12 ◇ 勇将の引退と次代始動
これにて完結です。(番外編も同時に投稿いたしました。)
関連作品については、後書きをお読みください。
「いざこの日を迎えると……寂しいけど。
団長の僕キリナードと、第3部隊長のレンディス。僕たちは今日を以て、魔導騎士団を引退する。
僕たちは王都を離れて、今度は地方から、この国を支える力になろうと思う。
──ラルダ、あとは新団長のお前に託す。
お前なら絶対に最強の魔導騎士団を作っていける。頑張れ……いや、あんまり頑張り過ぎるなよ。
そしてみんな、本当にありがとな。……とにかく、元気で。自分の命を何より一番大事にな。」
ついに、この日が来た。
儂が団長を務めていた時代から長年ずっと、幹部陣として魔導騎士団を支え続けてきたキリナードとレンディス。
騎士団の支柱である二人が今日、引退することとなったのだ。
「『引退』って言ってもさ、キリナードも俺も剣を置くわけじゃないし。
ひと足先に引退したソルヴ達と一緒に、大きな目標に向けて新しく『始める』だけだから。まだまだ現役の騎士だよ。」
昨年の副団長ソルヴの退任に続く、今年の二人の退任。
一気に幹部陣らが抜けるという事実を受け入れきれず、すでに涙目になり鼻を啜りだしている団員達に向かって、レンディスが笑って前向きな言葉を掛けた。
◇◇◇◇◇◇
──新しく始める、大きな目標。
あの8年前の「ウェルナガルドの悲劇」以来、キリナードら幹部陣は、ずっと模索し続けてきた。
そして、キリナード達が出した結論。
現在部隊長を務めている儂をはじめとする残された幹部陣は、1年前、年度が変わってすぐの幹部会議で、団長キリナードから胸の内を明かされていた。
「今の魔導騎士団には、確実に最強の次世代が揃っている。僕はそう確信している。
僕たちが引退しても、魔導騎士団のみんなはもう大丈夫だ。……だから僕たちは、ずっと考えてきていた第二の《人生》を歩む決意をした。
僕とレンディスは、来年度──あと1年をやり切ったら、この魔導騎士団を引退する。
──そして、地方に対魔物の公認『独立戦士団』を作るんだ。
実は、僕とレンディスだけじゃないんだ。
このことはつい先月引退した副団長のソルヴとも話してて……ソルヴも、協力してくれるつもりでいるんだ。
それに、去年引退した第5部隊長のシュウウェンも。あいつは『貯めた金で地方移住。仕事はもう完全に辞める。』って言ってたのに、声を掛けてみたら『力になりたい』って、剣士の復帰を約束してくれたんだ。……『ゲンジ隊長リスペクト』とか言って。
あと元・第1部隊長のヘンリーも。ヘンリーはけっこう前に引退して、今はもうすっかり指導者になってるけど。一応話をしてみたら『考えてみる』って言ってくれた。
モンド一族のようなーって言ったら、言い過ぎかもしれないけど。
でも、魔導騎士団幹部の経験者が5人もいれば、絶対にできる。
地方の有望な若手を育てて、王立機関と連携を取れるような戦士団を主要都市に設立する。そうして、完全討伐とまではいかなくても、僻地に魔導騎士団が到着するまで先行して現場を守れるようにするんだ。
魔物を追い返せればそれで充分。住民たちの避難を先導するだけでもいいんだ。ただ『持ち堪える強さ』があればいい。
あとは、到着した王国最強の魔導騎士団が、魔物を討伐してくれるから。
一から各地方で戦士団を立ち上げて、人を集めて、戦士に育てて、王国に公認させるまでの形にする。
……当然すぐには実現できない。5年やそこらでも無理だと思う。でも、10年後……20年後には、必ず実現させたい。
そうすれば、国民が一人でも多く守られる。現役の魔導騎士団の皆の力にもなれる。
僕たちはもう二度と、あんな悲劇を繰り返したくないんだ。」
キリナードはそう語った。
キリナードはあの「ウェルナガルドの悲劇」の苦難を耐え切って、あの頃の国民への怒りも乗り越えて──……王国全土の人々と仲間の両方を守るために、新たに人生を懸ける決意をしていた。
そしてそんな壮大な数十年掛かりの取り組みに、4人もの幹部陣が賛同し、共に立ち上がろうとしていた。
クゼーレ王国の王道剣術を極めた、正統派剣士キリナード。
その性格は温厚篤実。
団員達の和を重んじ、同時に個々の意思を汲み取る細やかさも持ち合わせている。
派手な肩書きや威厳こそないものの、その穏やかさと人徳で、周りが自然と集ってくる。
……キリナードらしい、此奴の団長人生の集大成のような決断だった。
ソルヴの後に副団長に就任したばかりだったドルグスは、キリナードに「お前たちは魔導騎士団で、まだまだこれから活躍してくんだぞ!」と託され男泣きしていた。
そしてそれを見た第2部隊長のセゴットが、本気か冗談かまったく分からない無表情の棒読みで「寂しいよな。元気出せよ。」と、ドルグスを励ましていた。
あの幹部会議から1年。
キリナードとレンディス、そしてソルヴとシュウウェンとヘンリーは、宣言通り、大きな目標に向けて新たな人生の一歩を踏み出したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「……キリナード。お主は、儂の団長時代とは比べ物にならんほどの苦境を、団員皆を率いて乗り越えた。
そして、幹部陣のお主達の在り方が……団長のお主の生き様が、このラルダ達『歴代最強の次世代』を育て上げたんじゃ。
お主は間違いなく、歴代最高の団長じゃ。」
儂の言葉に、キリナードは口を窄めて泣くのを堪えながら変顔の極みをした。
そんなキリナードを前にして、次代団長を託された王女ラルダは、成長した立派な魔導騎士団員らしい──人情味溢れる人の子らしい、温かな微笑みを見せた。
「キリナード団長。
私は4年間のここでの日々を通して、団長から、魔導騎士団を率いる上で最も大切なことを学びました。
我ら魔導騎士団は、王国全土の民を守るため命を懸けて戦うのが使命。
──であればこそ。
団員たちを守るのは、魔導騎士団団長の使命なのだと。
私がこれから先、進むべき道に迷ったときは……困難な状況に挫けず、非難の逆風に引かず、今日この日まで皆の前に立ち続けたキリナード団長の精神を、必ず道標にしてゆきます。」
「……っ!……ラルダぁぁ〜〜〜!お前〜〜〜!」
ラルダの力強い宣言に、キリナードは堪えていた涙をすぐにボロボロと溢して感極まっていた。
「全部『運悪い』の言い換えな。物は言いようっつーやつだよな。
不遇の時代の団長お疲れ。この後、厄払いでも行っとけよ。効果ねえと思うけど。」
「セッ……セゴットーーー!お前ぇーーー!」
儂とラルダによる褒め言葉を帳消しにしようとしてくるセゴット。
しかし、すかさずそれに被せるようにして、気の利くドルグスが仕切り直して感動の別れを再開させてきた。
「キリナード団長が率いる魔導騎士団で10年間過ごすことができて、俺たちは本当に幸せでした。キリナード団長には、今後も多くの出会いと幸福が訪れるに違いありません。
そして、レンディス部隊長。俺は部隊長として勇敢な貴方と共に並び立ち戦えたことを、生涯の誇りにします。本当に……ありがとうございました。
どうかお達者で。またお二人共、王都にいらした際はいつでもお声掛けください。皆で酒でも飲みに行きましょう。楽しみに待っています。」
「「ドッ……ドルグス〜〜〜!お前ぇ〜〜〜!」」
どこか既視感のあるやりとり。
キリナードだけでなくレンディスまでもが、一緒にヘロヘロになりながらドルグスに感謝の鳴き声を発した。
…………すると、
その様子を見たセゴットが、笑いながら珍しくドルグスに賛同してきた。
「たしかにな。お前らが来たら、俺も酒には付き合うわ。
キリナードもレンディスも、王都来たら顔出してけよ。」
「「──!?!?」」
セゴットの言葉に皆が驚く。
しかし、中でも一番驚いていたのは、キリナードとレンディスの二人だった。
団長キリナード、第3部隊長レンディス、そして……第2部隊長のセゴット。
──8年前、あの「ウェルナガルドの悲劇」の手遅れとなった現場に出動した幹部の三人。
きっと、儂らには決して推し量ることができない、この三人にしかない後悔が、自責が……艱難辛苦があるのだろう。
三人だけで人生をかけて抱え落ちている──無力だった当時の魔導騎士団幹部陣としての──……史上最悪の汚名と、絆が。
そして、14年前。
己の心の傷さえも分からずに、死にたがっている胸の内を皆の前で明かしていた……あの新人だった頃のセゴットを知っているからこそ。
此奴が「酒に付き合う」と自ら言ってくることが、どれほど重いものなのか。
この場にいる若い世代の者達には伝わらんだろうが……儂ら古株の世代には──今、ここを去ろうとしているキリナードとレンディスには、たしかに伝わったようだった。
「あ゛ぁぁあ゛ぁぁ〜!ゼゴッドお゛ぉぉ〜〜!!」
「おぉお前ぇーーー!おぉぉっ、お前ぇぇーーー!!」
号泣しながら二人掛かりでポカポカとセゴットを殴るキリナードとレンディス。
その弱々しい拳を受けて呆れ返った顔をしたセゴットは、鬱陶しそうに最後にこう付け足した。
「あまりにもうっさかったら、全部先輩方の奢りにさせっからな。
バカ高え酒だけ片っ端から全部空けて、テメェらを破産させてやるよ。俺、酒と水の違い分かんねえから。」
◇◇◇◇◇◇
こうしてキリナードとレンディスの、皆に惜しまれた別れの時間は終わった。
最後の二人の笑顔と涙を見届けたラルダは、歴代最強の新団長らしく、勇ましい声で就任後初の号令を掛けた。
「本日!第15代団長キリナードと第3部隊長レンディスの勇退を以て、我ら魔導騎士団は新体制を始動する!
先達より継ぎし王国騎士の魂をここに示し、我らで御二方の新たな人生の花道を飾ろう!
──キリナード団長!レンディス部隊長!両名へ全員、最敬礼!!」
新団長ラルダの初号令を合図に、皆が一斉に姿勢を正し、自らの武器を己の前に突き立てた。
その現役団員の最敬礼とともに、この場に集っていた魔導騎士団の事務職員達と駆けつけてきていた王宮勤務の他職の者達が、二人に盛大に温かな拍手を送った。
魔導騎士団に入団してから、32年。
そして、先代の魔導騎士団の団長を務めた16年。
儂は、後継者達の引退を見送って、現役剣士を続行する。
長い人生、また儂の気が変わるまで。
シリーズ作品を通して読んでくださっている読者様、そして今作に初めて立ち寄ってくださった読者様、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
評価やブックマーク、リアクション等、拙作を読んで応援してくださる方々のご反応一つ一つを、いつも本当に嬉しく思っています。
今作は特にシリーズ作品の舞台裏(補完)的な意味合いが強かったので、他作に比べて読みづらい面もあったかと思います。ですが、そういった作品であっても読者様に甘えながら楽しく投稿することができました。改めて、本当にありがとうございました。
また、本日続けて番外編も投稿いたしました。
こちらは完全にシリーズ作品の裏話になる予定ですので、ご興味がある方は先に
【連載】婚約者様は非公表 第一部(全16話)
をお読みいただければと思います。




