プロローグ
真っ白な空間に彼はいた。
不思議と安心と温かさをくれる、不思議な空間に。
その空間で、彼の目の前には一人の美しい女性が佇んでいた。
「あぁ……ようやく会えた」
幻想的な青の長髪と瞳。
神聖な雰囲気を纏いながら、聖母の様な優しさをずっと途切れさせない不思議な女性はそう言った。
彼女は彼を見ながら愛おしそうに呟くが、何故かすぐに悲しみの表情を浮かべる。
「貴女は、まさか……?」
今にも泣きそうな女性に、彼も何かに気付いた。
全身を鎧で覆い、顔も兜で隠す彼だが、彼女が望む相手が間違いなく自分なのだとすぐに分かった。
同時に彼は理解する。
「……そうか《《終わったのか》》」
自分がこの空間にいる《《理由》》を思い出した。そして目の前にいる女性の正体も。
「やはり、貴女様が……女神ラ――」
鎧の彼はまるで神に祈る様に膝を付こうとしたが、女性は両手で彼の兜に触れながら止める。
「良いのです。今は休みなさい……私の英雄。本当に今までよく頑張ってくれました」
「……ありがたい御言葉です」
女性の言葉に、彼は肩の荷が下りた様に静かに腰を下ろした。
もう終わったのだ。背中の棺もない。休む時が来たのだと彼は理解した。
けれど、だからこそ彼は女性に聞かなければならない。
「……俺は成し得ましたか? 貴女様の十字架に恥じない行いを出来たでしょうか?」
色んな事があった。全て迷いなく、信じた道であったが彼も不安がある。
不安な顔を兜で隠す彼だったが、女性は優しく微笑んで頷いた。
「えぇ、成し得ましたよ。貴方の成したことは沢山の救いと繋がりを生み、幾つもの命を守りました。そして同じ様に、その繋がりを持つ者達がここに訪れようとしています。――《《貴方の為に》》」
「成程。そういうことですか。だから今は休みなさい……と」
「えぇ。そう言うことです。――うふふ。ただ時間が掛かりそうなので、少しだけ私に付き合って頂けませんか? 私の英雄」
「えぇ。構いません……俺に何を望まれますか?」
「そうですね……貴方の冒険の話が聞きたいですね。この日まであった英雄の物語を」
女性は楽しそうに微笑み、同時にわくわくした様子で彼の目の前に腰を下ろした。
ただ彼は兜をトントンと叩きながら、少し困った様子だ。
「しかし、いつから話すべきか……」
「ではあの日からにしましょう。貴方が何の英雄なのか、沢山の人の子が再度認識したあの日から」
「分かりました。では、あの日から――」
彼――英雄は静かに語り始めた。
自身が崇拝する偉大なる女神の為に、英雄の物語を。