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#30 新年

 年明け、私は高校の近くにある寺を訪れた。

 毎年のことだが、人が多い。行列に並び、なんとかお参りを済ませた。


 長居しても仕方がない。私は最寄り駅へ向かった。




 駅に着いて時間を見ると、どうやら電車は行ったばかりのようだった。

 お昼でも買っていこうかと思ったら、緑がベンチに座っているのが見えた。


「明けましておめでとう」


 目の前まで行って話しかけたが、返事はない。

 ヘッドホンをしている上、うつむいているので気付かなかったようだ。


 私は少し意地悪したくなったので、その姿を写真に撮り、メッセージに添付して送ってみた。


 流石に気付いたようで、緑はヘッドホンを取ると、こちらを見て小さくお辞儀をした。


「明けましておめでとう」


 私はもう一度声に出す。

 それを見て、緑は口を動かしたが、何も聞こえない。


「声、出ないの?」

『出ていませんか』


 私の問いかけに、緑は少し考えるような仕草をすると、スマホに文字を打ち込んで見せた。


「風邪?」

「あ、あー、んん、これでどうですか」


 いつもよりハキハキした感じだが、問題なく出せるようだ。


「何か言われましたか?」

「え?あー……風邪?」

「……そうかもしれませんね」


 ここで先程の発言が気になったので尋ねてみた。


「なんで自分じゃ声が出てないってわからなかったの?」


 自分の声だけが聞こえないなんてことがあるのかは知らないが、もし本当に聞こえていないのなら心配だ。

 そう思っての質問だったが、緑の返答は意外なものだった。


「……彼らの願う声が途切れないのです」

「願う声?」

「亜久里さんは初詣には行かれましたか」

「うん。さっき行ってきたけど、それがどうかしたの?」

「そういうとき、心の中で何かお願いするでしょう」

「うん」

「それが途切れないのです」


 普段ほとんど自分のことを話さない緑が重大そうな秘密を話している。

 本当に調子がよくないらしい。


「じゃあ、私がお願いしたこともわかる?」

「聖徳太子ではないので聞き分けることは難しいです」

「いつも聞こえてるの?」

「いえ。普段は誰が言われたかも特定できるくらいには静かです」


「それに――」


 緑はここぞとばかりに色々と話してくれた。

 果てには、聞いてすらいないのに白紙のカードのことまで教えてくれた。

 けれど、きっと核心的なところまでは話していなかったのだろう。そんな気がした。




「あまり言いふらさないでくださいね」


 そう言うと、緑は駅の方へと向かって行った。

 時計はまもなく電車が来る時間を差している。私は緑の後を追って駅へと向かった。

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