#03 犯人
透に話を聞いてから数日、亜久里は実際に通うだけではなく、通話も通してシキサイを使う練習をしていた。
見えないものがようやく見えるようになったころ、再び事件が起きた。
その日も合唱部の活動のために音楽室に来ていた。
しかし、もうすぐ活動時間だというのに、まだ緑が来ていない。
亜久里は先日のように巻き込まれているのではないか、と思って緑を探しに出た。
緑はすぐに見つかった。今回は教室棟の三階で"怪物"と相対していた。
緑はあの白紙のカードを使い、"怪物"を人間の姿に戻すと、倒れた彼を壁にもたれ掛けさせ、こちらを向いた。
「ご心配には及びません。無事解決いたしました」
事件は無事解決したので音楽室に戻ることにした。
そういえば、緑のクラスは二階にあり、音楽室からまっすぐ来ると四階に着く。どうしてここにいるのだろうか。
「ねえ、緑ちゃん。どうやって見つけたの?」
「助けを求める声が聞こえました」
「そうなんだ」
"怪物"が現れたのだから、助けくらい求めるだろう。
しかし、それを聞いて実際に助けに来るとは勇気がある。
そこまで考えたところで亜久里は気づいた。
そういえば"怪物"が現れても特に騒ぎにはなっていない。
ここは廊下だが、先日現れたのは中庭だ。いくら放課後とはいえ、誰も気付かないなんてことがあるのだろうか。
それに、騒ぎになっていないなら、緑が聞いたという助けを求める声というのは一体なんなのだろう。
「待って。その声って誰が――」
「あの方です」
そう言って緑が示したのは"怪物"だった男子生徒だった。
「おそらく外的要因があるようですね」
「外的って、誰かが起こしてるってこと?」
「そもそも――いえ、なんでもありません」
「緑ちゃん?」
「元から絶たなければなりません」
「そうだね」
犯人がいるなら見つけて辞めさせなければならない。
今のところ怪我人はいないようだが、今後も出ないとは限らない。それに、被害者だって出ないに越したことはない。
私たちの前に大きな目標ができた。
それから一か月、私たちは相変わらず"怪物"を追っていた。
未だに尻尾を見せない犯人に苛立ちが募る。
その日の放課後は緑が図書館に行くというので同行した。
その帰り、他の生徒とすれ違った瞬間、急に緑が彼女の腕を掴んだ。
「え!?」
緑が掴んでいたのは"怪物"の手だった。
慣れた手つきでカードを使うと、すれ違った別の生徒を追い始めた。
「どうしたの!?」
「あの方です」
ようやく尻尾が見えた。
逃げる男子生徒を追うが、体格差で負けている。
「二手に別れよう!」
緑に提案し、左右から追い立てる。
一度は視界から消えたが、なんとか捕まえることができた。
「何か言うことはありますか?」
「俺は知らねえ!あいつに頼まれただけだ!」
問い詰めればすぐに白状した。
想像通り、真犯人は別にいるらしい。
「あいつって?」
「あいつだ!黒いローブの――」
男子生徒は真犯人について言い切る前に、"怪物"に変貌した。
私の表情を見て察した緑がすぐにカードを使うと、男子生徒はその場に崩れ落ちた。
周囲を見渡すが、それらしい影は見当たらない。
しかし、本当に犯人がいることがわかっただけでも大きな収穫だ。
気持ちが落ち着かないまま、私たちは音楽室へと向かった。