蔵
娘は今は誰も入らない蔵に入る。その中は暗い。
娘は自分の足元に感触を得た。それは物に触れたのではない。何者かが触れてきたのだ。彼女は分かっていた。それが意思を持ってきていることを。
その感触は徐々に、本当にゆっくりと彼女の足元から太ももへと伝ってくる。その感触は慌てない。本当にゆっくりとした速さだ・・・・。いつでも娘は、その場から抜け出せる。それでも彼女は、藏の中で仁王立ちをしていた。娘は分かっていたのだ。少なくともそれには、好意があるという事を・・・。
(ああ・・・・・。)
・・・・娘は、その感触をとても愛おしいと思っていた。
その藏はもう、その役目を果たしていなかった。本来は商売に必要な物資を保管しておく場所であったが、その事業は行っていない。できなくなったのだ。依頼この藏は、誰も近寄らない開かずの間であったのだが・・・・。ここ最近に娘は、この藏に出入りするようになったのである。両親はいつも終日働きづめだ。だから、この娘の所業を知ることは無かった。
娘は蔵に入り浸った。それとは会話しない。娘の身体に触れてくるのみだった。何故だか懐かしい気持ちがする。彼女は思った。もっと自分の身体を触ってほしい。そして自分の事を、しっかりと認識してほしい。蔵の中に、娘の吐息が流れた。
娘は高校生だ。彼女は授業中にも、その蔵の事を考えていた。何かが自分に興味を持ってくれている。それだけで十分に彼女は嬉しかった。
実は娘は容姿端麗だ。今までに何人者の男の子に、交際を申し込まれた。しかし全てを彼女は断った。娘は気に食わなかったのである。何故かと言うと彼らが自分の容姿に対して、好意を抱いているという事だった。それは娘の思い込みでなく、彼女から見れば明白な事なのであった。男たちの娘を見る目は、明らかに性の対象としてであった。彼女の端正な顔立ちだけでなく、その身体も我が物にしようと狙っている・・・・。そんな男子達を、決して娘は相手にしようとはしなかったのであった。
その事もあり、彼女は学校では浮いた存在だった。娘に交際と断れた男達の逆恨みもあり、女子からも疎んぜられていたのだ。しかし娘は、そんなことは意に介しなかった。常に彼女は、畏怖堂々とした態度で学生生活を送ったのだ。それがますます周囲の、娘の女性としての位を際立たたせたのである。最早、娘は男子からは高根の花、女子からは触れてはならぬ存在、なのであった。
放課後に家に帰り、制服のまま彼女はそこに行った。今日も娘は蔵の前に立った。もう使用されぬ蔵は、鍵は掛かっていない。
「うふふ・・・。」
自然と笑みがこぼれる。そして、そのまま娘は蔵に入った。
「待たせたわね。」
彼女は独り言を、恥ずかしげもなく発した。そして制服の上着を脱ぎ、床に置いた。今は真夏で蔵の中は、とても蒸し暑いのだ。そして感覚があった。
「おいで。」
娘は自分の眼には見えない、それを見下ろしていた。
(ふうっ・・・・・。)
彼女の鼻息は荒くなってきた。気が付くと身に着けている制服は自分自身の汗で、ビシャビシャに濡れていた。その事がなぜだか娘を、申し訳ない様な気分にさせたのであった。
「ごめんね。」
姿勢を正した彼女は、何者かに謝罪の言葉を述べた。そしてシャツのボタンを上から順番に外した。こんなことは最近、蔵に通いだしてから初めての行為である。
・・・・・そして娘は全裸になった・・・・。どうして自分がこんなことをしたのかは、彼女自身にも分からない。
(うっ・・・・・。)
そのとき突然、娘は眩暈に襲われた。そして意識は朦朧としてきたのである。
<<<<< 娘は幼少期の事を全て思い出した >>>>>
娘は裕福な家に生まれた。父親は実業家だった。しかしそれは幼き日だけであった。父の事業は破綻した。家は莫大な借金を背負った。娘の両親はそのために、一日中働かなければならなくなった。だが少なくとも一人娘を守ろうとする両親の気持ちは、本当だった。だから彼女は学校を通う事ができたのだ。
娘は思い出した。それは自分が幼き日に蔵でであった友達の事を。友達は使用人だった。娘と使用人はとても仲が良かった。いつも娘は使用人と遊んでいた。娘の両親も使用人の事を気に入っており、娘と仲良くしている事を快く思っていた。
しかしその日々は長くは続かなかった。ある日、父は蔵に入った。そこでとんでもないモノをみてしまったのだ。それは使用人と娘が遊んでいる光景だった。しかしその内容が問題であった。
===== 娘は全裸だった =====
父は激高した。使用人は父に、馬乗りに殴りつけられた。そしてボロ雑巾になった使用人は解雇された。使用人は彷徨った挙句、野垂れ死にしたという。娘の父親はその噂を聞いて、安心したという・・・・。
それから数年後、父親の事業は破綻した。そして親子三人での慎ましい生活に至る・・・・。
<<<<< 娘は我に返った >>>>>
もう娘は完全に拘束された。全裸で両手両足を広げられ、荒縄で縛られている。もはや彼女は身動きは取れない。だが助けを呼ぼうという気は起こらない。
何故なら娘は思い出したからなのだ。自分の幼少期の後ろめたい記憶を・・・・。
===== ギギイ =====
そして何者かが蔵からそとに出るの音を、娘は気がついた。もう蔵の中は娘一人だ。しかし娘の表情に悲壮感はなかった。もう彼女にとって、今の生活はどうでも良くなったのである。もうこれで慎ましい生活を送る必要もない。面白くない学校に行くことも無くなる・・・・。
娘は恍惚の表情を浮かべながら、その荒縄に身を委ねるのであった。
< 蔵 > ~完~