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聖女を処刑した王国の滅亡RTA

作者: よみなぎ
掲載日:2026/10/30

「偽聖女エリシア! お前の罪は明白だ!」


 王都の中央広場で、王太子が高らかに宣言した。


 私の罪は、聖女を騙ったこと。神聖な力を私物化したこと。そして、真の聖女である男爵令嬢を害そうとしたこと。


 もちろん、すべて身に覚えがない。


 私は十年間、聖女として王国を守ってきた。魔物を退け、疫病を鎮め、王都を囲む大結界を維持してきた。


 その私を、王太子は処刑すると言う。


「最後に言い残すことはあるか?」


「私が死ねば、王都の結界は消えます。どうか、民を避難させてください」


「まだそのような脅しを! 真の聖女はここにいる!」


 王太子は隣に立つ男爵令嬢の肩を抱いた。


「エリシア様。ご安心ください。これからは私が、この国を守ります」


「……そうですか」


 もう、何を言っても無駄なのだろう。


「刑を執行せよ!」


 そして、私の人生は終わった。


◇


「お疲れさまでした、エリシア」


「……はい?」


 目を開けると、私は真っ白な空間に立っていた。目の前には、金色の髪をした美しい女性がいる。


「私は女神です。あなたには、別の世界へ転生していただきます」


「……女神様?」


「はい。十年間、本当によく頑張ってくださいました」


「ありがとうございます。……あの、私が守っていた王国は、どうなったのでしょうか?」


「気になりますか? では、転生の前にお話ししましょう」


 女神様が指を鳴らすと、目の前に大きな光の窓が現れた。


 そこには、王宮で盛大な宴を開く王太子と男爵令嬢が映っていた。


「あなたの処刑を祝う宴です。王太子は、偽聖女を排除した自分こそ王国の救世主だと宣言しました」


「……でしょうね」


「男爵令嬢は真の聖女として認められ、二人は婚約を発表しました」


「それで、結界は?」


 女神様は、どこからともなく一冊の本を取り出した。


「処刑後七日目。王都の大結界が消滅しました」


「……七日も持ったのですか?」


「あなたが十年間、丁寧に維持していたおかげですね」


「それで?」


「八日目。王太子が偽聖女に結界の再展開を命じました」


「できたんですか?」


「いいえ」


「でしょうね」


「九日目。偽聖女が結界の再展開に成功したと発表しました」


「……え?」


「十日目。王太子が結界の復活を祝う宴を開催しました」


「ちょっと待ってください!」


「十一日目。魔物が王都に侵入しました」


「結界は!?」


「ありません」


「でしょうね!」


 私は頭を抱えた。結界が消えたなら、まず避難でしょう!


「十二日目。王国軍が迎撃に出ました」


「ようやくですね!」


「十三日目。王国軍が敗走しました」


「早い! 早すぎます!」


「王太子は、真の聖女の加護があるから負けるはずがないと宣言していました」


「加護なんてないでしょう!」


「はい。ありません」


「でしょうね!!」


 女神様は淡々と本をめくった。


「十四日目。国王が王太子を廃嫡しました」


「遅いですよ!」


「十五日目。王太子が国王の退位を要求しました」


「反省してない!」


「十六日目。国王派と王太子派が王宮で戦闘を始めました」


「魔物が攻めてきてるんですよね!?」


「はい」


「なんで人間同士で戦ってるんですか!?」


「王位継承問題です」


「王国がなくなったら王位もなくなるでしょうが!!」


「十七日目。魔物が王宮の外まで到達しました」


「ほらあああ!」


「十八日目。王宮の内乱が激化しました」


「外の魔物をどうにかしてください!!」


「十九日目。王太子派が国王派を破りました」


「勝ってる場合ですか!?」


「二十日目。王太子が新国王を名乗りました」


「……はい?」


「二十一日目。王太子が即位式を開催しました」


「今!?」


「はい。魔物が王宮の門を破壊している最中です」


「式を中止してください!!」


「二十二日目。即位式の最中に魔物が王宮へ侵入しました」


「ほらああああ!!」


「二十三日目。王宮が陥落しました」


 私は額を押さえた。


 処刑から、わずか二十三日。王国の中枢が失われてしまった。


「……王太子と男爵令嬢は?」


「王宮の地下通路から逃亡を試みました。二十四日目。地下通路の出口で魔物に遭遇しました」


「……あ」


「男爵令嬢は、最後まで自分が真の聖女だと叫んでいました」


「……それで?」


「王太子は、エリシアを連れてこいと命じ続けていました」


「私死んでますよ!?」


「二人とも、そこで命を落としました」


 女神様は、何事もなかったように本をめくった。


◇


「では、次のお話です」


「まだあるんですか!?」


「王都は陥落しましたが、地方には貴族たちが残っています」


「ああ、そうでしたね」


「二十五日目。王都陥落の知らせが全国に広まりました」


「二十六日目。各地の貴族たちが独立を宣言しました」


「今!?」


「二十七日目。七つの公国が誕生しました」


「七つも!?」


「二十八日目。七つの公国が、それぞれ独自の軍を編成しました」


「魔物に対抗するためですよね?」


「二十九日目。七つの公国が互いに宣戦布告しました」


「なんで!?」


「王国の正統な後継者を決めるためです」


「王国が滅びかけているでしょうが!!」


「三十五日目。七つの公国が二つになりました」


「……統一が進んだんですか?」


「五つ滅びました」


「でしょうね!!」


「四十日目。残る二つの公国が魔物に滅ぼされました」


「……結局、魔物とはいつ戦ったんですか?」


「最後の二日間です」


「残りの時間、全部内戦してたんですか!?」


「はい」


「…………」


「以上が、王国滅亡までの記録です」


 女神様が本を閉じた。


「終わり!?」


「はい。王家は断絶し、貴族も全滅しました。王国は消滅しました」


「……私、十年間、何を守っていたんでしょうね」


「本当に、お疲れさまでした」


「本当にお疲れさまでした、私!!」


◇


「それでは、別世界へ転生していただきます」


「切り替え早いですね!?」


「もう、あの国についてお話しすることはありませんから」


「……確かに」


「転生先は平和な世界です。聖女のお仕事もありません」


「本当ですか!?」


「はい。結界の維持も、魔物の討伐も、あなたが担当する必要はありません」


「最高じゃないですか!」


 足元に光が広がった。


「それでは、エリシア。いってらっしゃい」


「はい!」


 私は笑顔で光の中へ踏み出しかけて、ふと思い出した。


「……あの、女神様。一つだけお願いがあります」


「何でしょう?」


「次の世界では、どうか……」


 私は心の底から願った。


「四十日で滅亡するような国だけは、勘弁してください!!」


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― 新着の感想 ―
まあ結界に守られ過ぎて居たからこそ宮廷政治に全力疾走出来てしまったんだろうね〈王子含む上位貴族全員
聖女の結界があるってだけで、よく今まで国として成り立ってましたね。
民の反乱はなかったのか……… 哀れ過ぎるね〜
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