#23 命名
「改めまして、成瀬愛佳です。よろしくお願いします」
数日後、愛佳が正式に合唱部の部員となった。
緊張しているようで、言葉や様子に固さがある。
「マロンこと八神亜久里です。この度部長になりました。よろしく」
「わたくしは三枝緑と申します。ニックネームは緑茶です。これから、よろしくお願いします」
一通り挨拶を交わしたところで、真っ先に決めなければならないことがある。
「じゃあ、まずはニックネームを決めよっか」
この合唱部では部員同士ニックネームで呼び合っている。
部長になった際に引き継がれた箱に入っていたノートによると、代々受け継がれている伝統らしい。
「ニックネーム?」
「うん。ここではお互いニックネームで呼び合ってほしいんだ」
「わたくしなら緑茶、八神さんでしたらマロン、といった具合ですね」
「……もしかして、ニックネームで呼ばれてる?」
「はい、そのようですね。成瀬さんはわたくしのことを緑茶と呼んでいただけますか」
「ま、そうなるんじゃない。ちゃん付けなんて柄じゃないし」
説明をしようと思ったら、二人が勝手に話し始めた。
別に誰かに迷惑がかかるわけでもないが、私をそっちのけでなかよくされると不服だ。
「はい、じゃあ早速決めよう。愛佳ちゃんだけ本名で呼ぶのもやりにくいし」
手を叩いてこちらに意識を向けさせる。
ここで本名呼びをするのは逆に恥ずかしい。
「どうやって決めるんだ」
「そうですね。例えばわたくしの場合、本名の緑の読み方を変えて連想しましたが、マロンさんはどうでしたか」
「私?私はね……私の名前、亜久里って言うんだけど、亜久里のグリの部分を取って英語にしたんだ」
そう考えると由来が被っているが、別に名前をもじる必要はないはずだ。
ところで、私は先輩の名前の由来を知らない。いずれ考えることになるのだから、参考に聞いておけばよかった。
それはそうと、まだすべて見れていないが、引き継いだどれかには書いてあったのかもしれない。
「ひとつ上の先輩は三人いたので、まだ被っていなかった三大香辛料からとったそうです。あみだくじで決めたと聞きました」
そんな理由でいいんだ。
私は先輩たちのニックネームの由来に衝撃を受けた。
「どんなのがいいとかある」
「変なのじゃなければなんでも」
そう言われてもどんなものが変なのかわからない。
「食べられる植物からつけられているようですね」
「そういえばそうだね」
手がかりがなくてうなっていると、同じように考え込んでいた緑が気付いたらしい。
確かにマロンは栗だし、緑茶はお茶だ。先輩たちも果物やスパイスなど、食べられる植物の名前が付けられている。暗黙のルールだったりするのだろうか。
「どの植物にしましょうか」
「お揃いがいいよね」
「本名から連想するということですね。愛佳……あい、藍……は食べられませんよね」
「あい、eye――目と言えばブルーベリー!」
少し遠いが、なかなかいい案ではないだろうか。
「音数も同じにするのなら、ベリーというのはいかがですか」
私の案を元に緑が出したのは、更にお揃いっぽいニックネームだった。
後は本人の許可を得るだけだが、気にいってもらえるだろうか。
「ベリー……ベリーか、いいな。試しに呼んでみてくれないか」
愛佳は噛み締めるようにつぶやくと、私たちにもそう呼ぶよう頼んできた。
どうやら心配はないらしい。
こうして愛佳のニックネームが決まった。
まだ次の舞台は決まっていないが、やることは決まっている。
その前にいつもより遅くなったが、準備体操から始めよう。




