ep.月にきっと2人は 未来
「前の授業の詩の続きしまーす。タブレット開いてー。」
あー、めんどくさいなあ。
根っからの理系の私は国語という教科そのものが気に入らない。
「じゃあ読んでいきます。
月の香 末咲澄志」
そういって先生は詩を朗読し始めた。
私はほとんど聞き流していて、気がついたら、音読が終わっていた。
「はい。じゃあ感じたことをタブレットに記入してください。」
詩って本当にわからない。
苦手だ。
「先生、朝からお腹痛かったので、保健室に行ってきます。」
「大丈夫?行ってらっしゃい。」
………はあ。やっと教室から抜け出せた。
ガラガラガラ
「こんちはー」
「……授業時間足りないと公立高校の受験は厳しいわよー。授業出れるなら出ときなさーい。」
美術室に入ると、部活の顧問であり美術教師である、私に絵の心を叩き込んでくれた先生がこちらを向かずに話しかけてきた。
どうして私だってわかったのかなぁ。
「普段はちゃんと受けてるじゃないですか。」
「あら?気のせいかしら。一昨日も来ていたような気がするわ?」
確かに一昨日も来た。
「暇つぶしてていいわよー。」
こういう時は美術室で好きに過ごしてもいいということだ。
「ありがとうございまーす!」
「その代わり次の授業はちゃんと出なさーい?」
「はーい!」
私はお気に入りの絵の具を、部活の倉庫に置いてある絵の具セットから取る。
『W039 オーレオリン』
この絵の具は月の色を描くのに格別なのだ。
今日はどんな絵を描こうか。
私のお気に入りの席に座って、すぐ近くにある画集を手に取る。
私の1番お気に入りの画集、それは黒水千朔の画集だ。
彼女の作品はたった13作品しか発見されておらず、さらにそれは1つの連作になっている。
そもそも、その生涯自体がいつまで続いたのかが不明で、2025年の6月頃に行方不明届が出されているらしい。
彼女が17になる直前のことだったそうだ。
彼女の作品はどれも月が書き込まれていて、専門家によると2作目までのみオーレオリンという色の絵の具を使い、その後はカドミウム系の黄色を混ぜて使用していたようだ。
黒水千朔のカドミウム系の黄色の絵の具は彼女の部屋から見つかったようだが、オーレオリンだけは、どこを探しても見つかっていないらしい。
きっと、オーレオリンを無くしてしまったから、他の絵の具で代用したのだろう。
なぜ買いに行かなかったのかはわからないが。
それにしても、よくカドミウムなんて使ったなと思う。
当時は環境問題についてあれやこれやと言われていた時代だったはずなのに。
何かこだわりがあったのかもしれない。
彼女の作品には全て日付も書き込まれている。
なんの日付かは不明だが、どれも新月の日だそうだ。
しかも2024年の6月から2025年の5月までの1年間全ての新月の日が1作品ごとに書き込まれている。
ただ、絵にはいつも満月が描いてあり、満月の日だとすると、およそ15日のずれができてしまうため、未だ専門家ですら頭を抱えているらしい。
「影浦さんは本当に黒水千朔が好きね。」
仕事が一段落したのか、先生が私の隣の椅子を引いて座った。
「はい。わかっているだけで17年の人生。その中でたった13作。これだけの画力にするためにはもっとたくさん書いているはずなのに、落書きすら見つからない。そんな不思議さが良いんです。」
「今、国語は末咲澄志の月の香でしょう?」
「はい、なんで知ってるんですか?」
「ふふ、末咲澄志はね、あくまで説だけど、黒水千朔と友人だったのではないかって言われてるのよ。」
「へ?!そ、そうなんですか?」
「末咲澄志は月を題材にした作品のみしか存在しない。しかもその作品内で、ずっと『君』を追い求めているの。どの作品も紙に書かれていて、その裏には執筆年月日と思われるものが残ってる。どれも、新月の日よ。それから最初の作品は2026年7月に、最後の作品は2027年12月に書かれていてね。そして10代後半の男性だったとされてるわ。」
「そうなんですか!」
「国語の授業聞いてないわね。」
「ううっ。」
「はぁ、まあいいわ。黒水千朔もまた月を題材にした作品しか存在せず、本人とされる少女と青年が描かれていて、その青年こそが末咲澄志ではないかと噂されてるの。作品制作期間も末咲澄志同様短く、2024年6月から2025年5月まで。このとき黒水千朔は16だとされているし、青年も10代後半くらいに見える。」
「きっと、仲が良かったんですね。」
「そうね。もしかしたら恋人だったのかも。」
「………すてき。黒水千朔のオーレオリンはきっと、末咲澄志が持っているんですね。」
「どうして、そう思うの?」
「うーん、なんとなく?です!」
そう笑って少女は耳に髪をかけた。
その耳輪にはほくろがあった。
完結です。
ありがとございました。




