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リナの冒険ノート  作者: リナ
中学3年生
215/221

リナ、三者面談と母の涙

20xx年10月25日(水曜日) 中学3年生


**朝**


目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。今日は三者面談の日。担任の先生と、私と、お母さんの三人で進路について話し合う、大切な日だ。


窓の外を見ると、秋の空が広がっていた。木々の葉が赤や黄色に色づいている。もう10月も終わりに近づいている。


「今日か...」


緊張で胸がドキドキしていた。三者面談では、志望校について具体的に話すことになる。夏祭りの夜から約2ヶ月。私は自分なりに考えて、一つの答えを出していた。


でも、それを両親に伝えることが、少し怖かった。


階段を降りると、お母さんが朝食の準備をしていた。いつもより少し気合いが入っている様子だった。


「おはよう、リナ。今日は面談ね」


「うん...緊張する」


「大丈夫よ。先生もお母さんも、リナの味方だから」


お母さんの優しい言葉に、少しだけ緊張がほぐれた。


朝食を食べながら、お父さんが「お母さんから話は聞いてる。自分の考えをしっかり伝えてこい」と励ましてくれた。


太一が「お姉ちゃん、頑張ってね!」と言ってくれた。さくらも「応援してるよ!」と笑顔を向けてくれた。


家族の温かさに支えられて、私は「いってきます」と家を出た。


**午前**


学校に着くと、クラスメイトたちも面談のことで持ちきりだった。


「私、今日の5時間目なんだ」


「緊張するよね」


みんなそれぞれに不安や期待を抱えている。それは私も同じだった。


美月が「リナの面談、何時間目?」と聞いてきた。


「6時間目。最後なんだ」


「そっか。私は4時間目。終わったら、どうだったか教えるね」


美月の明るさに、少し気持ちが楽になった。


午前中の授業は、正直あまり集中できなかった。頭の中で、面談で何を話すか、何度もシミュレーションしていた。


私が出した答え。それは、県立の理数科のある高校に進学して、将来は科学教育に関わる仕事がしたいということ。


理科が好き。実験が楽しい。その気持ちは変わらない。でも、夏祭りの夜、花火を見ながら気づいたことがあった。


私がやりたいのは、自分だけが発見の喜びを味わうことじゃない。その喜びを、多くの人と共有することなんだと。


だから、研究者として最先端の研究をするよりも、科学の面白さを伝える仕事がしたい。教師か、科学館の職員か、まだ具体的には決まっていないけれど、方向性は見えてきた。


でも、この考えを両親は理解してくれるだろうか。特にお父さんは、もっと高いレベルの学校を望んでいるかもしれない。


そんな不安を抱えながら、午前中が過ぎていった。


**昼**


お昼休み、美月が面談から戻ってきた。少し緊張した様子だったけれど、表情は明るかった。


「どうだった?」


私が聞くと、美月は「うん、先生もお母さんも、私の考えを聞いてくれた。県立の普通科で、将来は心理学を学びたいって伝えたよ」


「先生、何て?」


「今の成績なら十分狙えるって。でも、油断しないようにって言われた」


美月の話を聞きながら、私は自分の番がもうすぐ来ることを実感した。


「リナは、どう伝えるの?」


美月の質問に、私は正直に答えた。「理数科に進んで、将来は科学教育に関わりたいって」


「いいと思う。リナらしいよ」


美月の言葉に、少し自信が湧いてきた。


午後の授業も、やはり集中できなかった。時計を何度も見てしまう。6時間目が近づくにつれて、緊張が高まっていった。


**午後**


6時間目の開始前、お母さんが学校に到着した。廊下で会った時、お母さんは「頑張ってね」と微笑んでくれた。


チャイムが鳴り、私は職員室の前で待った。前の生徒の面談が終わるのを待つ時間が、とても長く感じた。


「田中さん、どうぞ」


担任の田村先生が呼んでくれた。深呼吸をして、職員室に入った。


面談用のスペースに、先生とお母さんが座っていた。私も席に着いた。


「それでは、田中さんの進路について話し合いましょう。まず、田中さんから志望校を教えてください」


先生の言葉に、私は用意していた言葉を口にした。


「県立南高校の理数科を第一志望にしたいと思います」


先生はノートにメモを取りながら、「理数科ですね。理由を聞かせてください」と言った。


私は一呼吸置いてから、話し始めた。


「私は理科が好きで、特に実験が大好きです。新しい発見をする瞬間のワクワク感が、何より楽しいんです」


先生とお母さんが真剣に聞いてくれている。


「でも、この夏、色々考えて気づいたことがあります。私がやりたいのは、自分だけが発見の喜びを味わうことじゃなくて、その喜びを多くの人と共有することなんです」


お母さんが少し驚いた表情をした。


「だから、将来は科学教育に関わる仕事がしたいと思っています。教師になるか、科学館で働くか、まだ具体的には決まっていませんが、子どもたちに科学の面白さを伝えたいんです」


話し終わると、先生が頷いた。


「よく考えましたね。田中さんらしい選択だと思います」


そして先生は、私の成績表を見ながら続けた。


「現在の成績を見ると、県立南高校の理数科は十分に狙えるレベルです。ただ、理数科は倍率が高いので、油断は禁物です」


先生が具体的な勉強方法や、今後のスケジュールについて説明してくれた。私は一つ一つメモを取った。


そして、先生がお母さんに向かって「お母様、何か質問はありますか?」と聞いた。


お母さんは少し考えてから、口を開いた。


「先生、正直に言うと、私はもっとレベルの高い学校を目指してほしいと思っていました」


その言葉に、私の心臓がドキッとした。


「リナは優秀だから、もっと上の学校に行けると思うんです。でも...」


お母さんは私の方を見た。


「今、リナの話を聞いて、考えが変わりました。大事なのは、学校のレベルじゃなくて、リナが何をやりたいかなんですね」


お母さんの目が潤んでいた。


「リナが自分で考えて、自分の道を見つけた。それが一番素晴らしいことだと思います」


お母さんの言葉に、私も涙が出そうになった。


先生が「お母様、素敵なお考えですね」と言った。


「田中さんは、学級委員としても立派に活動していますし、後輩の面倒もよく見ています。人に何かを教えることに向いていると思います」


先生の言葉に、お母さんが「そうなんですか」と嬉しそうに聞いた。


「はい。田中さんの志望は、とても理に適っていると思います」


面談は約30分で終わった。職員室を出ると、お母さんが私の手を握った。


「リナ、よく頑張ったわね」


「お母さん...さっきの言葉、本当?」


「本当よ。お母さん、リナのこと誤解してたわ。レベルの高い学校に行くことが幸せだと思い込んでいた。でも、違うのね」


お母さんの目から涙が一筋流れた。


「自分のやりたいことを見つけて、それに向かって努力する。それが一番大事なのよね。ごめんなさい、気づくのが遅くて」


私は首を横に振った。「ううん、お母さんは何も間違ってないよ。私のことを思って言ってくれてたんだよね」


二人で抱き合った。廊下で、他の生徒たちが不思議そうに見ていたかもしれないけれど、気にならなかった。


**夕方**


家に帰ると、お父さんと太一とさくらが待っていた。


「おかえり。面談、どうだった?」


お父さんの質問に、お母さんが答えた。


「リナ、立派だったわよ。自分の考えをしっかり伝えられて」


そして、お母さんは私の志望校と、その理由について話してくれた。


お父さんは真剣に聞いていた。話が終わると、少し考えてから口を開いた。


「そうか...科学教育に関わりたいのか」


「うん。お父さん、ごめんなさい。もっとレベルの高い学校に行ってほしいと思ってたよね」


私が謝ると、お父さんは首を横に振った。


「謝ることじゃない。確かに、最初は驚いた。でも、リナの話を聞いて、納得した」


お父さんが立ち上がって、私の肩に手を置いた。


「人に何かを教えるというのは、素晴らしい仕事だ。簡単じゃないが、やりがいがある。リナがそれを選んだなら、父さんは応援する」


その言葉に、私は涙が溢れてきた。


「ありがとう、お父さん」


太一が「お姉ちゃん、先生になるの?」と聞いてきた。


「まだわからないけど...でも、科学の楽しさを伝える仕事がしたいんだ」


さくらが「すごい!私、お姉ちゃんみたいになりたい!」と目を輝かせた。


家族みんなが、私の選択を認めてくれた。その温かさが、胸にじんわりと広がった。


**夜**


夕食の時、お母さんが「今日は特別な日だから」と言って、私の好きなハンバーグを作ってくれていた。


家族で食卓を囲みながら、これからのことを話した。


「リナ、これから受験まで大変だけど、家族みんなで支えるからね」


お母さんの言葉に、私は「ありがとう」と答えた。


お父さんが「ただし、甘やかすわけじゃないぞ。自分で決めた道なんだから、最後まで責任を持って頑張れ」と厳しくも温かい言葉をかけてくれた。


「うん、頑張る」


食後、私は自分の部屋に戻った。机に向かって、今日のことを振り返った。


三者面談。緊張したけれど、自分の考えをちゃんと伝えられた。そして、先生も、お母さんも、お父さんも、私の選択を認めてくれた。


お母さんの涙。あれは、きっと色々な感情が混ざっていたんだと思う。


子どもの成長を喜ぶ気持ち。自分の考えが間違っていたと気づいた驚き。そして、娘が自分の道を見つけたことへの安心感。


私も、お母さんの気持ちが少しわかった気がした。親って、子どものことを思うからこそ、色々心配するんだ。


携帯電話が鳴った。美月からのメッセージだった。


「面談、お疲れ様!どうだった?」


私は返信した。「うまくいったよ。家族も応援してくれることになった」


すぐに返事が来た。「よかったね!これで二人とも、目標に向かって頑張れるね!」


「うん。一緒に頑張ろう」


メッセージを送信してから、私は窓の外を見た。秋の夜空に、星が輝いていた。


あれから約2ヶ月。夏祭りの夜、花火を見ながら感じたこと。それを形にできた。


まだスタート地点に立っただけ。これから受験まで、大変な道のりが待っている。でも、もう怖くない。


家族がいる。友達がいる。先生がいる。そして、自分自身の目標がある。


私は机の引き出しから、祖母のレシピノートを取り出した。ページをめくると、祖母の言葉が目に入った。


「一つ一つの工程を大切に。急がず、焦らず、丁寧に」


受験までの道のりも、きっと同じなんだと思った。一日一日を大切に、一つ一つの勉強を丁寧に積み重ねていく。それが合格への道なんだ。


ベッドに横になって、今日一日を思い返した。朝の緊張、面談での緊張、そしてお母さんの涙。全部が大切な思い出になった。


特に、お母さんの涙は忘れられない。あの涙を見た時、私は改めて気づいた。親は子どものために、本当に色々なことを考えているんだということ。


お母さんは、私のために良かれと思って、レベルの高い学校を勧めようとしていた。それは間違いじゃない。ただ、方向性が違っていただけ。


でも、お母さんは私の話を聞いて、考えを変えてくれた。「リナが何をやりたいか」を一番に考えてくれた。


その柔軟さと、子どもを思う愛情の深さに、私は感動した。


お父さんも同じ。最初は驚いていたけれど、最終的には私の選択を尊重してくれた。


太一とさくらも、まだ小さいのに、お姉ちゃんを応援してくれている。


私は本当に恵まれている。こんなに素敵な家族に囲まれて。


携帯電話を見ると、もう夜の10時を過ぎていた。明日も学校があるから、そろそろ寝なきゃ。


でも、その前に今日のことを日記に書いておきたい。この気持ちを、言葉にして残しておきたい。


私はノートを開いて、ペンを握った。



**日記**


今日は三者面談の日だった。人生の中で、とても大切な日になった。


朝から緊張していて、授業も上の空だった。何度も時計を見て、6時間目が来るのを待っていた。待ち遠しいような、来てほしくないような、複雑な気持ちだった。


面談では、自分の考えをしっかり伝えることができた。県立南高校の理数科に進学して、将来は科学教育に関わる仕事がしたいと。


この答えにたどり着くまでには、時間がかかった。夏祭りの夜、花火を見ながら感じたこと。それから2ヶ月、ずっと考え続けてきた。


理科が好き。実験が楽しい。でも、それをどう将来に繋げたいのか。


最初はわからなかった。研究者になって、新しい発見をしたいと思っていた。でも、何か違う気がした。


花火を見た時、気づいたんだ。花火は一瞬で消える。でも、その一瞬の美しさが、人々の心に残る。


私がやりたいのは、それと同じなんだと思った。科学の発見や面白さを、人々の心に残したい。特に、子どもたちに伝えたい。


だから、科学教育に関わる仕事がしたい。教師になるか、科学館で働くか、まだ具体的には決まっていないけれど、方向性は見えてきた。


面談で一番印象に残っているのは、お母さんの涙。


お母さんは最初、もっとレベルの高い学校を目指してほしいと思っていたらしい。でも、私の話を聞いて、考えが変わったと言ってくれた。


「大事なのは、学校のレベルじゃなくて、リナが何をやりたいか」


お母さんがそう言って、涙を流した時、私も泣きそうになった。


お母さんは、私のために良かれと思って、レベルの高い学校を勧めようとしていた。それは愛情からだったんだと思う。


でも、私の話を聞いて、私の気持ちを優先してくれた。その柔軟さと愛情の深さに、心から感謝した。


家に帰って、お父さんにも話をした。お父さんも最初は驚いていたけれど、最終的には「応援する」と言ってくれた。


「人に何かを教えるというのは、素晴らしい仕事だ」


お父さんのその言葉が、とても嬉しかった。


太一とさくらも、目を輝かせて「すごい!」と言ってくれた。弟や妹の純粋な応援が、心に響いた。


家族全員が、私の選択を認めてくれた。こんなに幸せなことはない。


今日、私は改めて気づいた。家族の大切さ。支えてくれる人たちの存在。そして、自分の道を自分で決めることの重要性。


これから受験まで、まだ4ヶ月ある。大変な道のりだと思う。きっと、挫けそうになることもあるだろう。不安になることもあるだろう。


でも、大丈夫。家族がいる。美月がいる。先生がいる。そして、自分自身の目標がある。


祖母のレシピノートに書かれていた言葉。「一つ一つの工程を大切に。急がず、焦らず、丁寧に」


受験勉強も同じだと思う。一日一日を大切に。一つ一つの問題を丁寧に解いていく。焦らず、自分のペースで進んでいく。


そうすれば、きっと合格できる。そして、夢に近づける。


今日は本当に特別な日だった。人生の中で、ずっと覚えていたい日になった。


お母さんの涙。お父さんの励まし。太一とさくらの応援。美月のメッセージ。全部が私の宝物。


明日からも、精一杯頑張ろう。自分で決めた道を、最後まで歩き続けよう。


そして、いつか科学教育に関わる仕事に就いた時、今日のことを思い出そう。家族に支えられて、ここまで来られたことを。


夢は叶えるためにある。「無理」とか「諦める」という言葉は使わない。それが私の決意。


おやすみなさい、今日の私。本当にお疲れ様でした。


そして、明日からの私。一緒に頑張ろう。夢に向かって、一歩ずつ進んでいこう。


田中 里奈


**追記**


日記を書き終えてから、ふと夏祭りの夜のことを思い出した。


あの夜、美月と一緒に花火を見ながら、「一瞬一瞬を大切に生きなきゃいけない」と思った。


今日の三者面談も、そういう大切な一瞬だったんだと思う。


人生には、いくつかの分岐点がある。今日は、その一つだった。


これから先、また分岐点が来るだろう。高校選択、大学選択、就職...人生は選択の連続だ。


でも、今日学んだことがある。大切なのは、自分の心に素直になること。周りの意見も聞きながら、でも最終的には自分で決めること。


そして、決めたら責任を持って、最後まで頑張ること。


お父さんが言っていた。「自分で決めた道なんだから、最後まで責任を持って頑張れ」と。


その言葉を、胸に刻んでおこう。


それから、家族の大切さ。これも今日、改めて感じた。


当たり前のようにそこにいる家族。でも、その存在がどれだけありがたいか。支えてくれる人がいることが、どれだけ心強いか。


これからも、家族を大切にしよう。感謝の気持ちを忘れないようにしよう。


美月のことも忘れちゃいけない。小学校からずっと一緒の親友。これからも、ずっと友達でいたい。


今日、美月は「一緒に頑張ろうね」と言ってくれた。その言葉が、どれだけ心強かったか。


一人じゃない。仲間がいる。それがどれだけ大きな力になるか。


受験まで、あと4ヶ月。長いようで、きっとあっという間だ。


この4ヶ月を、悔いのないように過ごそう。一日一日を大切に、丁寧に生きよう。


そして、2月の受験の日。自信を持って試験会場に向かえるように。


今日は本当にいい日だった。疲れたけど、充実していた。


窓の外を見ると、星が輝いている。あの星たちも、何億年も前から輝き続けている。


私も、自分の夢に向かって、輝き続けたい。


本当のおやすみなさい。


田中 里奈


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