第2話 三姉妹と柿泥棒(前編)
三姉妹が現れた日から数日後、柿畑で朝から収穫を進めるマコトの姿があった。
「はぁ……今年の出来具合は申し分ないのだけど、どうしてこうなった……」
収穫をしながら大きなため息をつく。
三姉妹が現れてからマコト自身は振り回されっぱなしであった。
「今年の柿も出来はかなりいいよな」
「そうそう、これなら今年も……って収穫しているそばからかじらないでくれますか?」
一人で収穫を進めていたはずなのに気が付いたら後ろにもとこがおり、収穫した柿をそのままかじっていた。
「そんな固いこと言うな、美味しくないわけないのを確認してやっているだろ」
晴れた日の収穫の時は三姉妹の誰かが手伝いという名目で遊びに来てひと騒動起こして過ぎ去っていくのが通例となっている。今日はつまみ食いされているというわけである。
「ところで今日はほかの二人はどうしているんですか?」
「ああ、ふゆうは買いたいものがあるとかで出掛けたぞ。のうかは遊びに行ってくるっていってたな」
「みんな自由ですね……」
三姉妹だからといえどもいつも一緒にいるわけでもなく、それぞれが思い思いに行動している。のうかは次の日から近所に住む子供たちのアイドル的存在となり、毎日遊びに出掛けているのが日課となっている。
「そういえば、昨日ニュースでやっていたけどすぐ近くで柿泥棒が出たみたいだな」
「そうですね。うちも数年前に被害にあいましたから……」
ここ最近、隣の地区で柿泥棒が発生し、収穫直前の柿をごっそり盗まれるという事件が多発していた。西垣農園でも数年前に柿泥棒の被害にあっており、地元警察と農協が警戒を強めているところであった。
「話は聞かせてもらった! ここは私の出番のようね!」
いきなり元気のいい声がしたと思ったら、遊びに行っていたのうかが腕を組み、仁王立ちで目の前に立っていた。
「遊びに行ってたんじゃなかったの?」
「もうすぐお昼だからみんな帰るって。それに私がいるにかかわらず柿泥棒をなんて不届き者がいると言うじゃない。これは私の本気を見せる時が来たようね」
なんだかすごく嫌な予感がするなと心配しているとそこへもう一人の声が聞こえてくる。
「面白そうなことやっているわね。私も参戦しようかしら?」
買い物に出掛けていたはずのふゆうもなぜか合流し、いつもの三姉妹の喧騒が始まる。
「わたしが先に言ったのだからお姉ちゃんたちの出番はないの!」
「あら? のうか一人じゃ心配だから私がやってあげるわよ」
「そんなの怪しいやつつかまえてとっちめればいい話だろ?」
三者三様に言い合いが始まる。こうなるともう収拾がつかなくなるのがいつもの流れである。
(やっぱりこうなるのか……三人にこの件は任せて自分は収穫がんばろうかな)
そう思いつつ収穫を進めるためそっとその場を離れようとしたが、それを見逃すほど三姉妹は甘くなかった。
「なに一人だけ関係ない顔しているんだ、もちろん協力するだろ(でしょ)(よね)」
「毎回どうしてこうなった……」
今日もむなしくこだまするマコトの叫び……はたして無事柿泥棒は撃退できるのか……