#15 投稿
ようやく完成した。
運命の出会いから約一年。
ひとつの曲がこの世に生まれた。
私に新しい世界を示してくれたあの曲を想い書いたものだ。
早速誰かに聴かせようと考え、一人の人物が浮かんだ。
明日、彼女に聴かせよう。
そう思うと、遠足前の子供のようになかなか眠りにつけなかった。
翌日。練習が終わり、駅へ向かう道中で緑を呼び止めた。
「ちょっと付き合ってくれない?」
断られる可能性はあった。あまり断らない性格とはいえ、なんだかんだ忙しいやつではあったから。
けれど、今回はそうでなかったらしい。
ついでにお昼でも、と私たちは先輩たちと別れ、駅近くのファストフード店に入ることにした。
「あのさ、曲を作ってみたんだ」
席につき、食べ始める前に私は告白した。
「最初は緑ちゃんに聴いてほしくて」
「わたくしでいいのですか」
「うん。お願い」
スマホに緑のイヤホンを差し、曲を流す。
聴いている様子を眺めるのは、会話がないこともあり、やけに緊張する。
「どなたか憧れられている方がおられるのですか」
しばらくして、聴き終わったらしく、緑はイヤホンを外して私に尋ねた。
「……うん。やっぱわかる?」
「ええ」
「この人なんだけど」
そう言って、私が曲を作り始めるきっかけとなったアーティストのページを見せる。
それを見た緑は一瞬固まったかと思うとこう言い放った。
「それはわたくしです」
緑は自分のアカウントを見せて本人であることを証明してくれた。
まさか憧れの存在がこんなに身近なところにいるとは思わなかった。世界は狭い。
慌ててカバンを漁り、ノートにサインを書いてもらった。一緒に活動している友人と考えていたらしい。その人物にも検討はついてしまったが、一応黙っておくことにした。
数日後、私は改めて完成した曲を見直していた。
あの後、家に帰った私は完成した曲に手を加えた。
現実で緑に憧れている気持ちも加えたいと思ったのだ。
出来は微妙だが動画もつけ、緑が投稿している動画投稿サイトに投稿することにした。
緊張する。それは舞台に立つ時よりも。
説明文に誤字がないか、とかそもそも動画をミスってないか、とか時間が近づくごとに不安が募っていく。
スマホの時計が時を刻むのをじっと見つめていた。
そして秒数が0に変わった瞬間、私は投稿ボタンを押した。




