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善戦の先にある絶望

吹き荒れる爆風を合図に飛びだす私とカイン。

示し合わせたわけではないが、私とカインは同じ場所へ向けて飛び出していた。

デスモンキーは爆風に反応して、背中を向けている。

私達はそのデスモンキーの無防備な背中目掛けて武器を振るう。

私達が振るった刃は次々にデスモンキーの急所を貫いていく。

断末魔を上げることもなく、何が起きたか分からないうちにデスモンキーは倒れる。

奇襲は上手く行った。

しかし、数が多いこともあり、倒した数はほんの一部。

デスモンキーは次々に私達の存在に気付き、群がってきていた。

私は一心不乱に鎌を振るう。

私にはここまでデスモンキーの相手をしてきた経験がある。

防戦一方ではあったが、回避に集中していたおかげで、パターンが見えつつあった。

私は鎌を振り下ろす。

それをギリギリで躱したデスモンキーは私の腕に向かって手を伸ばす。


やはりそうくるのね。


私はデスモンキーの伸ばした手を逆に掴み返した。

デスモンキーは目を見開き、腕を振り回す。

私は笑みを浮かべ、手を離す。

そして、一歩前に踏み出し、デスモンキーの首を切り落とした。


視界の端からデスモンキーが飛びかかってくるのが見える。

すぐに体を捻り、体の向きを変えると同時にデスモンキーの攻撃を躱す。

そして攻撃が空振りに終わり、体勢を崩しているデスモンキーの首を落とす。


尚もデスモンキーが飛びかかってくる。

私は同じ容量で待ち構えるが、私に届くことなく、木っ端微塵になった。

私の隣に着地するカイン。

カインは私に笑みを向けている。

なので私も笑みで返した。


だが、一息付く暇はない。

視界の端でデスモンキーの姿を捉えた私は、急いでカインに警告する。


「カイン!後ろ!」


カインは後ろを確認することなく跳躍した。

カインのいた場所を鋭利な石が通り過ぎる。

私に当たりそうなものもあった為、最低限の動きで躱し、後衛にデスモンキーに向け、地面を蹴る。

デスモンキーが再び石を準備し終える前に、鎌が首を捉える。

首を飛ばし、腕を広げた状態を狙って、デスモンキーが動き出す。

四方八方からデスモンキーが飛びかかってくる。

キシシシと不適な笑みを浮かべているが、上空から影が降りてきて、一瞬で木っ端微塵に変わる。

再び空から降りてくるカイン。

かなりの数を倒したが、それでも未だ囲まれていた。






⭐︎






「はぁはぁ」


私とカインは肩で息をしていた。

一心不乱にデスモンキーを葬っていたが、やがて体力が付き、ピンチに陥っている。

カインも疲れのせいか速度も切れ味も落ちてきている。

その為、徐々にデスモンキーを倒しきれなくなってきていた。


レアードとリリィ姉に目を向けるが、二人もだいぶ押されている。

前衛がレアードの元に集まっている為に土壁は役に立たない。

レアードは近接戦と中距離戦を使い分けていたが、私たちと同じく徐々に押し込まれている。

リリィ姉も始めこそ機能していたが、レアードを抜けて狙うデスモンキーが増えてきて、満足に攻撃に出られなくなっていた。


エイトとクトリの方は、どうなっているのか見えないが、風の攻撃の頻度が減っている。

未だ攻撃音はしている為、無事だと分かるが多勢に無勢。

不利な状況である事には間違いないだろう。


デスモンキー。

まさかここまで厄介だなんて・・・・・・。


尚も包囲が出来るだけの数を残しているデスモンキーを相手に絶望感が出てきていた。


デスモンキーは徐々に距離を詰めてくる。

武器が重く感じる。

距離が縮む事で、デスモンキーの醜悪な表情がよく見える。

頭の中で喜ばしい何かを考えているのだろう。


冗談じゃない!

誰も死なせない!

もう私の前で誰も死なせてなるものか!!


私はカインを守るように前に出る。


鎌を後ろに引いて、反撃の準備をする。


「いつでも掛かってきなさい!」


デスモンキーは不適な笑みを浮かべて、飛びかかってきた。






⭐︎






デスモンキーが醜悪な笑みを浮かべ飛びかかろうとしたその瞬間であった。


大きな地響きが起き、ここにいるすべての生物の動きが止まる。


地震?


ずっと奥、深部の方向。

音は向こうから聞こえてきた。

急な出来事に思わず動きを止めてしまったが、同時に驚くべきものを見た。

それは怯えた表情を見せるデスモンキー。

それも一匹ではなく、この場にいるすべてのデスモンキーが決まって表情を固くしている。

そして、再び聞こえる地響き。

先ほどよりも音も揺れも大きい。


これはいったい・・・・・・。


デスモンキーに目を向けると、デスモンキーは顔面蒼白にし、体が震えている。


そして、さらに大きな地響きがなる。


デスモンキーはキョロキョロと忙しなく視線を変えている。


カインに目を向けるとカインも分かっていないのか、デスモンキーに視線を向け、挙動を窺っているように見える。


一体何が起きているの?


そう考えた瞬間、さらに近いところで地響きがし、そして身の毛がよだつ程の咆哮が響き渡る。


これを聞いた途端、体が震え始め、身体全体から汗が吹き出る。


恐怖のあまり身体が硬直して動かない。

それは私だけではなく、ここにいるデスモンキーも含めたすべての生き物に共通する状態であった。

しかし、それも一瞬の出来事であった。

咆哮が鳴り止んだ途端、デスモンキーは一斉に散り散りとなる。

すべてのデスモンキーが私達に背中を向けて逃げ出したのだ。


いったい何が起きているの?


その疑問に答えるようにそれは現れた。






⭐︎






地面から何かが勢いよく飛び出してくる。

人間なんて比じゃないほど巨大な姿。

それは目の前のデスモンキーを瞬く間に一飲みにしてしまった。


な、なんで・・・・・・。


この魔物も確か図鑑で見たことがある。

ワーム種の最上位に位置する魔物。

地面を潜って移動する他、非常に魔素濃度が高い土地にしか存在しない為、その姿を見たものはほんの少ししかいないとされている。

ドラゴンのような鱗を纏い、すべての攻撃を無力化する。

そして、巨大な口を開けば人間数十人分をまとめて飲み込むことができると言われている。

その生態は未だ謎に包まれており、個体数が少なくしかもまた数が極端に少ない為、成体で全長5mから20mだと言われている魔物。


「ドラゴンワーム・・・・・・」


Sランクの魔物、ドラゴンワームが出現したのだった。






⭐︎






ドラゴンワームが出現してから僅か1分程の出来事であった。

ドラゴンワームは、恐怖でパニックになり逃げ始めたデスモンキーを追い始め、潜って飛び出してを数回繰り返した結果、私たちの目の前からデスモンキーは瞬く間に消え去ってしまった。

デスモンキーはすべてドラゴンワームの口の中へ消えていった。

それでもまだ食べ足りないのか、ドラゴンワームは尚も辺りを破壊しながら餌を探している。


ドラゴンワームが暴れるたびに木々が薙ぎ倒され、日の光が降り注ぐ。

気付けば私たちの目の前はすべての木々が薙ぎ倒され、見晴らしのいい開拓地のように変貌を遂げていた。


私は恐怖のあまり動く事ができず、息を乱していた。

身体は震えが止まらず、倒れ込まないようにするので精一杯の状態に陥っていた。


そんな中、誰かが脇に手を回し身体を引っ張り上げようとする。


「レアード」


レアードはこの状況の中でも自分のすべきことが分かっているのかただ一人立ち上がっている。


「今のうちに逃げるぞ。早く立て」


逃げられるはずがない。

そう言おうとした時、私は見てしまった。

レアードの腿に何かが刺さっていたのか血だらけになっているのを。


「レアード、この傷は」


「早くしろ!急げ!」


言葉を被せてくるレアード。

ここまで聞いて、レアードの仕草を見てようやく分かった。


自分で刺したのだと。

レアードも私たちと同じように動けなかった。

けど、私達を生かす為に自分の太ももを刺し、動けるようにしたのだと。


ようやく我に帰った私は、震える足を思い切り叩き、勢いよく立ち上がった。


視線を移すと、カインとリリィ姉、それにエイトとクトリもなんとか立ちあがろうとしていた。

私とレアードは別れてそれぞれ協力して逃げる準備を始めた。

カインとリリィ姉を立ち上がらせる。

2人とも身体を震わせていたが、レアードに目を抜けてからは、気合を入れて立ち上がった。

エイトとクトリもなんとか立ち上がることができた。

あとは逃げるだけ。


私はドラゴンワームの動向を確認する為に、目線を変える。

と同時に強烈な絶望感が私を襲う。


ドラゴンワームと私の目があった。

いや、あってしまった。


そこから私達の行動は早かった。


「走れ!」


レアードの叫び声に反応し、一斉に走り出す。

背後にドラゴンワームの咆哮が鳴り響き、周囲全体を震わせる。

視線の先にある木々は咆哮による振動で大きく揺れ動き、葉がどんどん落ちていく。

私達はそれらの木々の中に逃げ込んでいった。






⭐︎






背後でドラゴンワームが動く音が聞こえてくる。

身体を引きずっている音。

後ろに視線を送ると、ドラゴンワームは口を開けて私達を丸呑みしようと迫ってきていた。


なんで大きさ!


口の中はまるで漆黒の世界のように思える。

その世界が徐々に近づいてくる。

全力で走っているが、ドラゴンワームの方が早い。

全長約15mほどのドラゴンワーム。

それが身体を伸ばして私達を食わんとする。

ドラゴンワームの口が最後尾の私まで近づき、もうダメかと思ったその時、何かがドラゴンワームの足止めをし、僅か数cm手前で止まる。


それは土の塊であった。

地面から突き出た土の塊がドラゴンワームの行手を妨害していく。

一つや二つではない。

無数の塊が、ドラゴンワームの腹部に直撃する。

しかし、ドラゴンの鱗は土の塊を一切寄せ付けず、傷一つ引いていない。

しかしドラゴンワームからすれば、ダメージがなくても食事の邪魔をする障害物。

苛立っているのか、身体を上に伸ばして、その後大きな咆哮をあげた。


間近だの咆哮に思わず耳を塞ぐ私達。


ドラゴンワームは次の瞬間にも地面に潜ってしまった。


「ちっ!お前ら今はとにかく走れ!」


レアードは舌打ちをするが、すぐに切り替えて走り出す。


しかし、潜ったドラゴンワームに先回りしてしまい。

食われこそしなかったが、地面から出てきた勢いで上空に打ち上げられてしまう。


「くそっ!お前ら大丈夫か?」


「ええ、大丈夫!」


「僕も平気だ!」


私も平気だと答える。

エイトとクトリも無事だと返事をしている。


しかし、空中に打ち上げられた私達は、無防備となってしまう。


もちろん、ドラゴンワームは身体を伸ばして、私達を食さんと口を上に向ける。


このままだと真っ直ぐ落ちてドラゴンワームの餌食になってしまう。


すると隣にいたエイトが腕を突き出す。

地上にいた時とは比べ物にならないほどの風を感じる。

風は凄まじい音を立ててドラゴンワームにぶつかる。


「ぐぐぐぐぐ」


エイトは歯を食いしばって踏ん張っている。


「任せろ!」


今度は逆から声が聞こえた。

クトリも腕を突き出すとドラゴンワームに何かをする。

すると、少しだけ軌道が逸れる。

間一髪食われずに済んだが、ドラゴンワームが横切った際の爆風で大きく吹き飛ばされ、私達は木の上に落ちていった。







デスモンキーとの戦闘の最中、更なる絶望がカーフェの前に現れる。

繰り返し戦う事で疲弊している仲間達。

カーフェはこの困難をどう乗り越えるのか。

次話お楽しみに!

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