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「……どうか、考えてやってくれませんか」
自分でも驚くほど、低い声が出た。
事務所の応接室。静かな空調と、壁時計の針だけが音を立てている。
向かいのマネージャーは指を組み、目を細めて俺の言葉を待っていた。
「ARASHIが、どうしてそこまでピアスにこだわるのか……俺は分かってるつもりです。
あいつなりに“変わりたい”、そして“何かを伝えたい”って思ってる。あの子のやり方で」
控え室で膝を抱えて泣いていた背中が、まぶたの裏に焼きついて離れない。
誰にも見せなかった弱さを、俺だけに見せた。その重さは、俺が背負う。
「過激にはしません。髪で隠せる位置、衣装でも隠せる位置。必要ならステージでは透明のカバーを当てる。
――目立たせない工夫はいくらでもします」
マネージャーは無言のまま顎に手を当てた。
沈黙が落ちる。俺は膝の上で拳を握る。爪が掌に食い込む。
「……あいつ、泣いてました」
思わず零れた声が、部屋の空気を少しだけ揺らす。
「初めて見た。自分の意思を、否定されたって感じたんでしょう。
ずっと、期待に応えるために息を止めてきた。俺にも、責任がある。だから――」
「……そこまで言うなら、検討してみます」
言葉が降りた瞬間、握っていた指から力が抜けた。
「ありがとうございます」
頭を下げると、マネージャーは小さくため息をつく。
「ただし。ファンとメディアの反応次第では即時中止です。分かっていますね?」
「はい。あいつにも、俺から話します」
もし誰かが笑っても、俺だけは笑わない。
もし誰かが石を投げても、俺が盾になる。
「……守ります。ちゃんと、あいつのこと」
小さな呟きは、時計の音に紛れて届かなかったかもしれない。
それでも俺にははっきり聞こえた。胸の内側で、確かな音で。
――俺が背負いたいと思ったんだ。
あいつが見せた、あの涙の意味を。




