スキル
アルバはフワリと浮いて進み出した。
俺もそれに着いていく。
しばらくは無言で着いて行ったが、それはそれで何かつまらない。それに質問したいこともあったので話しかけることにした。
「ところでアルバ、この世界って魔法はあるのか?」
「ああ、もちろんあるぞ。」
おお、やはり魔法はあるようだ。ならばすぐにでも使ってみたい。
「どうやったら使えるんだ?」
「簡単じゃ、こう唱えればよい。見ておれ。」
アルバはそう言うと着地し、右手を前に突き出した。
「—火炎球!」
アルバがそう唱えた瞬間、右手の前にどこからともなく火球が現れ、前方に勢いよく射出された。
どこまでも飛んでいくように見えたが、ある程度の距離が空いた所でぱっと消えてしまった。
すごい。
今の火球は幻とかの類ではない。確かな熱を感じられた。本当に魔法は存在したのだ。
だが、唱えるだけならば確かに簡単だ。すぐにでも出来るだろう。
「本当にそれだけで良いのか?」
「うむ、よく気づいたの。確かに魔法はこのように唱えれば使うことができる。じゃが詠唱には体内の魔力を使うのじゃ。主にはまだ早いかもしれんの。」
「•••体内の魔力が足りないってことか?」
「その通り。」
「じゃあ、どうやったら魔力を増やせるんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!」
アルバは勢いよくそう言うと再び浮かび上がり、俺の後ろに回った。何をするのかと思ったが、次の瞬間には俺の首に後ろから手を回してきた。
そしてアルバの顔が俺の顔の真横にニョキっと現れた。
うん、いい匂いがする。フローラルとでも言うべき香りがその水色の髪から漂ってきた。
•••おっと、いけないいけない。こんな少女に興奮するところだった。
「主、リスタからスキルを授かったろ?」
「ああ。3つ貰った。」
「うむ。そのうちの1つに、〝能力値〟というスキルがあるはずじゃ。唱えてみ。」
「—〝能力値〟」
そう言った瞬間、俺の目の前にホログラムで出来たような光る板が出現した。触れられそうだが触れられない。手が突き抜けてしまう。
そして沢山の文字が日本語で書いてあった。
聞くまでもなく、説明が入った。
「これは〝能力値表〟じゃ。〝能力値〟のスキルを使うことで現れる。それを見れば主の肉体能力や使えるスキルが丸わかりじゃ。」
「おお! じゃあこれで魔力の数値をみれば•••って、1なんだけど。」
「〝能力値表〟の左上を見てみ。Lvとあるじゃろ?」
「ああ。」
確かにLvという文字が左上に書いてある。そして同じく1という数字も。
「•••Lv1だけどな。」
「まあ聞けい。魔物が取り込んでいる〝魔素〟を吸収することで、それが経験値となって蓄積される。それを一定量貯めるとLvを上昇させることが出来るのじゃ。Lvが上がれば各種能力値も上がっていく。いずれは魔法も使えるようになるはずじゃ。」
「•••じゃあ俺、魔物と戦わないと駄目ってこと?」
「そりゃあそうじゃ。戦い無くして強くはなれん。それに主は魔王を倒さねばならん。リスタとも約束したんじゃろ?」
「•••ああ。」
確かに約束はした。だが守るつもりなど毛頭ない。俺は安全に、平和に暮らしたいのだ。少なくとも、可愛い女の子と結婚するまでは。
だから危ないことはしたくないし、戦いも避けたい。
だが魔法は使ってみたい。けど、そのためには魔物と戦わないと駄目で••••••
あーもう、最悪なジレンマだ。
そんなジレンマに葛藤する俺に、アルバが話しかけてきた。
「それでのう、スキルについても書かれているはずじゃ。」
「スキル、スキル•••あった。」
「うむ。リスタから〝能力値〟のスキルを与えたことは書いておるが、他のスキルについては聞いておらん。わしも気になっておったのじゃ。どれどれ•••」
〝能力値表〟の左上にはLvが、中央には魔力や攻撃力などの各種数値が、そして下の方にスキルの一覧があった。
そこには今使っている〝能力値〟の他に、〝想像〟と〝同一化〟と書かれていた。これらはどんなスキルなんだろう。
まあ、聞かなくても勝手に答えてくれるか。
「〝創造〟と、•••〝同一化〟!?」
それを見たアルバが大声を上げた。耳元で叫ぶのは止めてもらいたい。
「おいアルバ、耳が壊れるだろ。一体どうしたんだ?」
「すまぬすまぬ。•••が、うむ。•••どいうことじゃ?」
小さい声で謝りながら、アルバはぶつぶつ独り言を言っている。何を言っているのかさっぱりなので、黙って見守ることにした。
少しして、何かに納得したようなアルバはようやく首から手を離し、再び俺の前に降り立った。いい香りのする髪が離れていくのは少し寂しいが、仕方ない。
またいずれこんな機会もあるだろう。
いやまて、何を俺は考えているんだ。なぜこんな少女に魅力を感じているんだ?
実は俺、ロリコンだったのか??
いや、そんなはずはない。断じて、断じて•••。
おっと、アルバが話し始めた。神妙な表情をしている。
「続きは進みながら話そう。」
「ああ、うん。分かった。」