幕開け
舞台袖に立つARASHIは、驚くほどガチガチだった。
背筋は伸びているのに、肩は硬直していて、指先は小刻みに震えている。顔色も少し青白く見えて、見ているこっちが痛くなるほどだ。
「……ほら、落ち着きな。ARASHI」
ボクはそっと肩に手を置いた。
「深呼吸して」
促すと、ARASHIは不安を隠しきれない表情のまま、ぎこちなく息を吸って吐いた。吐き出される息に、緊張が混ざりきしむ音が聞こえるようだった。
その手を握ってやる。ひんやりと冷たい。
「……初めての頃から、変わらないな」
どれだけ経験を重ねても、この瞬間だけは緊張を忘れない。
ちゃんと歌えるだろうか。ファンは喜んでくれるだろうか。そんな迷いが、彼の瞳を曇らせる。
「ARASHI。今日もファンはたくさん来てくれた。――その緊張は、来てくれたファンへの感謝に変えて歌に乗せろ」
彼の目を見据え、言葉を叩き込む。
「お前の全力をぶつけてやれ。お前の歌で、この夜を切り裂いて、魂を震わせてやれ」
そう告げて、ボクは彼の顔を両手で挟み、にやりと笑った。
挑発のようで、支えのような笑み。
ARASHIはその手を握り返し、そして胸を軽く叩いた。
細められた瞳に、迷いは消えている。
「当然だよ。ボクはナイトエッジのARASHIだ」
低く、しかし力強い声。
「今夜も、奇跡を生み出す」
その言葉を残し、ARASHIはステージへと歩み出ていった。
歓声はすでに最高潮。
場内を揺らす熱気に、スポットライトが一斉に降り注ぐ。
その光を浴びながら、ARASHIはゆっくりと人差し指を口元へと運んだ。
「――シーッ」
その一音で、波のように騒いでいた観客がすっと静まり返る。
光が落ち、暗転。
静寂を裂くように、アカペラが始まった。
奇跡の夜は、まだ幕を開けたばかりだった。




