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野生のいちご狩り。それはビニールハウスで育ったいちごを取って食べるのとはわけが違う。
栽培品種化された温室育ちのボンボンと違って、野生のいちごは森に生息し、蔦を伝って動く。そう、野生のいちごは動くのだ。
森の木々にはいちごの蔦が巻かれ、地面も蔦で覆われている。そのままにしておくと森が死んでしまう。日光も水分もすべていちごが吸い取ってしまうからだ。
そこで一年に一度、春のいちご狩りシーズンの時だけ森が開放され、いちご狩りが行われる。
キノコ狩りのようにただ実を見つけて取ればいいというものではない。いちご狩りには作法があり、規則があり、それに則って行われる。
適切な手段を使って狩ったいちごは、大きさは温室育ちのものより小ぶりだが、実がぎゅっと詰まっていて味が濃い。酸味と甘味の絶妙なバランスが取れた野生のいちごは、甘さに特化した栽培品種とは一線を越す美味しさだ。
特に活きがいい獲りたてのいちごは、三代珍味と言われるフォアグラ、キャビア、トリュフに次ぐ美食として世界中で愛されている。
狩野は代々いちご狩りを継承する由緒正しい家の生まれだ。本来ならいちご狩りに参加できるのは16歳からだが、狩野は家の手伝いで幼い頃から参加している。背が高く、野球部で体を作っているため、がっしりと体格がいい狩野は学校でも人気がある。日焼けした肌、爽やかな笑顔、さらに気さくな性格なので、年上にも年下にも受けがいい。
…いいの、狩野君が人気があるのは前からだし。別にモテても気にしないったら。
野生のいちごをカップルで一粒分け合って食べると一生ラブラブでいられるというジンクスがある。
口移しで、なんて。ぐふふふふ。
『ひな子、俺と一緒に食べようぜ』なんて言われちゃったら!!!どうしよう!!!
ぐふふふふ。
ひな子の妄想は広がる。
この一年間、厳しい訓練を自分に課した。今年は足を引っ張らないはず、いや、必ず役に立ってみせましょう。
ひな子は明日へのいちご狩りに向け、運試しに校舎の前の桜の花びらを手で捕まえることにした。
ひらひらと舞う花びら。意外と捕まえるのは難しい。
「取れた!」
一緒にチャレンジしていた愛子が捕まえたらしい。
え、待って。私の一年の苦労が…
結局花びらは捕まえられなかった。でもいいのだ。本番は明日である。