貧乏辺境伯の元に悪役令嬢が嫁いできたら……
俺レイナード・センタントは頭を抱えていた。
その原因となっているのは机の上に置いてある1枚の手紙だった。
「いきなり婚約なんて……、王家は何を考えているんだ? そんな余裕なんて無いのに……」
手紙には『アリアーナ・ロイナート公爵令嬢と婚約せよ』と短く書いてある。
「なぁ、俺の記憶が正しかったらアリアーナ・ロイナートは王太子の婚約者じゃないか?」
俺はこの屋敷に勤める唯一の執事に聞いた。
「はい、ですが最近公の場で婚約破棄を通告されたそうです」
「公の場で? 王太子は何をやってるんだ?」
「どうやら他に好きな娘が出来たみたいで」
「王族の結婚をなんだと考えているんだ……」
溜息が出るしかなかった、なんせその婚約破棄のとばっちりを受けているのだから。
「国王様もいつまでも嫁を取らない旦那様を心配なさってのご決断なんでしょう」
「取らないんじゃない、取れないんだ!」
俺だって家を継いでから3年、嫁探しを蔑ろにしてきた訳じゃない。
一応辺境伯を名乗っているが嫁を迎える様な状況ではないのだ。
原因は先代である馬鹿親父が残した借金、更に天変地異やら人口の減少など悪い事が重なり現在綱渡り状態でいつでも爵位返上をしてもおかしくない状態だ。
「親父が賭博に手を出していなければお袋とも離婚されなかったのに……」
両親は親父の借金がわかった時点で離婚、お袋はとある富豪と再婚している。
親父は何とか自分のやらかしの穴を埋めようと金策に走ったがどうにもならず体調と精神を崩し自ら命を絶った。
そんな事情を持つ我が家に勿論見合い話なんて来る事も無く現在に至る。
「まずはアリアーナ嬢がどんな人物なのか知るべきだな」
「はい、世間の噂ですと『悪役令嬢』と言われ貴族社会からも嫌われている様です」
「悪役令嬢ねぇ……、世間の噂なんて信用出来ないからなぁ」
そして、手紙が届いた数日後、馬車に乗られアリアーナ嬢がやって来た。
「はじめまして、アリアーナ・ロイナートと言います」
「レイナード・センタントだ、こんな田舎によく来てくれたな、歓迎する」
公爵令嬢と聞いていたからもっと高飛車な人物かと思っていたが実際現れたのは素朴な感じがする少女だった。
この時点で噂が嘘である事を確信していたが、その日の夜にアリアーナが信頼できる人物である事がわかった。
「実は此処に来る道中で領地を見させていただきました」
「何も無いだろ? 立て直そうと思っていても上手くいかないんだ」
「そこでなんですが」
アリアーナは紙の束を机の上に置いた。
「私が考えた改革案です、成功するかは実際にやってみないとわかりませんが実行しないよりかはよろしいかと思います」
「か、改革案?」
「はい、私なりに調べまして作成しました」
そこからアリアーナのプレゼンが始まった。
この土地がどういう土壌でどういう作物が育ちやすいとか、新たにこういう事をやればこれだけの収入が入るとか、この改革にはどれだけの人数でどれだけの資金が必要か等具体的な事を話した。
書類を見ながら自分の知らない事まで調べてきたので驚いたと同時に納得をしていた。
「勿論すぐに結果が出る訳ではありません、何年かはかかると思いますがどうでしょうか」
「俺も何とか色々頑張ってきたがなかなか結果が出なくて行き詰まっていたんだ。 この際だ、君の提案に乗っかる事にしよう」
「ありがとうございます」
俺とアリアーナはガッシリと握手をした。
彼女の敏腕ぶりは領民にも届いた。
領民を集めて説明会を行なったがアリアーナは領民からの質問に丁寧に分かりやすく説明した。
結果、領民からの信頼も得て協力を得る事が出来た。
更に王都から技術者を呼び寄せ辺境の開拓に取り組んだ。
アリアーナ曰く彼等は腕はあるものの評価が低かったらしい。
「才能と腕がある者を腐らせるなんて勿体無いじゃないですか」
「君は人を見る目もあるんだな」
アリアーナ主体による辺境の改革は徐々に実を結び、数年後には我が辺境伯は見事に回復を果たした。
「アリアーナ、君は我が辺境の救いの女神だ」
「いえいえ、私だけではなく旦那様や皆さんが協力してくれたおかげです」
「こんな優秀なのに何故王太子は婚約破棄を宣言したんだ? もし君が王太子妃となっていたらもっと国は繁栄していた筈なのに」
「殿下は自分より優秀な私を毛嫌いしていたんです。 だから、わざと私の悪い噂を周囲に言っていたんです」
「心が狭いな」
「それでも王太子の発言ですから……、王家も私を危険視する様になったんです。もしかしたら自分達の座が危ぶまれるんじゃないか、と」
「それで辺境に送った、と言う事か……、まぁ今頃後悔しているだろうな」
「実は最近王家から謝罪の手紙をいただきました。 王太子様はどうやら結果が芳しくないみたいで評価がガタ落ちして王太子の座を剥奪されるそうですよ」
「そうか、アリアーナ的には満足してるのか?」
「王家に関しては特に何も思っておりません。 あ、でもレイナード様と結婚出来た事は感謝しております」
「それは俺もだ」
出会いはどうあれ俺とアリアーナは幸せを掴む事が出来た。




