#39 接触
翌日の昼休み、また訪問者が現れた。
「八神さんいますか……?」
入口横の席に座っている生徒に、恐る恐る声をかけていたのは、緑の友人、紫だった。
「どうしたの?」
「ええと、ここじゃ話しづらいんで、ついてきてもらえる?」
「いいけど……」
言われるがままに紫についていくと、体育館の裏へと向かって行った。
人気がなく、周りからも見えない。よくこんな場所を知っていたな、と私は感心した。
「昨日のことなんだけど、何があったの?」
周囲を見回し、誰もいないことを確認したところで、ようやく紫は口を開いた。
「緑は何もなかったって言うけど、確実に何かあったよね?」
そう言われても、本人が話さないことには私も話すに話せない。
「……シキサイ絡み?」
彼女がどこまで知っているのかはわからないが、大まかなことは知っているようだ。
それなら話してもいいのではないだろうか。緑は快く思わないだろうが、人手は多い方がいい。
そう考え、私は昨日の出来事を話すことにした。
「へえ、急に飛び出していったと思ったらそんなことが、ねえ」
そう冷たく呟いた紫に私は恐れを感じ、弁解した。
「被害にあった子たちはすぐに目を覚ましたし、特に異常はなかったみたいだし、それに――」
「だからって自分が倒れたら本末転倒だろ」
無駄なあがきだったらしい。私は心の中で手を合わせた。
「柊木に話したのは亜久里さんですね」
放課後、音楽室に入るやいなや、先に来ていた緑が問い詰めに来た。
「何の話?」
この時には昼間のことはすっかり忘れていたので、素でとぼけてしまった。
「柊木に昨日のことを話したでしょう」
緑は、こっぴどく叱られてしまった、と反省しているのかいないのかわからない調子で話す。
「心配だったんだって」
「……そうですね」
何を思い浮かべたのか、急にしおらしくなったと思えば、手を叩いて話に区切りをつけた。
時計を見れば、まもなく練習開始時刻だ。私は大急ぎで荷物を下ろし、準備を済ませる。
今日も、練習が始まる。




