11 ◇ 弟子の決意と引退撤回
全12話(執筆済)。基本毎日投稿の予定です。
王宮に呼び出された儂は、まず初めに、役人らを侍らせたリレイグ王子から直々に話を受けた。
初めてラルダ王女に太刀の稽古をしたときとは違い、リレイグ王子は微笑みを消した顔で、儂の瞳を真っ直ぐに見つめてきた。
「本来であれば父である国王から貴方に依頼すべき内容なのですが……父も国務に加え各所への対応に追われている現状がありまして。誠に申し訳ありません。
──すでに使いの者から話を聞いていることと思いますが。
王宮側としては、先代の団長であるゲンジ殿に『クゼーレ王国魔導騎士団への復帰』をお願いしたいと考えております。
先の事件による王立機関である魔導騎士団への不信感の高まり。
我々としても、王家への信頼回復のために、できる限りの措置を講じたい。
状況を鑑みるに、実力と実績が確かな貴方の団長復帰こそが、事態の早急な沈静化に最も効果があるでしょう。
すでに引退されている貴方にこのような決断を迫るのは私としても大変心苦しいが、どうか検討していただきたい。」
儂に迷いなく伝えてきたリレイグ王子の表情からは、彼の感情は読み取れなかった。
リレイグ王子本人はこの事態をどう捉えているのか。……何も分からなかった。
だが、目の前の王子が事態をどう捉えていようと、この場に同席している役人らが何を考えていようと、関係なかった。
あのキリナードの覚悟を見て、心が揺さぶられないわけがなかった。
たとえ国王様のご意志であろうと。第一王子からの頼みであろうと。大臣らの決定であろうと。
……「王国のために剣を振るってこい」と、両親と兄にガリュウの家名を託されて、故郷を離れ王都に来たのであろうとも。
儂はミズハの哲学に従って、今この瞬間の儂の意志をはっきりと告げた。
「…………話は分かりました。
儂もちょうど、引退を撤回して魔導騎士団に復帰したいと思っておったところです。」
儂の言葉を聞いて、後ろの役人らが早まってホッとするのが見えた。
「ですが、それは『儂の名を国民らに見せつける』ためでも『今の魔導騎士団を立て直す』ためでもありません。
ただ、儂がもう一度、あの強き者達から学び、成長したいと思ったが故。
もう一度、皆と肩を並べて戦いたいと感じたが故です。
彼奴らは儂などよりも、よほど逞しい者達だ。
たとえ世論がどうあろうと。外の者の目にどのように映っていようと。……儂は、彼奴らの強さを否定し覚悟を軽んじる真似だけはしたくない。
ですから、貴方がたの提案された通りにはできません。
──儂が復帰するのは、少なくとも半年後。悲劇の熱りが冷めて日常が戻ってから。
──そして、団長はキリナード。儂は彼奴の下につく。
その二点は絶対に譲れません。」
儂の言葉を聞いた役人達は、「それではゲンジ殿の復帰の意味がない」とでも言いたげに、あからさまに険しい顔をした。
……それはそうだろう。王宮側は、この事件の「火消し」に、儂の名を使いたいのだから。
国民らに「【剣聖のゲンジ】が団長に戻ったならもう安心だ!」と言わせて魔導騎士団と王家に向けられている不満をさっさと消し去り、再び支持を得られるようにしたいのだろう。
しかし、そんなのは儂の知ったことではない。
儂はリレイグ王子と目を合わせたまま、己の意志を言い切った。
すると、
「──そうですか。分かりました。
では、そのように致しましょう。父上らには私の方から報告しておきます。」
と、あっさりとリレイグ王子は頷いたのだった。
◇◇◇◇◇◇
そのまま付き人の一人に、妹君のラルダ王女を呼んでくるよう指示するリレイグ王子。
あっさりと本題を終わらせた王子に、役人らが儂を説得しないのかと戸惑いながら「リレイグ様……」と遠慮がちに声を掛けていた。
しかし王子は、彼らに向かってさらりとこう返したのだった。
「ゲンジ殿の目を見れば、説得など意味がないとすぐに分かるだろう。
王宮側も譲れぬ内容ならば話は別だが、今の話は、あくまでもただの要望なのだ。無理に通す必要はない。
そもそも、国民らの不満を取り除くための手っ取り早い方法が『ゲンジ殿の団長復帰』だったというだけで、これは根本的な問題解決には繋がっていないだろう?
我ら王家と、王立機関の魔導騎士団が『ウェルナガルドの悲劇』で信用を失墜させたことは事実。
いずれにしろ、我々は二度とこのような悲劇を繰り返さぬよう、長期的な成長と改革を成さねばならないのだ。
……まあ、たとえ半年後に団長職以外での復帰となったとしても、『ゲンジ殿が戻る』というだけで、多少なり印象回復の効果は出るだろうしな。
ゲンジ殿からすれば不本意であろうが。名が一人歩きし、本人が意図する以上の思惑を人々に深読みされてしまうのは、影響力のある大物の宿命だ。」
もとより説得されても折れるつもりはなかったが……。
予想外の反応に儂が拍子抜けをしていると、リレイグ王子はふっと表情を和らげ、一段階だけ纏う気を緩めた。
そしてラルダ王女が来るまでの時間潰しも兼ねて、彼はその真意を儂に軽く説明してくれた。
「『貴方の団長復帰』という要望は、王宮の中枢の意見です。
それが理想と言えば理想でしたが……私自身は、特にこだわりはないのです。
最も才ある者が上に立つことですへてが解決するほど、世の中は単純ではないでしょう。
私の妹と、私を見れば一目瞭然だ。
才を生かし輝き皆を照らす者と、清濁併せ持ち辛苦を影で背負う者。一人で二役を同時に兼ねるなど、さすがに到底不可能だ。
私は貴方の話を聞き……現団長のキリナード殿と先代の貴方も、私たち兄妹と同じなのだろうと思いました。
貴方が『今はキリナード殿の方が矢面に立つに相応しい』と言うのなら、その通りなのでしょう。
現場を知る者がそう断言するのであれば、私はその判断を信じます。」
──「矢面に立つ」。
その棘のある言葉選びに、儂はキリナードの姿を思い浮かべて酷く苦しくなった。
しかしリレイグ王子は、儂とは逆のようだった。
「私はつい先ほど、この悲劇を繰り返さないために『長期的な成長と改革を成さねばならない』と言いました。
私が貴方の意志を変えることにこだわっていないもう一つの理由は、そこにあります。
──……我ら王家は、すでにその根本的解決に至る最善の道を見つけている。
ですから、今すぐに国民を鎮めることに躍起になる必要もないのです。ただ粛々と批判の声を受け、大人しく耐えればよいだけだ。」
そして彼は、自身が王子として「矢面に立つ」ことを受け入れながら……その茜色の瞳を少し陰らせて、自分の妹をただ心配する年相応の兄の顔をした。
「兄の私と、国王である父が不甲斐ないばかりに……私たちは才能溢れる妹に、茨の道の《人生》を決めさせてしまいました。
……これから、そのことで妹から貴方に話があるかと思いますが……どうか妹を、よろしくお願いいたします。」
そうしてリレイグ王子が儂に丁寧に頭を下げて、それから姿勢を戻し、軽く一息をついたとき。
まるで見計らったかのように、あの手本のような均質な足音を響かせながら、ラルダ王女が我々の元にやってきたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「お待たせいたしました。」
「ああ。……私の方はすでに話を終えた。後は頼んだ。」
ラルダ王女の到着と同時にリレイグ王子は立ち上がり、彼女に場を託し、儂に軽く挨拶をして颯爽と立ち去っていった。
………………さて。
齢15とは思えぬ風格の兄君との話を終えた儂は、今度は齢12とは思えぬ力強い決意を固めた表情をしている唯一弟子──妹君のラルダ王女に向き合った。
兄君と違い、1年間、師弟として関わりのあった彼女。
彼女が己に厳しく、常に正しく真面目で誠実な性格であることは知っている。
そして、リレイグ王子の最後の発言。
──「……我ら王家は、すでにその根本的解決に至る最善の道を見つけている。」
そこから推測できることは……
儂の予想がついたところで、ラルダ王女は茜色の瞳を力強く光らせながら、儂にはっきりとこう伝えてきた。
「ゲンジ殿。単刀直入に言おう。
私は今後貴方に、『実戦を見据えた真剣指導』をお願いしたい。
私が王女であることに一切の配慮は要らない。
──私は4年後、規定年齢の16歳になったら、魔導騎士団に入団する。
自己満足の見せかけの剣技など、もう要らぬ。
周囲に持て囃されるだけの才能など、民の一人も救えぬのならば、ただの塵も同然なのだ。
私は今まで、己の剣の才をただの飾りにしていた愚か者だった。そのせいで、私は民を見殺しにしてしまった。
だから私はこれからは、民を救うための本物の剣を学びたい。王国最強と謳われる先代団長のゲンジ殿から、できる限りの力を受け継ぎたいのだ。」
◇◇◇◇◇◇
600年を超えるクゼーレ王国の歴史が生んだ、究極の人類の完成形。
すべての分野において超人級の才能を発揮する、王国一の稀代の才女。
──第一王女【ラルダ・クゼーレ・ウェレストリア】が歴代最強の団長として「王国魔導騎士団」を率いる。
……なるほどたしかに、リレイグ王子の言った通り、これ以上の理想の形はないじゃろうな。
今はまだ儂の方が【剣聖】の名を世に轟かせておるかもしれんが……4年後、さらにそこから数年間の実戦経験を積んだ【ラルダ第一王女】が及ぼす影響力となると……さすがに敵う気がせんわ。
今回の「ウェルナガルドの悲劇」の一件を、この上なく重く受け止めたのだろう。
ラルダ王女は、到底12歳の少女とは思えない覚悟を語った。
「何もできない私の幼さが今はひたすらに歯痒いが……4年後。16歳となった暁には、私は死力を尽くす所存だ。
私が戦場の最前線に立ち、自らの手で魔導騎士団が最強であることを証明する。
私のこの命を国民に捧げ、我ら王家と魔導騎士団の揺るがぬ意志を体現する。
そして、私が魔導騎士団の内側から組織改革を行う。
私ほどの裁量を持ち、王家と密に連携を取ることができる者は他にいないだろう。私自身が王家の人間であるからだ。
──第一王女である私が魔導騎士団に入団すること。
これが、私がクゼーレ王国すべての民のために取れる最善だ。
そして、この上なく愚かであった『魔導騎士団』と我ら『王家』が、亡きウェルナガルドの民にできる……唯一の罪滅ぼしだ。」
ラルダ王女は厳しかった。
彼女は、すべてを厳しく責めていた。
ウェルナガルドの数千の民を救えなかった「魔導騎士団」のことも、
魔物災害を未然に防ぐための対策を十分に講じていなかった「王家」のことも、
……王家の一員でありながら、何もできなかった自分のことも。
彼女は、皆を必要以上に責め立てていた。
王女とはいえ……まだたった12歳の少女だというのに。
不甲斐なかった「魔導騎士団」を非難する声は多い。
その魔導騎士団に出動の最終指示を下す「国王」や「王子」の責任を問う声もある。
……しかし、まだ幼い女性の「ラルダ王女」のことは、王国民の誰も責めていない。
平和な王国の若い王女が、死と隣り合わせの戦場に向かう必要はない。己の《人生》を今から王国のために犠牲にしなければならない道理などないのだ。
だというのにラルダ王女は、儂をも超える傑出した才能を持ち過ぎていたせいで……その結論に至ってしまっていた。
一国民としては心強く、一剣士としては楽しみな未来ではある。
だが、ただの一人の年長者としては──……何とも、胸が痛む話だった。
「…………であれば、ラルダ王女。
儂からまず初めに、お主に伝えたいことがある。『実戦』の世界に足を踏み入れるための、大切な心得の話じゃ。」
儂は先ほどのリレイグ王子の兄心に思いを巡らせながら、目の前の唯一弟子ラルダ王女に、新たな一歩として最初の指導をした。
「剣士として強くなるためには、甘えを捨て、己に厳しくならなければいかん。
……ラルダ王女。お主のその厳しさは、間違いなくお主の『強さ』じゃ。
しかしな、過度な厳しさは、時として『強さ』に傷を付ける。
必要以上に己と、大切な仲間を追い詰めることになってしまうんじゃ。
人の心には、未熟さも愚かさも必ずある。まずはそれを理解してやることじゃ。
……周りを置き去りにする『強さ』は、真の『強さ』ではないんじゃ。
だからもう、これで終いじゃ。
もう自分を責めるのを止めてやれ。
そして、もうこれ以上は……魔導騎士団の奴らと、王家の──お主の父君と兄君を、責めんでやってくれんか。
剣は『心』と『技』が揃わんと強くなれん。技だけをいくら正しく磨いても駄目なんじゃ。
己と仲間の心を軽んじるな。王国のためと言って、使命感で己と仲間の命を犠牲にしてはいかん。
滅私の精神などなくとも、儂程度には強くなれる。少なくとも儂に届くまでは、滅私は『建前』に留めておけ。」
本当にいざというときに、そのように己と仲間を厳しく責め立ててしまう者は──……いくら強かろうと、彼奴らの上に立つ「団長」にはなり得ん。
キリナードが望む「次の世代」がお主であるならば……お主は、仲間を率いる団長としての強さも身につけなければいかんのじゃ。
ラルダ王女は、儂の言葉にすぐには返事しなかった。
ずっと儂を見つめていたその茜色の瞳を少し下に逸らし、じっと儂の足元の床を見つめながら、儂の言葉を咀嚼しているようだった。
そしてそれから、彼女は再び儂の方へと視線を上げて、真っ直ぐ、力強く頷いた。
「──たしかに、貴方の言う通りだな。
愚かさと不甲斐なさを噛み締める時間はもう終わりだ。
私はこれからは未来の目標へと向けて、心に従い、前を向いてゆくだけだ。」
◇◇◇◇◇◇
そうして儂は、ラルダ王女に「実戦を見据えた真剣指導」を行うことになった。
儂は指導を通して、儂のすべてを叩き込んだ。
太刀の技術も、儂なりの剣の心得も。「ウェルナガルドの悲劇」から半年とさらに数ヶ月をかけて、儂は全力でラルダ王女を鍛えた。
彼女はまだ未熟だった。
ただ「完璧過ぎる」という意味で。
ラルダ王女の心はまるで教科書の手本のようだった。
王族としての責務を果たし、国民へ等しく慈愛を注ぐ様は、誰が見ても「素晴らしい王女様」でしかなかった。
だからこそ、善も悪も、彼女の中では手本のように正しく分類されていた。
儂は彼女ほどの学もなければ、深い思考も得意ではない。
だが、その分、理屈ではないものを見てきた経験だけはある。
──きっとまだラルダ王女には、セゴットの隠された繊細さも、ドルグスの人間臭い一面も、キリナードの本当の「強さ」も……いずれも理解できないことだろう。
儂はただ、人生をより長く経験しておる年長者として、そう彼女を見ておった。
…………まあ、だからと言って、焦ることは何もないがな。
当然のことじゃ。仕方あるまい。まだラルダ王女は12歳の少女じゃからな。
儂が12歳の頃など、まだミズハとも出会っておらんかった。
大丈夫じゃ。こんだけ心が綺麗な者なら、あとは何とでもなるもんじゃ。
──為せば成る。
数年後にラルダ王女が魔導騎士団に入ったら、そこで皆が彼女に、騎士として大切なものを……各々の唯一無二の「強さ」を、たくさん教えてくれるじゃろう。
そして彼女は、儂のように、皆のように──……きっと大いに成長するじゃろう。
あとは、そんとき学べば十分じゃ。
…………唯一弟子と共に戦う日が来るのが、楽しみじゃな。
その日まで、儂は儂なりに、成長し続けるとしよう。
儂はそんな密かな未来への期待を胸に、ラルダ王女よりもひと足先に魔導騎士団へと戻ることにした。
引退しておよそ3年。さらに歳を重ねた47歳。
儂は王子に宣言した通り、新たにミズハに打ってもらった太刀を手に、久々に魔導騎士団の訓練場へと足を踏み入れたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「「「ゲンジ団長だーーー!」」」
「お帰りなさい!待ってました!」
「本当に復帰してくれたんですね!」
「夢みたいだぁぁ〜ゲンジ団長ぉぉ〜!!」
「ゲンジ『団長』ではない。儂は今は、お主らに教えを乞う立場なんじゃ。
儂のことはただの新入りだと思ってくれ。
……皆、これからまた、よろしく頼む。」
団員達が昔と変わらぬ笑顔で歓迎してくれたことを嬉しく思いながらも、儂は改めて己の気を引き締めた。
「こんなジジくせえ『新入り』がどこにいんだよ。
教えを乞うとか何とか言ってっけど、要はただ腕が鈍ってて、やべえくれえ弱えっつーことだろ。」
セゴットに不遜な茶々を入れられるのも、実に3年振りのこと。
儂は感慨に耽りながら、復帰した意味を今一度己に言い聞かせるようにして頷いた。
「…………そうじゃ。儂は、弱い。
弱いからこそ、儂はこの年齢からでもまだ強くなれると思い、魔導騎士団に戻ってきたんじゃ。
セゴット。儂はお主からも、強さとは何かを学ばせてもらいたいと思っとる。」
「──!!?」
セゴットは儂の発言を聞いた途端、見たこともない形相で儂の顔面を二度見した。
そしてそれから、心底ゾッとしたのか、目に見えるくらいあからさまに身震いをした。
相変わらず無礼千万な男じゃった。
「…………コイツ、隠居生活で劇的に耄碌したんじゃねえの?
完全に頭イカれてんだろ。……『入団試験』し直しといた方がいいんじゃねえの?」
セゴットは団長のキリナードに向かって、ゾッとした顔のまま舐め腐った提案をしていた。
しかし、儂は腹が立つどころか胸が熱くなった。
懐かしいセゴットのこの返しを聞いて、ようやく儂は現役に……魔導騎士団に戻ってきたのだという実感が湧いたのだ。
「ふん。入団試験でも何でもすればええじゃろ。
お主に溶かされん程度には、儂はまだ太刀を振り回せるからな。」
儂がそう返すと、団員達の顔がさらに一段と明るくなった。
……皆も皆で、儂の今の発言に、ようやく儂の復帰を実感し始めたようだった。
「──そうですね。じゃあ『新人歓迎会』の余興として、久々にセゴットとの手合わせでも見せてもらいましょうか。今日は『左手』も解禁で。」
キリナードが笑ってセゴットの提案を受ける。
それを聞いたセゴットは──……きっと冗談のつもりだったんじゃろう。心底嫌そうに全力で顔を顰めた。
だが、セゴットが文句を言う前にキリナードが「お前が言い出したんだろう。団長命令だ。」と牽制し、セゴットは舌打ちをしながら皆の期待に応えて儂の前に立った。
……7年前。
初めて魔導騎士団に来た当時は、黒い包帯を左手にぐるぐると巻いていたセゴット。
今はもう、そんな禍々しい包帯ではない。
軽く団服の袖を肘上まで捲り、封印魔法の施された特注の特殊なロンググローブをスッと外したセゴットは、その硬質な漆黒の左手をバキバキと鳴らしながら右手で片手剣を抜いた。
…………懐かしい。
しかし、確実に昔とは違う。
セゴットも…………そして、儂も。
さらには、周りを取り囲んでおる皆も。
確実に、日々成長をしておるのだ。
戦闘の実力もさることながら──……積み重ねてきた《人生》そのものが、
己の心を、強く鍛え続けておるのだ。
セゴットの入団試験のときとは違い、恐れも怯えもなく、ただ楽しそうに儂らを笑顔で取り囲む団員達。
格好つけたことを言ってしまった手前、みっともなく太刀を溶かされてしまうわけにはいかん。
儂は引退期間による腕の鈍りを誤魔化すべく、手合わせの開始直後から全力で勝ちにいった。
──そして、
セゴットからの「……大人げが無さすぎんだろ。必死かよ。」という合格の判定を得て、儂は無事に、魔導騎士団への現役復帰を果たしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
それからの日々は、毎日が刺激的だった。
一度離れたからこそ見える景色があった。
新たな太刀の気付きがあった。
何よりも、儂がいなかった激動の3年間を乗り越えてきた仲間達の「強さ」から得るものは多く、儂は大いに成長することができた。
皆と切磋琢磨し、己と向き合い心技を鍛え、儂は再び幾年も経験を積み重ねていった。
そして月日は流れ、唯一弟子の王女ラルダを始めとする、儂らを凌駕するほどの若き才能が次々と入団してきた。
新たな世代の風を感じ、新たな価値観を吸収し、儂自身も魔導騎士団も、さらに力を伸ばしていった。
そうして、さらに月日は流れ──儂が引退を撤回し復帰してから7年が経った、ある日。
次世代の成長をしっかりとその目で見届けて──……
ついに、二人の剣士が引退の時を迎えた。




