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「「「オーオーオー!」」」
ドンドンドン!
水分が減って小さくなればなるほど、いちごは素早くなっていく。それに合わせて、チームも漫歩から早足になっていく。
「あっいちごが逃げた!」
チームの一人が叫んだ。
「少しなら見逃せ!それより大群を逃すなよ!列は乱すな!」
狩野のおじさんが返した。
「オーオーオー!」
ドドドドドド!
「オーオーオー!」
ドドドドドド!
「オーオーオー!」
ドドドドドド!
追いかけっこをしているうちに、いちごはどんどん中身が凝縮され、色艶が増して味が濃くなっていく。小ぶりのいちごはそれだけ活発に動いた証であり、高値で取引される。
「そろそろ走るぞ!ついて来い!」
「「「オー!」」」
蔦を縦横無尽に動き回るいちごを追いかけるのは至難の業だ。ひたすら走って追いかけるしかないのである。
グシャ!
パニックを起こしたいちご達がぶつかり合う。
「くっさ!でもさっきよりくさくない!」
「水分が抜けてきてるからな。この調子だ!」
「ぎゃ!いちご踏んじゃった!」
「大丈夫だ!進め!」
ハッハッハッ
ひな子は息を乱しながらも必死でチームについていった。去年より辛くはない。でも慣れない森の中をいちごを追いかけながら足元に注意して走るのは神経をすり減らす。
「っ!」
思った途端、木の根に足をとられた。前につんのめったが、足の力でぐっと堪える。
「大丈夫か!?」
狩野が声をかける。
「大丈夫!」
嬉しい。私のこと気にかけてくれた。えへへへ。てかそれどころじゃなかった。
ひな子の目の前からいちごの大群がすり抜けようと突進してきた。
「逃すかああああ!」
ひな子は高速で虫取り網を振り回した。いちごはピタッと止まると逆方向へ逃げた。
「よし!」
安心したのも束の間、その隙に別のいちごの群がひな子の足元をすり抜けた。
「ああ!」
「気にするな!5割がた追い込めれば上等だ!」
いちごはすでに駆け足でも追いつけないくらい素早くなっている。が、いちごの弱点は持久力がないことだ。チームより少し離れたところに群れになると、いちごはぴたりと止まった。
ハッハッハッ
「しんどっ!」
「もう走れないです!」
チームメンバーが次々と減速していく。
「大丈夫だ。あそこで群れになっているだろう。あいつらも休んでるから、俺らも少し休もう。」
狩野のおじさんが止まれの合図をした。
「あー、、、久しぶりにこんなに走った…」
「水!うまい!」
「髪の毛ぐしゃぐしゃだわ。」
目はいちごの群を捉えながら、各々休憩する。
「よし!いくぞ!」
「え!あともうちょっと!」
「いいか、今いちごは休んでるだろう。ってことは、今追いかければそんなに早くは移動できないってことだ。あと少し待ってみろ。蔦から栄養が補給されて、またすばしっこくなるぞ。」
「やだ!行こう、さっさと行こう。」
「群れに近づいたら絶対に触るなよ。威嚇するだけだ。」
「オー!」
チームはいちごの群れまでそこまで小走りで移動すると、威嚇した。
「「「オーオーオー!」」」
ドンドンドン!
いちごがふるふると震えると、また逃げ始める。
それをチームが追いかける。
スタミナ切れのいちごが休む。
それを延々と繰り返す。
バシッッ
今までより大きな音で蔦がうねると、ぶちぶちと切れ始めた。
「蔦が切れ始めたぞ!もう少しだ!がんばれ!」
蔦は消耗の激しかった部分から切れていく。つまり、チームが追いかけた側から切れていく。蔦からエネルギーの供給が切れたいちごは、まだ無事な方の蔦に移動するしかない。こうしてどんどん森の中心に追い詰めていくのだ。
こうなるといちごも必死だ。蔦を伝っての移動が厳しくなっていくなら、残る手段はーー
「とっ、飛んだ!」
ビョーン
一粒のいちごがヘタをバネに飛ぶと、他の蔦へ着地した。
ビョーン
ビョーン
ビョーン
他のいちごも一斉に飛び始める。
来たっ!去年手こずったやつだ!
ひな子は虫取り網を握りなおすと、高くに掲げて振り回す。
「田辺を見習え!みんな、上の方で振り回すんだ!」
狩野のおじさんが大声で叫ぶ。
走りながら、虫取り網を頭上で振り回すのは相当体力がいる。ちょっと休んじゃおうかなとひな子は思ったが、ちらりと横を見ると狩野が誰よりも高く虫取り網を上げて振り回していた。
ここでカッコ悪い姿は見せられない!
ひな子は丸まりそうになる背中をピンと伸ばすと、大きく息を吸ってまた虫取り網を振った。
ビョーン
ビョーン
ビョーン
視界には飛び交ういちごの赤が舞っている。まるで虫の大群のようだ。冬眠中のぶよぶよしたいちごには絶対にできない技だが、いちごはすでに500円玉ほどの大きさまで縮んでいる。