6:それはプリンを奪われてからの転機だった。
「えーっと」
ミア様までもヒゲジィと同じく、ズガガガガーンと渋い顔をしてソファに座ってしまった。
「ハル、説明を」
「へぇい」
私達用には近所のお洒落なケーキ屋さんで買ったケーキとフロランタン。
魔術師さんたちには手作りのムース。
「なんでそこで知らない者たちに手作りとか渡すの?」
――――え? そこ?
って顔をしたのは私だけじゃなかった。
「陛下、問題は、これがエーテル(中)ということです!」
「……ハルは魔法薬師なのか?」
いや、普通の事務です。普通の会社で普通の事務のおねぇさんやってます。
ムースはまぁ、エーテルらしいから魔術師さんたちに必要かなぁ、でも買ったやつ渡したらまた金貨とか渡されそうだなぁ。そうだ、私が作ったらそこそこだろうから激的な回復力とかないはず。何ならゼロかも! とか思って作ったけど。
「何と…………無自覚でこの完成度か!」
「ハル、私には作ってくれないのか?」
ミア様、結局ソコなんですか⁉ とかは言わない。だって私はいい大人だから! 笑顔で来週はミア様の為だけに作ってきますね! とか適当に流しといた。
結局、エーテル……違った。ムースも保存魔法で国庫行きだそうだ。
ムースも、そう言われた。ということはだ、他のも国庫に入っているらしい。異世界でのお菓子の扱いが、怖っ。
「陛下……」
「お前、一個食べただろう?」
「……」
「食べたんだな? ならば私も食べていいだろうが!」
おぉ、ミア様とヒゲジィが言い合いしてる! ミア様が乱暴な言葉使った! 何かプンスコしてる!
可愛いなぁとによによして見ていたらミア様に睨まれてしまった。
「ハル、あーんして!」
「はいぃぃ⁉」
若いラブラブなカップルや夫婦は、あーんをして食べさせ合うのが流行っていると聞いた、と。
ちらりとヒゲジィを見たら、小声で「陛下は初恋で頭にウジが湧いているのだ」と言われた。歯に衣着せようぜ。
「ハルッ!」
「はいはいはい、しますよー」
ミア様は満足そうに私の手作りムースを食べてくれた。こうも喜んでくれるのは、なかなか嬉しいものなんだなと解ったので、次からは色々と作ってきてあげようかなぁ、と計画した…………ところまでは良かった。
持ってきたチョコケーキはまさかの興奮剤。二度言おう、興奮剤! だった!
チョコレートの野郎のせいだな⁉
「魔術師長、お前がいて良かった。危うく食べてハルを襲うところだった…………少し惜しい気もするが」
「んんっ? ミア様、何か言いました?」
「いや、何もっ!」
小声でボソボソッと言ったのはバッチリ聞こえてたけど、睨んだらサッと目を逸らされた。ゴクリという音とともに喉仏が上下しているところはちょっと可愛かった。
「こちらのフロランタンたるものは…………美肌になる薬、ですね」
「ふーん」
おい、そこはびっくりしろよ! 美肌になる薬だよ! 奇跡じゃんかっ!
ぷんすこしていたら、心配そうな顔をしたミア様に頭を撫で撫でしてもらえたので、チョロい私はにこにこご機嫌である。
お泊りや国内案内は、わりと平穏に終わった。
まぁ、なぜか同じベッドに案内されたり、海が綺麗だから海水浴場したいねという話からビキニの説明をしたら、盛大に鼻血を出されたりはしたけど。まぁまぁ、平穏に終わった! 終わったの!
一年くらい、毎週末はミア様と王城で過ごしつつ、愛を深め、確かめあった。
ある夏の日、ミア様が妙にカッチリとした服を着ていた。こうやって見ると王様然としているなぁなんて失礼極まりないことを考えていたら、ミア様が私の前でスッと片膝をついた。
「ハル、この一年、君の素晴らしさ、ズボラさ、美しい心、怠惰に流されようとする姿、勤勉さ、無精さ、色々と見てきた」
――――ん? ディスられてない?
ムッと顔をしかめたら、ミア様が眉毛を下げてクスクスと笑いだした。
「どんな姿の君も愛しいと思えたんだよ。どうか私と一緒になって欲しい」
「っ! …………はいっ」
左手の薬指にゆっくりと指輪を填められた。なんかバカでかいダイヤっぽい宝石が付いてたのはスルーすることにした。
平凡オブ平凡なお顔のミア様のくせにぃ。
いちいち動作がかっこいいし、優しいのはいつものことで。
仕事しているときは、ありえないほどに威厳があってしびれるくらいに厳しい目つきをしてたりする。
今はちょっと涙目で嬉しそうに笑ってくれている。
あれだギャップ萌え。
立ち上がったミア様にていやっ! と抱きついたら、しっかりと抱きとめてくれて、お姫様抱っこをしてくれた。
「命が尽きる瞬間まで、君のそばにいると誓うよ」
「……カッコイイィィ」
「ふふっ。知ってる」
「あはは!」
ドヤ顔のミア様は途轍もなく可愛かった。
仕事をやめたり、異世界に引っ越すことにしたり、異世界で魔法薬師として働いてみたり…………まぁ、ダラダラ製菓しているだけだけど。
私の人生はなかなかに波乱万丈だ。
プリンを奪われるという謎の事件から、まさかまさかの異世界生活。
なかなかに楽しんでます!
因みにミア様は、プチッとするお手頃プリンが一番のお気に入りだ。わりとチープな舌である。
―― おわり ――
ふぁい! 完結です!
今朝、2話あたりから書き始めて、出来たてほやほやの最終話。
推敲ってなに? 美味しいの?(推敲やれよ!)
まぁ、妄想の勢いに任せるのも楽しかったです。
短編、長編、諸々あります(*´﹀`*)
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ではでは、またいつか、何かの作品で。