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#13 鏡像

「3、2、1」


 香純が用意した電波時計が4時44分44秒になった瞬間、愛佳は手鏡を傾け、その場にいた全員を合わせ鏡に映した。

 正直よく入ったなと思う。私を入れて5人、なぜか鏡に映らない緑を除いても4人だ。

 まあ、そんなことは些細なことだ。今重要なのは――


「うまくいった?」

「どうやら成功したようですね」

「友佳!」


 皆それぞれの反応を示すのを聞きながら、私は周囲を見渡してみた。

 階段の位置が変わっている。元いた踊り場とは鏡写しになっているようだ。

 それに加え、辺りが変な色に見える。なんか全体的に暗い。

 まさに異界といった雰囲気だが、人は特に変わった様子はなさそうだ。


「友佳はどこだ?」


 しばらく叫んで冷静になったらしい愛佳が問いかけている。

 それを話し合う三人を眺めながら、私はあることに気が付いた。


「あれ?緑ちゃんは?」


 鏡に映らなかったからここには来ていないのだろうか。緑の姿がなかった。

 私たちはとりあえず階段を上り、廊下に上がることにした。


「あれ、三枝さんじゃない?」


 美幸が示す先には廊下の向こう、職員室のある方向へ歩く後ろ姿があった。


「緑ちゃん?」

「……八神さん」


 近づいて声をかけると、いつものように私を本名で呼んだ。


「どこに行くの?」

「……八神さんにはここがどう見えていますか?」

「え……うーん、ひっくり返ってるけどいつも通りじゃない?あ、でもなんか暗いな」

「……そうですか」


 急に妙な質問をされ、私は、自分の目を疑ったのか、案外冷静なわけじゃないのかも、と思った。


 そのまま緑について進んでいく。中庭を抜けて特別棟の階段を上っていった。

 反転しているのにもかかわらず迷わず進めるのはどんな思考をしているのか気になる。


 急に緑が立ち止まった。

 ドアの上に掲げられた札には"美術室"と書いてあるように見える。

 白字で書いてあるのを見て、ようやく私は色も反転しているのかもしれないと思った。


「ここって……」


 誰かの声に振り返ると、他の三人もすぐそばまでついてきていた。

 何か心当たりがあるのか愛佳に聞こうとしたところで、緑がドアを開けた。


 教室に入ると、女子生徒が白い黒板の方を向いて絵を描いていた。


「友佳!」

「えっ、あの子が?」


 なんと彼女が探していた鳴瀬友佳だったらしい。

 しかし、本人は私たちが騒ぐのを気にも留めず、絵を描き続けている。


「どうしてこんなところに……?ずっと探してたんだよ?」


 反応はない。


「ねえ、友佳……」


 さっきまでの力強さはどこへやら。愛佳は友佳に縋り付いてすすり泣き始めた。

 どうしようかと考えていると、緑が近づいていき、友佳の頭の上に数枚のカードを散らした。




「あなたはあなたの意志でこんなところにいるわけではないでしょう」


「あなたを思う彼らの声が聞こえませんか」


「あなたを思う家族の姿が見えませんか」


「あなたはどこにありたいですか」




 そう語りかける緑の声は、冷たさの中に温かさを感じさせた。




「あれ、私……」


 緑の言葉が効いたのか、友佳が意識を取り戻した。

 どうやら、無意識の状態で絵を描いていたらしい。


「愛佳?」


 友佳が悲しみに暮れる愛佳の頭を撫でると、それに気づいた愛佳が顔を上げた。

 愛佳は色々な感情を飲み込んで、友佳に手を差し出すと、笑って言った。


「帰ろう。友佳」

「……うん」


 こうして事件は完全に終息した。

 私たちは来たときと同じ方法で元の世界に帰ってきた。

 愛佳は友佳が戻ってきて嬉しそうだったし、友佳も状況はよくわかっていなさそうだったが、嬉しそうにする愛佳を見て嬉しそうだった。美幸と香純は自分たちの出番がなかったことにほっとしているようだ。緑はその様子を見て、相変わらずにこにこと笑っている。

 私もよかったと思っている。けれど、なんだかそれで済ませてはいけないような気もしないではない。


 まあ、今はとりあえず。


「お腹空いたなあ。なんか食べない?」

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