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第六話:くノ一サツキ登場!


『日頃から背負ってねぇ奴は、いざって時にも背負う事は出来ねんだよ』


 アーロンの脳裏に師匠の言葉が過った間にザクマ達は出て行き、アーロンの目の前には申し訳なさそうな顔のマスター達が残った。


 だが、そんな顔をする理由はないと、気付けば彼が逆に頭を下げていた。


「……すまない、俺の力不足だ」


「っ!? お前が謝る事じゃないぞアーロン!」


 マスターが逆にやめてくれと、彼の行動を制止させた。

 逆に気を使わせたてしまったなと、彼は顔を上げ、詳細を聞こうとした時だ。

 

「良いしょ! 良いしょ! 良し! 綺麗になりましたよ!」


――鎧を誰かが拭いてくれている?


「……君は?」


 アーロンは鎧を拭かれている事に気付いて、顔を横に向けると、背伸びしてツバが付いた鎧を、ハンカチで拭いている少女がいた。


 黒髪のポニーテールで、動きやすそうな生地の少ない黒装束。


 少なくともギルドでは見た事のない少女にアーロンは名を聞くと、その子は背筋を伸ばして挨拶してきた。


「初めまして! 私はサツキとお申します! つい先日に『慈悲の終言』に雇われたくノ一です!」


「くノ一? 確か一部の地域に住んでいる特殊なレンジャーだったな」


 無邪気な笑顔を向ける少女――サツキに対し、アーロンは昔、似た様な人達も助けた事があるのを思い出した。


 閉鎖的ではないが、情報を色々と規制している特殊な者達――忍。

 まさか『慈悲の終言』に参加していたとは、アーロンは少し意外だった。

 

「……『慈悲の終言』か。だが君は行かなくて良いのか?」


「行かなきゃダメですけど、私はアーロンさんに会いたかったんです!――昔、父様をアーロンさんに助けてもらったことがあるので、そのお礼をずっと言いたかったんです!」


――どうやら俺は少なからず、彼女と繋がりがあったらしい。


 人懐っこい笑みと柔らかな雰囲気の彼女。

 そんなサツキの様子に、当初は警戒していたギルドの者達も雰囲気が柔らかくなっていた。


「ところで……何故君は『慈悲の終言』に参加しているんだい? くノ一……つまりは忍だが、彼等は優秀だと言う話だが?」


 サツキにそう聞いたのはマスターだった。

 テレサ達、受付嬢から腰に薬を塗ってもらいながら聞くと、その言葉にサツキは少し複雑な表情を浮かべる。


「実は……私、アーロンさんに憧れて救出屋になろうと決めたんです! でも周囲には救出屋がいないかったので、だったら似た経験でもと思って雇ってもらったのが……」


「あの連中と言う事か……」


 基本的に救出屋は弟子入りし、師匠から色々と学ばせてもらうのが普通の流れだ。


 だが救出屋が周囲にいなかった彼女は、取り敢えず『慈悲の終言』に入ってしまったらしい。


 ただ彼女の顔には後悔していると描かれていた。


「なんか……違います、あそこは。救出屋さんは、自分の命を省みずに手を差し伸べてくれたのに。あそこは利益ばっかりで、変に思っているメンバーも多いです」


「典型的な上の者達ばかりが得をしている組織か……」


 アーロンは絵に描いた様な連中に思わず笑いそうになるが、それを呑み込む。


 そして掃除を終えたサツキは、彼とマスター達に一礼した。


「本当はアーロンさんに色々と話しがあったんですが、まずは一度受けた任務を果たしてからです!――という訳で行ってきます!」


「――待て」


 アーロンの胸に、説明の付かないざわつきを覚えた。

 虫の知らせなのか、アーロンはサツキを思わず呼び止めた。


「はい?」


 サツキも呼び止められたことで足を止め、首を傾げながらアーロンを見る。

 そして彼も、ゆっくりと口を開いた。


「――己の命を優先せよ。汝が死ねば、誰が魂を連れ戻す?」


「それって……」


「救出屋の言葉だ……助ける為に、己の命を守れと言う事だ。――決して油断はするな。異変を感じれば、ランクに関係なく警戒しろ」


「……はい! 胸に刻みました!」


 そう言ってサツキは元気よく飛び出していき、あの明るさにマスター達も、まるで仲間を見送る様な目で見守っていた。


「――さて、俺も行くか」


 サツキに出会えたことで少し()()を思い出せた気がし、彼もリラックスできた。


 疲れを忘れたアーロンは、救出屋としての使命の為、二つのダンジョンへと向かうのだった。


♦♦♦♦


 あれから数時間。月が完全に昇った頃にアーロンは街に戻って来た。

 無論、対象の者達が入った棺と共に。


「良かった! 良かった!!」


「もう! 心配させて!!」


 無事にダンジョンから6名を救出し、彼等は教会で全員生き返ったばかりだ。

 今はアーロンの目の前で、家族と泣きながら抱擁をしている。


 時折だが、家族と一緒にアーロンへ頭を下げて来るのに彼も応えていたが、アーロンは不意にサツキのことを思い出す。


「『気流の迷城』ならば、もうとっくに帰っている筈だな」


 既に月が昇っていて完全に深夜だ。

 距離からしてサツキ達も帰っているだろうと、アーロンは近くにいた神父様に聞いてみた。


「神父様……『慈悲の終言』の者達はどうでしたか?」


 他はともかく、アーロンには見た感じ、サツキの実力は高く見えた。

 だから、そこまでの心配はしていない。


 故に処置に関しての意味で聞いたのだが、返ってきた言葉は思ってもみないものだった。


「いえ……それが、彼等は()()()()()()のです」


「……どういうことでしょうか?」


 本来ならばあり得ない状況だと、アーロンの内心がざわめく。

 距離も、難易度も、全ての条件が今の状況と矛盾している。


 それを理解していることもあり神父様も、珍しく不安な表情を浮かべていた。


「分かりませぬ……私もアーロン殿が先に戻って驚いているのです。何か胸騒ぎがいたしますな」


 神父様の言葉を聞き、アーロンは胸に嫌な予感を抱くが、流石にもう体力と魔力の限界だった。 


 取り敢えず明日の朝まで様子を見ることを選び、彼は帰宅すると鎧を脱ぎ、ベッドの上で意識を落とした。

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