#18 本番
今日は文化祭一日目。
私はいつもより一本早い電車に乗り、学校へと向かっている。
一本前の電車が一時間前だということには、昨年驚いたのでもう驚かない。
それでも文化祭当日のためかそこそこ人の多い車両には、虹高の制服を着た生徒の姿が多くあった。
まあ、私もその内の一人なので文句を言う資格はないが。
さて、電車はまもなく高校の最寄り駅に到着した。
目的地を同じとする合唱部の他4名の姿を探しつつ、私は通学路を歩き始めた。
初めに見つけたのはメグ先輩とシナモン先輩だ。
二人は同じ駅を使っているので出会っていても不思議ではない。
ただ、冷やかし防止のためか、微妙に距離を開けている。
「おはようございまーす」
元気よく挨拶すると二人ともこちらを向いた。
挨拶し返してくれたので私は宣言した。
「今日は全力で皆さんを送り出しますよ」
「空回りするなよ」
「楽しみにしてる」
なんだかんだ二年一緒に活動しているためか、信頼されていると感じる。
「おや八神さん。今日は絶好調ですね」
「本番まで体力置いときなよ」
騒いでいたところを見ていたのか、緑茶とクローブ先輩が注意しながら現れた。
「おはようございまーす」
「おはようございます。いよいよ本番ですね」
「おはよう」
こうしてこのメンバーで「おはよう」と言い合うのも今日が最後か。
そう思うと自分が引退するわけでもないのに寂しくなってくる。
「全員揃いましたし、さ、行きましょ」
送り出す立場にある私は明るく振る舞うべきだ。
そう思った。
音楽室に着くと、まずは皆それぞれの定位置に荷物を置きに向かった。
新入部員が入らなかったためか、定位置は昨年のまま廊下側に固まっている。
窓側には昨年まで三年生が荷物を置いていた。
一息ついて練習を始めることになった。
いつものように準備体操から始め、軽く体を動かす。
慣れ親しんだ発声練習のメロディを歌う。朝だというのに、いつもより声が出ている気がする。
準備が終わったので、今日歌う曲を順番に通していくことにした。
事前に用意した司会も含めて本番と同じように進めていく。
通し終わったら少し休憩を挟み、気になるところを練習することにした。
それも一通り終わり、本番まで自由時間となった。
まだ結構時間がある。
やることもなくのんびりしていると卒業生がやってきた。
二つ上の先輩ともう一つ上の先輩だ。夏休み中にも様子を見に来てくれた。
シナモン先輩はもう一つ上の先輩と楽しそうに話している。
やはり同性だと話も弾むらしい。
さて、もうすぐ開会式が始まる頃合いだ。
私たちは体育館へと向かうことにした。
裏口には誰もいない。
既に一つ前の演目を担当する部活は中に入ったようだ。
この場には顧問と私たち合唱部員の計六人しかいなかった。
流石にここでは話もできない。沈黙は苦手だ。
しばらくして拍手の音が漏れ聞こえてきた。
前の演目が終わったらしい。
バタつく音が聞こえる。撤収するらしい。
ドアが開いた。大荷物の生徒とすれ違い、舞台へと向かう。
部長であるクローブ先輩が司会をしている隙に、ピアノを用意しなければならない。
準備が終わり、司会も終わった。
さあ、本番だ。
まずは最近の流行歌で場を掴む。歌いにくい曲も多くある中で、まだ合唱にしやすい曲でよかった。
次に少し前の名曲を歌った。大量の案の中で満場一致で選ばれた曲だ。外すことはないだろう。
司会は分担している。最初と最後だけ部長で、曲と曲の間の二か所はじゃんけんで決めた。
選ばれたのは私とメグ先輩だ。
いよいよ最後の曲になった。
最後に歌うのは合唱部のテーマソング。かつての合唱部員が作った曲らしい。
急に知らない曲を聞かされる生徒たちには悪いが、伝統なので許してほしい。
それに、私はこの曲が好きだ。やっていて楽しいのもあるが、それだけではない。
何か深い意味があるような気がするのだ。……緑茶に聞いたら変な顔をされたが。
歌っていると違和感を感じた。
暗いはずの客席がきらきらと光っているのだ。
私はそれに似たものを見たことがあった。
それは、形を作る前の――シキサイ。
演奏が終わり、私たちはピアノを片付けて撤収した。
音楽室へ戻ると、卒業生がやってきた。数が増えている。
「よかったよー」
「はたから見るとあんな感じなんだね」
感想が聞けるのは正直ありがたい。
メモ帳にざっと書いておく。反省会をするときに役立つはずだ。
あのことを緑茶に聞こうと思ったが、そんなタイミングはなさそうだ。
後日時間のあるときに聞くことにした。
先輩たちと別れてひとまず教室へと向かう。
文化祭は始まったばかりだ。




