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鉄と歌

 いずれ、訪れることだった。


 私には、解っていたことだった。


 なぜなら、それが、そのまま彼女の理由なのだから。


 知っていることには、驚けない。


 予想しえたことに、心は動かない。


 それなのに。これは知っていることで、予想しえたことなのに。


 私はきっと、彼女と彼女の人生を忘れることはないだろう。


 

 やかましい響きに混じって、歌が聞こえてきた。高くて、もろくて、幼さを残しているくせに、どこか達観して、なんだか諦めているみたいな、きれいな歌声。


 彼女が歌っている。私は騒音に紛れようとしている美しい響きの元に近づいた。


 そこには私と同い年の女の子がいた。


「メイ」


 彼女の名前を呼んだ。メイは私に気が付いて、小さく微笑んだ。


「ハナ、こんにちは」

「その物騒な鉄の塊はなに?」


 私はメイが握っている金属製の棒を指して言った。彼女は愉快そうにくつくつ笑う。


「なあに、そんなにおかしいかしら」

「ごめん、ごめん。だってハナがおかしな呼び方するから。これはソケットレンチっていうの」


 そう言って、彼女は分解途中のモーターバイクのエンジンのボルトを締める仕草をした。


 そこは彼女の父親が経営しているバイクの整備屋のガレッジだった。彼女はよくその手伝いをしていた。


 メイはしばらく上機嫌そうにしていたが、顔を少し伏せたあと、私の目を伺うように見やった。


「もしかして、歌、聴こえてた?」


 さっきまでの明るい表情が曇っているように見えた。私は正直に言った。


「うん」


 明らかにメイの顔が暗くなった。私はあわてて言う。


「でも、そんなに遠くまで響くような感じじゃなかったし、バイクのエンジン音に紛れていたから」


 彼女の表情は晴れなかった。私は大げさな声を出した。


「大丈夫だよ、そんな気にしないでも。メイのお父さんも少し歌っただけでは、怒らないでしょう」


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