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#02 対面

 中庭に"怪物"が現れてから数日が経ったある日、私は緑の誘いである人と会うことになった。緑曰く比較的近いという私の最寄り駅で待ち合わせ、そこから自転車に乗ってその人との待ち合わせ場所へと向かった。


「まだ着かないの?」

「あと少しの辛抱です」


 その待ち合わせ先というのが問題で、緑に着いていくうちにいつの間にか山へと入っていた。


「本当にこの道で合ってる?」

「はい。間もなく見えてくるはずです」


 緑の言う通り、それから間もなく建物が見えてきた。見た目は大きめの一軒家だ。

 入口近くの軒下に自転車を停め、中に入る。


「勝手に入って大丈夫?」

「許可は得ております」


 玄関はガラス戸で、家というよりは公民館に近い。明かりは着いておらず、中は薄暗かった。

 緑は迷わず進んでいき、ある扉の前で止まった。


「失礼します」


 ノックをして部屋に入る緑の後を追う。


「いらっしゃい」


 部屋には若い女性がいた。私たちとそう変わらないのではないだろうか。

 緑は女性と一言二言会話を交わすと、こちらを向いて言った。


「こちらは(トオル)さん。シキサイの有識者です」

「はじめまして。あなたが八神さんですね。今日はよろしくお願いします」

「八神亜久里です。よろしくお願いします」

「とりあえず座って、話しましょうか」


 透が示す先には人数分の折り畳み椅子と天板がガラスでできた机が置かれていた。机と違って椅子は真新しいが、最近持ち込んだものだろうか。


「ではさっそく、先日見たものについて話してもらえますか?」




 私は先日現れた"怪物"について見たままに話した。

 緑を探していたら出会ったこと、壁があるように振る舞っていたこと、緑に渡されたカードのこと、"怪物"が消えた後のこと、全部。


「では、順番に考えていきましょう」


 私が全てを話し終えると、透は状況の整理を始めた。


「その"怪物"には、まず三枝さんが接触したということですよね?」

「……はい」

「そのときの状況についてもう一度聞いてもいいですか?」

「……図書館を出たとき、誰かに呼ばれたので中庭へ向かいました。着いた途端、そこにいた()が襲いかかってきて、呼びかけは全く聞こえていないようでした」

()、ですか?」

「え?あっ、いえ……はい」

「ありがとうございます。では、そこへ八神さんが現れたんですね」

「このままでは埒が明かない、そう思ったときに現れたので、後光が指して見えました」


 緑はどこか引っ掛かる物言いをしながらも透の質問に答えていった。事前に話していたというので余計に怪しい。嘘はついていないようだが、本当のことも言っていないのではないだろうか。


「八神さんの言う"壁"というのはそのとき現れたのですか?」

「はい。お陰様で心を開いてもらえました。そうでなければわたくしのカードはただの紙切れ。解決には至りませんでした」

「なるほど……その"怪物"を阻んだ壁、もしかしたら八神さんの力かもしれませんね」

「はい。本日はそれを確認するために呼ばせていただきました」


 正直着いていけていない。"壁"もあの白紙のカードも、そもそも"怪物"のこともよくわかっていないのに、私の力だなんて、全てが巧妙な嘘だと言ってくれた方がまだ理解できる。


「一体どういうこと?私の力って何?」


 私が困惑していると、透は説明を始めた。


「簡単に説明しますね。まず、人の心には膨大なエネルギーが宿っているんです。それは見える人には色付いて見えるため、シキサイと呼ばれています」

「シキサイ」

「そう、それは誰もが持ち合わせているものですが、扱うことはほとんどできません。しかし、時々シキサイを扱える人がいるようです」

「……それが私ってことですか?」

「可能性の話ですが、ないとも言い切れません。……例えば、蝶のカード」

「それって」

「三枝さんの話では、カードに貼られた蝶はシキサイでできているそうです」


 意図せずカードの秘密を知れたが、それを聞いて私には思い当たることがあった。


 最近一部の生徒の間で「白紙のカードが届くと幸せになれる」という噂が流れている。

 実物を見たことはなかったが、本当に白紙ではなかったとすれば――


「もしかして白紙のカードの噂って」

「わたくしだと思います」


 そんなわけがないだろうと振ってみたところ、まっすぐに返されて少しいたたまれなくなった。




「シキサイの扱い方を練習しましょう」


 透の提案で私はしばらくこの一軒家(元々は研究所だったらしい)へ通うことになった。山ではあるが、言うほど遠くはないため、仕方なく提案を呑むことにした。折角なら使いこなせるようになりたいというのもある。


 帰り道、私は緑に一つ尋ねてみた。


「ねえ、私のシキサイってどんな色なの?」

「……栄養豊富な大地の色ですね」

「地味じゃない?」


 こうして、私はシキサイという未知の領域に一歩足を踏み入れたのだった。

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