2話Dumb way to Die〜伊与田左之は毒酒をあおり①~
「君はこういう子供向けのアニメ映画のほうが好きだろ」
コキュートスはポップコーンを口に放り込みなが俺に語り掛ける。
「ええ、まあ」としか言いようがない。
見たいと思って深夜までテレビをつけることが少ないからなんとも言えない。
実家にいると姪っ子の由美がグズるから機嫌をなおして貰うためにこういうDVDを再生していた。
大体姉が持ってきた女児アニメとたまに親父とかが買ってるくカートゥンアニメだった気がする。
姪っ子がぐずると祖母がDVDプレイヤーの使い方を知らないくせに「ゆみちゃん、テレビマンガ観ようね〜」と言うから、俺はその度にDVDをセットする係に任命されていた。
とても懐かしい。
確か、大学生ぐらいの思い出だ。
祖母は由美がランドセル背負った頃に老衰で大往生だった。
102歳まで生きるとは本人も思わなかっただろう。
おばあちゃんは天国に行けただろうか。
俺はどうなるのだろう。
母さんより先に逝っちまった俺は賽の河原行きだろうか。
「コキュートスさん、ここは何処ですか? 」
「映画館だよ。映画というのはこうして……」
「いえ、そういう訳ではなく……、ここはどのような場所で何故私はここにいるのですか……と、お伺いしたいのですが」
「難しい質問だなあ。実のところ、左右の概念を持たない宇宙人に左右を教えるぐらい難しい。とりあえず、君は死んでる。つまり、もう地上で生活している阿久津誠二じゃないのはわかるね」
「理解しがたいですが一応」
「事前に断っておくと、ここは君が知ってる地獄と天国とかそうゆう場所じゃないよ。映画館だからね。針の山もなければビールの火山もない、ましてや創造主スパゲッティーもいない」
「まあ、一応何百年も釜茹でにされるような事はないのですね」
「そこは安心していい」
「まさか、私がそんなスプラッターで悪趣味な場所に死人を送るわけないじゃないか。君が地獄でのたうちまわるなんてことないよ」
「そうですか。よかった……」
そう、言いかけたところだった。
隣に白目を向いて、ビクビクと細かく痙攣し、泡を吐く白い男の顔が隣にあった。
「ぎゃぁぁッ!!!!!!!」
「ああ、これがもう一人だよ」
「あの、あ……、泡吹いてますよ……救急車を……」
「死んでるから救急車はいらないよ、このおドジ」
胸からハンカチで床に落ちてしまった眼鏡を拾い、眼鏡を磨いた。
紳士さながらのしぐさでコキュートスは口の泡をふき取った。
その顔は見覚えがあった。
そういえば「知らない人じゃない」とは言っていた。
だが、こいつだとは思わなかった。
なぜ俺と一緒に死んだのだ……、伊与田左之。
さっきまで痙攣していたからなのだろうか。
伊与田の白衣のポケットからころりとタマが落っこちていた。
なぜかふちの黒いひらひらのレースが石ころのタマに着せられている。
その様子はさながら生牡蠣だった。
ついでにおしゃぶりのシールも貼られている。
伊与田の趣味なのだろうか。
「なあ、阿久津君。そこの水とってもらえないか。こっちのポンポコリンを目覚めさせたい」
「わ、わかりました」
映画館によくある飲み物置き場に刺さってるペットボトル入りのミネラルウォーターをコキュートスに渡した。
いま思ったが、こんなところに水なんてあっただろうか。
ペットボトルのキャップを開けると中身を伊与田の顔面にビシャビシャと振りかけた。
「起きたまえ、君」
「え……っ、ああ、こ、こんにちは……」
伊与田に眼鏡とタオルが渡された。
顔をうずめてなんだか男らしくない仕草で水をふき取る。
肌でも弱いのだろうか。
それとも普段顔を洗わないのか。
「阿久津くんじゃないか‼生きてたの」
こちらを捉えた瞬間に伊与田の顔はぱぁぁっと輝き出した。
「いや、死んでる……、一応伊与田も」
「そっか、じゃあ、僕の命日って阿久津くんとおそろいなのか。やったね、お祝いしよう、饅頭ある?」
「いらない。自分の命日を饅頭で祝うのはなんか気が引け……」
「食べたいならあげるよ」と声がしたので振り返るとコキュートスが手の中にたっぷり納まる大きなお饅頭と緑茶を持っていた。
どこから出したんだ……。
「ありがとございます。粒あんですか?」
「いや、こしあんだね、粒あんが食べたいならこっちでいいかね」
コキュートスが指さした先には、タッパーに入ったおはぎが椅子の上にたたずんでいた。
おかしい絶対にこんなものここになかった。
「すごいですね。これ僕のおばあちゃんが持ってきてくれるおはぎにそっくりです」
「はは、それを再現したのだよ。君の祖母は確か相当なお嬢様でお料理がそこまで上手じゃないね」
「そうなんですよ。だから、老人会の友達におはぎ作ってもらって、それを自分で作った風にして僕に自慢しながら食べさせてたんです。おばあちゃんおはぎなら作れるんだよって。陽気でかわいらしい人でした」
どんなおばあちゃんだよ。
「僕、おばあちゃんの葬式するまでおはぎは全部おばあちゃんが夜なべして作ってくれたものだと思っていたんですよね。やっぱり、嘘がわかるという事はあなたは”神さま”なのですか。神様だけは知ってるよというじゃないですか」
「おお! 察しがいいね。私はデウス・エクス・マキナを生業にしているコキュートス。君の定義で神ならそれでいい」
まじかよ、なんで気づいたんだ。
お前が教員免許取ってまともに働いてるの少し信じたくない。
二人が盛り上がっている中俺は気になっている事を投げかけた。
「ところで、伊与田。お前なんで死んだんだ?」
水をかけたかのように館内は静まった。
伊与田の口角が少し歪んだ気がした
To be Continue……