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4:それは『ときめき』という名の……。




「ん?」


 ホクホク笑顔でプリンを見つめているミア様を見てふと違和感。

 部屋が寒い。

 この人、まだ魔法使えないパターンなんじゃ⁉


「ああ、保護魔法は魔術師長に掛けさせるから大丈夫ですよ。呪いが解呪され魔力は回復期に入りましたが、国の気候を安定させるほどの魔力はあと半月ほど待たねばなりません。国民たちには迷惑を掛けてばかりです」

「うわぁ、大変ですねぇ」

「いえ、ハルがくださった万能薬のおかげで、魔力枯渇し生命力が奪われて死ぬことも、国民たちが凍死することも、国が滅亡することもなくなったのです。本当に感謝しています」


 またもやウルッとした瞳で見つめられた。

 ぬぬぬ。ミア様の顔が段々と可愛いとしか思えなくなって来た。

 そっとミア様の手を取り、ヨーグルトムースの甘夏ジュレ添えを握らせた。


「食べましょう!」

「え……」

「甘いもの食べると、元気になれるんですよ! ミア様みたいな優しい王様で、この国の人は幸せですねぇ」

「……ん、食べる」


 ――――ふおっ⁉


 急に子供っぽい言葉にドキッとした。この人、この国で一番偉い人なのに妙に低姿勢だし、妙に素直だし、何か可愛いし、何か可愛い。

 完全に絆されてるなぁとか思いつつ、二人ソファに並んで座り、ムースをパクリ!


「うんまっ! 甘夏ジュレとヨーグルトムースうんまっ!」

「っ、う…………」


 隣でミア様が言葉を詰らせていた。

 そうだろう、そうだろう。語彙力消失するくらいに美味いだろう。テレビで紹介されるくらいのお店だからね! 一つ六〇〇円もするからね!


「ん、はぁっ…………ぅあっ……これは………………」


 ん? そんなに艶めかしい声を出すほどに美味しい? いや、美味しいけど。

 急に黙々と食べ出したミア様を見つつ、ゆっくりとムースを味わっていたら、ミア様がなぜか床に跪いた。


「ひっ⁉」


 人は心底驚くと、ソファの上で体操座りのような格好をして縮こまるものだと知った。


「ハル、いや、ハル様」


 ハル様ぁぁぁ⁉


「この『ムース』たる食べ物…………エーテル(無量大数)です。魔力が完全回復し……まし、た」


 …………はいぃぃぃぃぃ⁉ 無量大数⁉


 床に跪いているミア様にムースのカップとスプーンを取り上げられ、そっと机に置かれた。

 え、まだ半分残ってるんですけど……。

 ムースを目で追っていたら両手をふわりと掴まれてヒエッとか口から漏らしていたら、手の甲にちゅとキスをされた。

 そして、立ち上がったミア様にガッシリと覆い被され気味に抱きしめられてしまった。


「うおえぇぇぇぇ⁉」

「……貴女は、私の女神だ。ありがとうございます。本当に…………ありがとう……」


 右耳にグスリと鼻をすするような音が聞こえて、ミア様が泣いているのだと気が付いた。

 私は昨日今日しかこの国のことを知らないけど、本当に大変だったんだろう。

 彼がずっと命の危機にあって、それでも国を国民を優先していた事はよくわかる。本当に凄い人だと思った。


「よく頑張りましたね」


 よしよしと頭を撫でてあげると、更に強く抱きしめられてしまった。それ以上いけない。ムースが出る!




 泣き止んで顔を真っ赤にして恥ずかしそうに座っているミア様を見つめつつ残りのムースを食べた。

 魔力の回復薬なら、ミア様が食べたほうが良いかと渋々聞いたら、完全回復したから大丈夫だといわれた。


 ムースを食べ終わった今は、ミア様と一緒にバルコニーに立っている。

 今から気候の調整をするそうだ。

 バルコニーから望む景色は、真白な雪国の夜景だった。雪が降り積もり、全てが凍っている。

 これは確かに暮らすのは大変そうだなと思っていると、ミア様が何やら長々しい呪文を唱え始めた。

 うぉっ、厨二病発症か⁉ とかドン引きしていたら、ミア様の身体が輝き出した。そして、その光が真っ直ぐ空に伸びた。

 夜空にはオーロラのような光がまるで世界を覆い尽くすかのように広がっていた。

 その光景は、今まで見たどんな風景や夜景よりも美しくて、心臓がキュッと締め付けられるような愛しさが生まれた。


「……きれい」

「ありがとうございます」


 柔らかな笑顔のミア様の手が顔に近づいてきた。

 頬にそっと触れた指先が、いつの間にか流れていた私の涙を拭っていた。

 そして、徐々に近づいてくるミア様の美しい瞳。

 ふにゅりと重なる唇。

 私達は、キスをしていた――――。




 次話は17時くらいに投稿します。

 今日中に完結予定です。

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