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第5話 バレンタイン大作戦

「今日は気合を入れて作るよー!」


「おー!」


「ちょっと!二人とも声が大きい」


 深夜の台所で動く三人の影。その正体はもとこ、ふゆう、のうかの三人である。なぜ深夜に三人がこそこそと動いているかというと、ある計画を実行に移すためである。


「もとこおねーちゃん、お湯沸かして」

「はいよ~しっかし、こんなに面倒くさいことしなくても市販のヤツでもよかったんじゃないのか?」

「それじゃ意味ないっていってたもん!」


 事の発端は、テレビでやっていたバレンタイン特集であった。海外の事例紹介で、『お世話になった人に贈る』という習慣がある事を知った。


「これだ!!」


 作業の合間をみてそれぞれが材料を調べ、着々と準備を進めていった。本日2月13日深夜にいよいよ実行に移す時が来たのだ。


「湯銭で細かく刻んだチョコを溶かしていくんだって」


 慣れない手つきでのうかがチョコを溶かしていく。その間にもとことふゆうがフルーツを一口大に刻んでいく。


「一個くらい食べても大丈夫だよな?」

「ダメですよ!ちゃんと考えて用意したのですから!」


 そんなやり取りをしながら切ったフルーツを串に刺して積み上げていく。ちょうどその時、黙々とチョコレートを溶かしていたのうかの手が止まる。


「こっちは溶けたよ~」


 次々とチョコレートをつけて乾かしていく。そして、一つ一つラッピングし終わった所で机に突っ伏して寝息を立てているのうか。


「遅くまで一番頑張っていたもんね」


 満足そうな笑みを浮かべたまま寝てしまったのうかを寝室へ連れて行き、二人は後片付けをはじめた。


 ※


 次の日、午前中の作業も終わり、お昼休憩のときであった。どのタイミングで渡すのがよいのか三人で話し合っていた。

「どのタイミングで渡す?」

「おやつ時間に渡すのが良いと思う」

「じゃあ、おやつのタイミングで渡そう」


 そう話していると、ふいにマコトが後ろから声をかけてきた。


「三人とも何の話してるの?」

「マコト(さん)には関係ない! さっさと作業に戻って」

「ちょっとひどくない?」


 しぶしぶ作業に戻るマコト。


(よし、ばれなかったわ)


 午後の作業も順調に進み、いよいよ打ち合わせした時間が近づく。


「さ、作業もひと段落したし、休憩しよっか?」


 皆で直売所の事務所に戻り、一息ついたところで三人がマコトの前に並ぶ。


「どうしたの? 三人かしこまって」

「えっと……マコト(さん)いつもありがとう!」


 そういってラッピングした紙袋を三人で差し出す。


「え? あ、今日はバレンタインデー? 俺もらっていいんだ?」


 さっそく中身を確認するとチョコレートでコーティングされたフルーツが出てくる。


「初めて作ったから…… 美味しくないとか言ったら許さないからね」

「手厳しいな~ さて、一つ。あ! 美味しい! ありがとう」


 三人の顔がホッとしてみんな笑顔になる。そして、4人で分け合ってほっこりした空気が流れ始める。和気あいあいとおやつタイムが過ぎ、食べ終わったところでのうかがマコトに切り出す。


「あ、マコト。お返し期待してるからね」

「お返し? ああ、ホワイトデーのことね」

「うん、()()()()()()()()なんだよね? ちゃんとリスト作っておいたから」


 嫌な予感がしてPCを覗き込むと『欲しい物リスト』と書かれたファイルが目につく。そして、山のように書いてある欲しい物を見て血の気が引いてくる。


「えーっとのうかちゃん? だれが()()()()()()()()だと教えたのかな?」

「ん? こないだママから聞いたよ。マコトならきっと期待に応えてくれるはずって。ママの欲しい物も追加しといてあげたよ」

「ちょっと何変なこと教えているの! そして、何で追加されてるの?」

「マコト(さん)お返しありがとうございます!」

「ちょっと、なんで俺みんなに全部買う流れなの?」

()()()()()()んだから仕方ないよね?」

「こんなのあり? ちょっと吹き込んだ人どこ行った?」


 今日も直売場にこだまする元気なマコトの叫びと三姉妹の笑い声。

 さて、欲しい物リストに何が書いてあったかは神のみぞ知る……一か月後、マコトのお財布がまた軽くなったのはまた別の話。


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