第三話 竜人騎士の誇り-1
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魔族。
約五百年前、魔王と共に異界から現れたという
獣の頭を持った異形の者たち。
亜人、魔獣。世界に突如現れたそれらは
好き放題に殺し、奪い、世界を殺戮の渦に巻き込んだ。
魔王亡き後、この世界にとり残された魔族たちは
各地に散らばり、人間社会に紛れて暮らし始めた。
彼らが持ち込んだものは数多い。魔法もその一つ。
あらゆる事象を意のままに変える魔法を、
人間が使えるように改良したのが魔術だ。
火、水、風、土に関する事しかできず、維持もできない魔術と違い
魔法は何でもできたといわれるが、
そこまでの魔法使いは稀であり、魔王はその一人だった。
時を経て、亜人との混血など珍しくもない今。
勇者が必要となったという事は魔王が蘇ったという事。
その時、魔族はどうするのか。血に従うのか、現在に従うのか。
それは彼ら自身にしか分からない事だ。
*****
随分長く馬車に揺られ、快適ではない十日ほどの旅を満喫した。
王都に近づくほどに魔王の復活が噂話に聞こえ始める。
そんな中で王都に行く者などそうはいないのか、
乗合馬車はリレックたち三人の貸し切り状態だった。
初日こそ色々と話していたが、十日目ともなると話題などありはしない。
揺れる馬車の中で歌うライチェをぼうっと見ている。
歩いていった方が良かっただろうかと本気で考えだしてしまった。
ライチェの歌は声も綺麗で上手いのだが、
知っている歌が少ないので同じ歌ばかり。
他にやる事のない馬車の中では流石に飽きる。
幌の中では景色もあまり見えない。
シュペナートなど精神修行と割り切って、昨日からずっと瞑想している。
魔導書を読んでいて乗り物酔いした事に懲りただけかもしれないが。
「リレックさん、シュペさん! 石畳になりました!」
幌の後ろを見ていたライチェが歌を止めて声を上げる。
確かに、土のでこぼこ道から石畳になっていた。
揺れも小さくなったような気がする。
きれいに舗装された王都の道。
「やっと王都に着いたな……」
痛む尻を押さえつつ、リレックは大きなため息をつく。
それからしばらくの後、三人はようやく王都へと到着した。
乗合馬車が郵便物や配達物を下ろしているのを横目に、
王都の中心にある城を見上げる。
美しく優雅にして堅牢な王族の住居。整然とした広い城下町。
見るもの全てが目新しく、
リレックは田舎者である事を丸出しにして顔を動かし続けた。
「しばらく自由行動にしたかったが、はぐれそうだな。
まずは魔導書を売りに行こう」
「その金で変な魔導書は買うなよ」
駄々をこねる子供のような顔でリレックを見るシュペナート。
言わなければしれっと買っていただろうし、言ったところで多分買う。
とはいえ釘をさしておけば、
売りに行ったのに書が増えていたなどという事にはならないだろう。
「リレックさん、あれ! 魔導人形ですよ、歩いてます!」
脇腹を何度もつついてくるライチェは、初めて見た同族にはしゃいでいる。
買い物袋を持っている、使用人の服を着た女性型の魔導人形。
意図的に作られている球体関節が見えていなければ
人間にしか見えない精巧な容姿。
ちゃんとした手がある。
一度作ろうとはしてみたのだが、素人仕事で作れるような物ではなかった。
職人の魂すら感じるたおやかな手は、
どれほどの金がかかっているのか想像だにできない。
その彼女は呆れた目でライチェを睨んで去っていった。
お前も歩いている魔導人形だろう、とでも言いたかったのだろうか。
「頼むから、ここまで来た一番の目的は忘れないでくれよな」
勇者が行うという洗礼の旅。それがどこを旅するものなのかを調べる。
出会わなければ殴る事も叶わない。
子供たちとお使いに来た父親のような気分になりながら、
慣れない石の感触を感じつつ歩き出した。
***
城下町で聞き込みをしてみたが、当然ながら知っている人はいなかった。
魔王を討つための大聖剣を持っていない勇者。
魔王からしてみれば最大の狙い目だ。
行き先は秘密にされているのが自然だろう。
一介の旅人などが分かる情報ではない。
人の口に戸は立てられぬ、それを期待したが情報は完璧に統制されていた。
しかし、勇者の話はいくつかの店などで聞く事ができた。
「あいつに責任感とかちょっとでも期待した、わたしが馬鹿でした」
そう吐き捨てたライチェに同意する。
リレックとて、ほんのわずかながら期待していた。
正式に勇者として任命されたのなら、
ツィブレも少しは勇者らしくなるのではないかと。
そんな事はなかった。
むしろ絶対の権力を得て醜悪さは極限まで肥大化したようだ。
店での無法の数々、商品を壊すなど当たり前。
供の者に店主を殴らせて笑っていたなどという話まで。
もっとも許せなかったのは、料理店での所業。
気に入らなかった料理を床にぶちまけて踏みつけ、
料理人を這いつくばらせてそれを食べさせたという話。
農民として決して許しがたい行為。怒りが燃え上がるのを感じる。
そんな扱いをされた者たちが好意的になるはずもなく、
勇者という単語を出すだけで露骨に嫌な顔をされるほどだ。
「あと一日早く村を出ていれば、追い付けたとはな」
新しく買った魔導書を読みながらため息をつくシュペナート。
本来なら宮廷魔術師の転移魔術で王都に来てから、
すぐに勇者として認定され旅立つはずだった。
しかし中々旅に出発せず、
王都に三十日近く居座って好き放題やっていたという。
ナハル村で馬車を逃していなければ、王都にまだいたのだ。
「この書の力ある言葉で、
あいつを土に埋めてすね毛を全部引っこ抜いてやろうか」
魔導書に書かれていた力ある言葉は"すね毛"だったのだろうか。
痛そうな魔術に顔をしかめる。
あの少女には悪いが、やはり叱るなど無理そうだ。
きっと憎悪をもって復讐の拳を叩きつけるだろう。
そんな気がしてリレックは拳を握った。
「これからどうしましょう? 宮廷魔術師さんに会いに城まで行ってみますか?」
それ以外に当てがないのは確かだが、三人で腕を組んで唸ってしまう。
ちょっと話した程度の村人が易々と会えるような人物ではない。
門前払いが妥当だろう。
聞き込みを続けるにしても、ここまで情報が一切ないのでは望み薄。
いっその事、大聖剣を抜くために王都に帰ってくるまで待つのも考えたが、
一体何十日、何百日かかるやら。
路銀に余裕は持たせてあるが、百日も王都に滞在するだけの金はない。
仕事をするにしても、王都で旅人への仕事などそうはないだろうし、
農民としての仕事はそれ以上にないだろう。
それ以上に、王都に帰ってきたのなら兵士や騎士たちが周りにいる。
殴りになど行ったら良くて投獄、悪くてその場で処刑だ。
少数で旅をしている途中こそが唯一にして最大の機会なのだが、
どこにいるか分からない。
思考が堂々巡りを繰り返す。
ライチェの提案に答える者はおらず、唸り続ける三人。
「そこの案山子を連れた人よ! 吾輩の願いを聞いてくれぬか?」
「オレたちはこの町に来たばっか……りぃッ!?」
そんな時、声がかけられる。
こんな町中で案山子を連れた人物などリレックたちしかいない。
声の主の方へ振り向いたリレックは、驚きで語尾を上ずらせてしまった。
リレックの頭二つ分は大きい人体。それ以上に目立つ赤い鱗で覆われた竜頭。
純血の竜人。魔族の中でも上位に位置する種族。
所々汚れてはいるが、金の装飾で彩られた黒鉄の鎧を纏っている。
背には肉厚の大剣。
そして、威厳に満ちた重低音の声。威圧感が尋常ではない。
竜人の放浪騎士。そんな印象を受ける魔族。
「そんなつれない事を言わないでくれ、この通りだ」
そんな思いなど知らぬとばかりに、
にこにこしながら手を合わせて近づいてくる竜人。
リレックを庇うように立ちはだかるライチェの顔に
鼻先が付きそうなほど近寄ってくる。
間近すぎる位置で見た竜人の迫力に小さな悲鳴が上がる。
ライチェのそんな声を聞いたのは久しぶりだ。
「な、内容次第だろう」
シュペナートも面食らっているのか腰が引けている。
いつもなら即座に断っていたはずだが、相手を刺激しないようにしている。
「うむ、確かにそうだったな、失礼した。あの店が見えるだろうか?」
竜人が指差した店は田舎では見た事のないお洒落な料理の店だった。
まったく結びつかない二つに思考を停止させていると、竜人は続ける。
「あの店で売っている料理がどうしても食べてみたいのだが、
魔族は入れんのだ!
もちろん金は出すから買ってきてはくれんか?」
そう言われて見てみれば、入口の張り紙に
"王都の民以外の魔族、魔導人形の入店お断り"と書いてある。
いくつかの店で見た物と同じ。ライチェが一緒に入れないので避けていた店。
「まあ……オレも少し腹が減ってたし、買ってくるだけなら」
そのくらいなら別に構わないと了承する。
竜人が人間に頼み込んでまで食べたいと思う料理に興味がわいたのもある。
「有難う、槍術士殿! いい場所を見つけてある、共に食おう!」
竜人が金貨を渡してくる。持ち逃げされるなどとは一切考えていないらしい。
そして、リレックたちと一緒に食べる事も決定事項のようだ。
強引な竜人に呆れつつも、
煮詰まって唸っているよりはいいだろうと店に向かった。
「うむ、美味いなあ! 肉は言わずもがな、付け合わせの野菜もまた良い!
更にこの甘酸っぱいソースが……」
大声で感想を語りながら料理を食べる竜人。
リレックは料理の味付けがどうこうなど考えて食べはしないが、
この料理は確かに美味かった。
気になるのは見た事のない葉物の野菜。
日持ちしそうには見えないので近くで採れたのだろうか。
野菜より畑が気になってしまうのは農民の性か、最高の畑を求めるからか。
目の前の城を見ながら肉にかぶりつく。
竜人の言ったいい場所とは城の近くにある空き地だった。
ここなら多少の大声を出しても迷惑がられる事はないし、
人通りもほとんどなく、それなりに景色もいい。
王都で疎まれている魔族でも食事を楽しめる場所。
「王都の人たちって、わたしたちみたいなのが嫌いなんですね」
少し寂しそうなライチェ。
故郷では皆、普通に接していたから余計に感じるのだろう。
それを聞いて竜人は豪快に笑う。
「当たり前だろう、いつ魔王様に従って暴れだすかもしれん魔族と、
誰に使われているか分からん魔導人形だぞ。
吾輩なら問答無用で町から全員叩き出すが、
市民であれば入れるのだぞ? 寛容ではないか」
勇者様が町で好き放題したので、王都の住人は勇者がいる事を知っている。
勇者が必要になったという事は魔王が復活したという事。
元々は魔王のしもべだった魔族がいきなり人間に牙を剥く可能性はあり得る。
面倒事になりうるものは避け、常連に安心感を与える。客商売なら尚の事。
それを考えたなら、あの対応は当然どころか優しい部類なのかもしれなかった。
「今では混血も珍しくない。疑わしきは、で排斥などできないしな」
魔の術を扱うシュペナートが淡々と言う。
王都でも、故郷でも、旅の途中に立ち寄った場所でも、魔族との混血はいた。
人間と変わらない姿の者、魔族と変わらない姿の者、
両方の特徴を持った姿の者。
両方の特徴を持った者たちは土地によって扱いが異なる。
リレックたちの故郷では種の違いなど意識すらした事もなかったが、
王都では疎まれる存在なのだろうか。
罪悪感のようなものを感じて気落ちするリレックの顔を竜人が覗き込んで笑った。
「人間の作った洒落た服を着て、人間の作った美味い料理を食べる。
嫌なら出ていけばいいだけの話、貴公が気に病む事など何もない。
吾輩のような胡散臭い旅人の魔族を
入れてくれる所がある方が驚きだ、ははは!」
リレックを慰める竜人の言は魔族のものというには人間側に寄っていて、
どこか変わっていると感じた。
自身も魔族だというのに自虐的だ。
「そもそも魔族お断りを掲げている店は、ほぼ全て魔族か混血の店だぞ?
厄介事になりそうな者を排除するのは当然だ、客商売なのだからな」
そう言われてみれば、先ほど入った店の店主は混血だった。
勇者の存在で魔王の復活が知れ渡っているからこそ、
自分たちは魔王軍と関係などないと宣言しているだけ。
普段から嫌い合っている訳ではないという事に何となく安堵した。
「さあて。できるだけ自然に、左後ろの建物の陰を見よ」
料理を食べ終わり、姿勢を変えず声だけを潜める竜人。
できていたかは分からないが、自然な動きを意識して言われた方向を見てみる。
軽装の兵士らしき男たちが三人ほど、
こちらの様子を伺いながら何かを話していた。
「二人は吾輩の監視で、もう一人は貴公らを尾行していた者だ。
合流した所を見ると同じ部隊……まあ、王都の警備隊だろうな。
吾輩は武器を持った魔族だから監視がついて当然だが、
貴公らは何かしたのか?」
「わたしの所為でしょうか……」
魔導人形である自分の所為だと落ち込むライチェだが、
リレックは違うような気がした。
町では普通に魔導人形が歩いていたが、尾行されているような様子はなかった。
シュペナートと視線を合わせる。
魔術師も同じ考えだったようで、自身の膝を指でつついてそれを示した。
「オレたちが、勇者の行き先について聞き込みしたからだ。
魔王の回し者かもしれないって思われてんのかもしれねえ」
リレックの推論を聞いた竜人は腕を組んで申し訳なさそうに呻いた。
魔族と共に料理を食べていれば、よりその疑いが深まってしまう。
ふと疑問に思ったのか、竜人は腕を組んだまま聞いてくる。
「なぜ勇者の行き先など知りたかったのだ? 渡したい物でもあったのか?」
「渡したいもの……あの野郎の顔面に、この拳をだ」
固く握った拳を突き出すリレック。
簡単に説明をする。自分が勇者と同郷の農民である事。
母との思い出の畑を潰され、その復讐のため旅をしている事。
悪行を止める者も罰する者もいないなら、自分がそれをやるという事を。
「ふむ……つまり、勇者を殺したいのか?」
「一発殴りたいだけだ、殺す気はねえよ。
魔王を倒してもらわなくちゃならないからな」
「そうですね。戦いに必要な部分以外は潰したいですが」
物騒な事を口にするライチェの言葉は聞かなかった事にして、
リレックは竜人を見つめる。
勇者を殺すのは魔王に利する事で、そんな事は望んでいない。
魔王はこの世界に生きる者全ての敵。これは世界中どこに行っても変わらない。
魔族である竜人には不快な言葉かもしれないと考えたが、
竜人は嬉しそうに笑顔を見せていた。
「殺さずただ殴る。その一撃こそが、貴公の誇りなのだな」
その意味はよく分からなかったが、それだけ言うと竜人は立ち上がる。
「料理の礼だ、勇者の行き先を知る者に聞いてみよう。
吾輩が行けばきっと会ってくれる。
かなり危険だが、そんな事で怖気づく貴公でもあるまい?」
危険だという言葉にためらうが、他の方法は皆無といっていい。
会ったばかりの魔族を信じてもいいのか。不安要素しかない。
ライチェとシュペナートを見る。
リレックに任せると、二人とも頷いてくれた。
「荒っぽい手や犯罪行為じゃないよな?」
「吾輩は話をするだけだ。こちらからは決して手を出さぬと誓おう」
「なら、頼むよ。オレはリレック。
そっちがライチェに、シュペナート。あんたは何て呼べばいい?」
「普通に自己紹介してもつまらんからな、お楽しみにしよう。
それまではあんたで構わんぞ」
やはり豪快に笑う竜人。ライチェはあんたに敬称をつけるべきか悩んでいる。
シュペナートは複雑な顔をしている。
名を教えない竜人に、早まったかもしれないとでも考えているのか。
それでも頼るしかない。リレックは腹をくくった。
全員が料理を食べ終えて立ち上がると、竜人は後ろを振り向き手を振った。
気付かれていた事に驚いた警備隊の男たちは
慌てて隠れるが色々と見えている。
「では行こうか。そこまで離れてはおらんからな」
そう言って竜人が指差したのは、城だった。
ただの平民が一生のうちに何回来る機会があるのだろうか。
巨大な城門の前にリレックたちは立っている。
板金鎧に鉾槍の門番が三人、門の近くに立ち城を守っている。
彼らはリレックたちを、特に竜人を注意深く観察しているようだ。
「宮廷魔術師さんは、会ってはくれないな」
城門の威容に、どれだけ住んでいる世界が違っていたのか思い知る。
門番に聞いてみたとしても話すら通してもらえずに門前払いされるだろう。
「お城にあんたさんの知り合いがいるんですか?」
「いや、知り合いなどおらんよ」
敬称はつける事にしたライチェの問いにあっさりと否定を返す竜人。
それでは、なぜ城門に来たのかが分からない。
竜人がその気になれば兵士三人程度なら薙ぎ倒せるだろうが、
それはしないと言っていた。
「では、行こうか」
竜人が城門へと歩いていく。リレックたちも後に続いた。
あまりに堂々と、自然に歩いていくので
このまま通れるのかとすら思ったほどだ。
しかし、門番の二人が竜人の前に立つ。
鉾槍はすぐにでも構えられるように立てられている。
「王城に何用か」
事務的な問いかけの中に拒絶を感じる。
魔王が復活しているのに魔族を城に通す理由などそうはないだろう。
竜人はそれを気にしないどころか嬉しそうに、役目を果たす門番を見ていた。
しばらく睨み合いが続いた後、
竜人は背の大剣を手に取り、柄の方を向けて門番へ差し出した。
鉾槍を構えようとした門番は意味が分からない様子で、
リレックたちにも視線を向けてくる。
リレックにも意味が分からないのだが。
「魔族の吾輩が、武器を持って城に入るわけにはいかんだろう?」
受け取ろうとした門番の一人が、
城に入る事を前提とした竜人の言葉に気が付いて手を止める。
そんな事はお構いなしに竜人は大剣を無理矢理渡した。
その重量に門番がよろめく。人間をはるかに超える膂力がそれだけでも分かる。
「ぐ……王城に何用かと聞いている!」
しびれを切らした門番が鉾槍を構える。
刃を突きつけられても竜人は微動だにしない。
そばで見ているリレックたちの方が、よほど腰が引けている。
「彼らと共に人間の王にお目にかかりたく。
貴公らは吾輩の名を王に伝えていただきたい。
恐らくは謁見が叶うだろう」
「謁見だと? 名はなんという」
名を聞かれた竜人は堂々と胸を張る。
その姿は歴戦の騎士たる風格を漂わせていた。
「吾輩は魔王軍が三魔将、ウーズィ。返答はこの場にて待つ。
その剣を魔術師にでも見せれば証明できるはずだ」
告げられた役職に空気が凍る。
五百年前の人魔の戦争、
今や御伽噺でしか語られないそれの登場人物を名乗る魔族。
門番の一人が剣の重量で転びそうになりながら城の中へ走っていき、
他の全員が固まっている中。
当の竜人はその場に座り込んで呑気に果物をかじっていた。