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ただの理屈

 担当編集の彼女に昼間に言われたことを考えてると、彼女の意見に賛同出来るところも確かにあると思えてくる。


 試しにまっさらなテキストを開いて、新しい話を書こうとする。『季節外れの香りがした。冷たい空気とそれに似つかわしくない華やかな香り』。


 そこまで書いて、僕はキーボードから手を離す。どうにも、書ける気がしない。


 義務じゃないことをするときに必要なのは、自分の理念なんだろう。たとえ正しくても、誰かの考えに付き合うのは、結構難しい。


 こういうときはどうすればいいのか、僕は迷った。他人に求められることと、自分が決めたこと、それが食い違ったときには何を基準にするべきか。

 

 今の時代なら、自分の決めたことを優先するべきだろう。少なくとも、真正面から質問されたらそう答える人が多いと思う。誰かに自分の人生を委ねてはいけない、自分の内なる声に耳を貸さなければいけない、自分の決めたことなら後悔はないはずだ。


 おおむね、僕はそれに賛成する。自分の価値観に従って生きることは後悔を減らすし、自分を制御出来るという実感はストレスを減らすからだ。


 だけれど、問題はその自分の価値観だって、本当に自分で拵えたものか分からない、ということだ。人間が社会的な動物である限り、何かに影響を受けたことのない純粋な思想というものはない。


 だとすると、僕の考えだって、本当に誰かに反対してまで押し通すほど重要なものなのなんだろうか。


 ふと、ぼくは息を吐いた。


「なんてね」


 ここまで考えておいてなんだけれど、僕はほとんど自分がこれから何をするかを決めていた。今述べていたのは、ただの理屈だった。


 僕は決めていた。あの子のためだけの小説を書くこと。今すべきは、たったそれだけのはずだった。

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