#12 反転
それから数日後。私たちは再び踊り場にある鏡の前へやってきた。
「頼んだものは持ってきましたか」
「ああ。これだ」
そう言って愛佳が見せたのは折り畳み式の手鏡だ。
行方不明になっている友佳のもので、落とし物として届けられていたという。
発見された場所はまさしくこの踊り場だったとのことで、重要な証拠になりそうだ。
「わたしたちの調べでは、4時44分44秒にこの鏡で合わせ鏡をすると未来の自分が見えるらしい」
「結局よく聞く話だったんだ」
合わせ鏡なんてベタにも程があるが、他に手がかりがない以上、試してみる他ない。
本来ならこんなところにいてはいけない時間だが、テスト期間中なので心配はなかった。
「もうじきか」
「緑ちゃんもこっちに来なよ」
緑はなぜか自己主張をしなくなった上、踊り場にも上がらない。
「……いえ、わたくしは――」
「ほら早く」
まもなく指定された時間になる。私は緑の手を取り、鏡の前に立った。
「え……」
そうして鏡を前にしたとき、私はすぐに異常に気付いた。
緑が鏡に映っていない。
「緑、ちゃん?」
「噂は本当のようですね。わたくしは存在しないのですから」
いつもと変わらない調子で話す緑だが、瞳が揺らいでいる。動揺しているようだ。
「いや、何言ってんの?ここにおるやんか」
「こうなった以上仕方ありません。……実はわたくしはし――」
「――1分前」
香純がカウントダウンを始めたことで緑の発言が遮られた。
とんでもないことを言い出しそうなところだったので、聞けなくてほっとした。
「改めて言います。実はわた――」
「待って!それは後で、解決してから聞くから、まずは目の前のことを優先しよ?」
「……はい」
危ないところだった。
しかし、こう言ってしまった以上、いずれ聞かざるを得なくなってしまった。
それまでに心の準備をしておかなければならない、と事件のことはどこかへ飛んで行ってしまった。
1分というのは意外と長い。気まずくなってしまった空気を後数十秒も耐えなければならない。
気が重くなりながらも、私は損なわれた集中を再び高めることにした。
「10秒前、9、8、7」
もしこれが不発に終わったら?どうやって他の手を見つけ出せばいいのだろう。
「6、5、4」
いや、きっと見つけ出せる。今はそう信じるしかない。
「3、2、1」




