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「田辺。」
ひな子が女子達と写真を撮っていると、狩野が近づいてきた。
「あ、狩野!一緒に写真撮ろうよ!」
鈴が狩野を引っ張ると、ひな子の隣に押しつけた。
「はいはい、笑ってー。」
狩野とのツーショット。あとで送って!とひな子は鈴に目で訴えると、鈴はサムズアップした。
「田辺。ちょっと。」
狩野はひな子の手を掴むと、ぐんぐんと森の中へ入っていく。
手!手繋いでる!
何も言えなくなったひな子は狩野に大人しくついていった。
「ここ、座ろう。」
ちょうどいい感じの岩を見つけた狩野は、そこにひな子を座らせると隣に自分も座った。
ちっ近くない??
肩が触れる距離。でも一度座ってしまったからには、座り直すわけにもいかない。
「ひな子、がんばったな。去年もそうだけど。特訓してたよな?」
「うん…」
知ってたんだ。見られてた?恥ずかしい!…でも嬉しい。
「ありがとう。おかげで大収穫だったよ。女子達もまとめてくれて。」
「ううん、そんな…」
狩野によく思われたくて頑張った下心100%の賜物です、などとは言えない。
「はい。いちご、食べて。」
狩野はひな子の手に狩りたてのいちごを置いた。
「え、いいの?」
みんなで分けるんじゃ、とひな子は思ったが、つやつやプルプルのいちごの誘惑に勝てず、口に入れた。
「美味しい!え、すごい美味しい!」
どうしよう、美味しい以外の言葉が思い浮かばない。
さっきまで動いたり飛んでたりして、この憎き敵が!としか思えなかったいちごは、口に入れてみるとふわっと甘い香りが鼻に突き抜け、噛むとじゅわっと甘酸っぱい味が口の中に広がった。
「美味しい?よかった。はい、食べて。」
「うん、ありがとう!」
狩野はまた一粒ひな子の手にいちごを置いた。指先がひな子の掌に触れる。
「美味しい!」
「うん。はい、食べて。」
「えっもうそんなにいいよ。」
「いいから、食べて。」
「えっうん、狩野君も食べたら?」
「うん、あとでね。」
え、いや、そりゃ嬉しいけど。そんなに食べられないし。でも狩野くんからもらったものは断れないし。
ひな子は目を白黒させながら狩野が差し出してくるいちごをひたすら食べた。
狩野の父と母は、そんな二人の様子を離れたところから見ていた。
「あらあら。あの子ったら。」
母が呆れたように笑いながら言った。
「おー、あいつも見つけたか。」
「あなたも私にたくさん食べさせたわよね。」
「そうだねえ。100個ぴったりだよ。」
「そんなに私食べたの!?お腹がはち切れるかと思ったわよ。」
母はお腹をさすった。
「ははは。狩野家の人間にとって自分が狩った野生のいちごを食べさせるのは愛情の証だからね。本能に刻まれてるんだよ。」
狩野はひな子の口に直接いちごを入れることにしたらしい。ひな子は涙目になっている。それを見た母は、
「いやー若いわねぇ。青春ねぇ。」
と言った。
「さ、僕らも食べようか。」
父の手には大量のいちごが盛られている。
ひたすらもぐもぐといちごを頬張るひな子と、その様子を愛おしそうに見つめる息子を見ながら、両親はいちごを摘んだ。
「今年のいちごは当たりねぇ。」
「そうだなぁ。」
「ちょっちょっと待って、狩野君!もう入らないから!」
「わかった。じゃあ俺にもたれ掛かっていいよ。」
「ええ!そういうことじゃなくて!」
「はい、いちご。」
「狩野くん!」
ひな子の必死な叫びは、ぽかぽかとした日差しが差し込む森によく響いた。