。
もちろん、すべて身に覚えがない。
私は十年間、聖女として王国を守ってきた。魔物を退け、疫病を鎮め、王都を囲む大結界を維持してきた。
その私を、王太子は処刑すると言う。
「最後に言い残すことはあるか?」
「私が死ねば、王都の結界は消えます。どうか、民を避難させてください」
「まだそのような脅しを! 真の聖女はここにいる!」
王太子は隣に立つ男爵令嬢の肩を抱いた。
「エリシア様。ご安心ください。これからは私が、この国を守ります」
「……そうですか」
もう、何を言っても無駄なのだろう。
「刑を執行せよ!」
そして、私の人生は終わった。
◇
「お疲れさまでした、エリシア」
「……はい?」
目を開けると、私は真っ白な空間に立っていた。目の前には、金色の髪をした美しい女性がいる。
「私は女神です。あなたには、別の世界へ転生していただきます」
「……女神様?」
「はい。十年間、本当によく頑張ってくださいました」
「ありがとうございます。……あの、私が守っていた王国は、どうなったのでしょうか?」
「気になりますか? では、転生の前にお話ししましょう」
女神様が指を鳴らすと、目の前に大きな光の窓が現れた。
そこには、王宮で盛大な宴を開く王太子と男爵令嬢が映っていた。
「あなたの処刑を祝う宴です。王太子は、偽聖女を排除した自分こそ王国の救世主だと宣言しました」
「……でしょうね」
「男爵令嬢は真の聖女として認められ、二人は婚約を発表しました」
「それで、結界は?」
女神様は、どこからともなく一冊の本を取り出した。
「処刑後七日目。王都の大結界が消滅しました」
「……七日も持ったのですか?」
「あなたが十年間、丁寧に維持していたおかげですね」
「それで?」
「八日目。王太子が偽聖女に結界の再展開を命じました」
「できたんですか?」
「いいえ」
「でしょうね」
「九日目。偽聖女が結界の再展開に成功したと発表しました」
「……え?」
「十日目。王太子が結界の復活を祝う宴を開催しました」
「ちょっと待ってください!」
「十一日目。魔物が王都に侵入しました」
「結界は!?」
「ありません」
「でしょうね!」
私は頭を抱えた。結界が消えたなら、まず避難でしょう!
「十二日目。王国軍が迎撃に出ました」
「ようやくですね!」
「十三日目。王国軍が敗走しました」
「早い! 早すぎます!」
「王太子は、真の聖女の加護があるから負けるはずがないと宣言していました」
「加護なんてないでしょう!」
「はい。ありません」
「でしょうね!!」
女神様は淡々と本をめくった。
「十四日目。国王が王太子を廃嫡しました」
「遅いですよ!」
「十五日目。王太子が国王の退位を要求しました」
「反省してない!」
「十六日目。国王派と王太子派が王宮で戦闘を始めました」
「魔物が攻めてきてるんですよね!?」
「はい」
「なんで人間同士で戦ってるんですか!?」
「王位継承問題です」
「王国がなくなったら王位もなくなるでしょうが!!」
「十七日目。魔物が王宮の外まで到達しました」
「ほらあああ!」
「十八日目。王宮の内乱が激化しました」
「外の魔物をどうにかしてください!!」
「十九日目。王太子派が国王派を破りました」
「勝ってる場合ですか!?」
「二十日目。王太子が新国王を名乗りました」
「……はい?」
「二十一日目。王太子が即位式を開催しました」
「今!?」
「はい。魔物が王宮の門を破壊している最中です」
「式を中止してください!!」
「二十二日目。即位式の最中に魔物が王宮へ侵入しました」
「ほらああああ!!」
「二十三日目。王宮が陥落しました」
私は額を押さえた。
処刑から、わずか二十三日。王国の中枢が失われてしまった。
「……王太子と男爵令嬢は?」
「王宮の地下通路から逃亡を試みました。二十四日目。地下通路の出口で魔物に遭遇しました」
「……あ」
「男爵令嬢は、最後まで自分が真の聖女だと叫んでいました」
「……それで?」
「王太子は、エリシアを連れてこいと命じ続けていました」
「私死んでますよ!?」
「二人とも、そこで命を落としました」
女神様は、何事もなかったように本をめくった。
◇
「では、次のお話です」
「まだあるんですか!?」
「王都は陥落しましたが、地方には貴族たちが残っています」
「ああ、そうでしたね」
「二十五日目。王都陥落の知らせが全国に広まりました」
「二十六日目。各地の貴族たちが独立を宣言しました」
「今!?」
「二十七日目。七つの公国が誕生しました」
「七つも!?」
「二十八日目。七つの公国が、それぞれ独自の軍を編成しました」
「魔物に対抗するためですよね?」
「二十九日目。七つの公国が互いに宣戦布告しました」
「なんで!?」
「王国の正統な後継者を決めるためです」
「王国が滅びかけているでしょうが!!」
「三十五日目。七つの公国が二つになりました」
「……統一が進んだんですか?」
「五つ滅びました」
「でしょうね!!」
「四十日目。残る二つの公国が魔物に滅ぼされました」
「……結局、魔物とはいつ戦ったんですか?」
「最後の二日間です」
「残りの時間、全部内戦してたんですか!?」
「はい」
「…………」
「以上が、王国滅亡までの記録です」
女神様が本を閉じた。
「終わり!?」
「はい。王家は断絶し、貴族も全滅しました。王国は消滅しました」
「……私、十年間、何を守っていたんでしょうね」
「本当に、お疲れさまでした」
「本当にお疲れさまでした、私!!」
◇
「それでは、別世界へ転生していただきます」
「切り替え早いですね!?」
「もう、あの国についてお話しすることはありませんから」
「……確かに」
「転生先は平和な世界です。聖女のお仕事もありません」
「本当ですか!?」
「はい。結界の維持も、魔物の討伐も、あなたが担当する必要はありません」
「最高じゃないですか!」
足元に光が広がった。
「それでは、エリシア。いってらっしゃい」
「はい!」
私は笑顔で光の中へ踏み出しかけて、ふと思い出した。
「……あの、女神様。一つだけお願いがあります」
「何でしょう?」
「次の世界では、どうか……」
私は心の底から願った。
「四十日で滅亡するような国だけは、勘弁してください!!」




