最終話 勇者様をぶん殴る!-1
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勇者。
英雄や偉人とは違い、その称号を受ける者が何を成したかの定義は曖昧だ。
勇気ある者だから勇者。
ならば英雄や偉人と勇者を隔てる、彼らが示した勇気とは何なのか。
剣を持ち敵と斬り結ぶだけでも勇気は示せる。
しかし兵士はみな勇者かと聞かれれば、大抵は違うと言うだろう。
普通では成し得ない"勇気"を示したからこそ、勇者は勇者たり得るはずなのだ。
それが生贄を飾るだけの、都合のいい装飾品でないというのであれば。きっと。
*****
リレックたちは頭を抱えていた。
プルエバ村に到着して、最初に出会った村人に勇者の事を聞いてみたのだが、
出るわ出るわの悪評の数々。
少し反省でもしたのか直接的な暴行はなりを潜め、
わがままと自堕落な生活に終始していた。
それが食べたい、これをよこせ、あれを持ってこい……。
勇者に対してとっとと出て行けとも言えず、村人は困り果てているという。
「本当に、ここから一歩も動いていなかったとはな……」
疲れなのか怒りなのか分からない低い声のシュペナート。
リレックも気を抜けば
立っているのも億劫になりそうなくらいに気力を奪われている。
ライチェは無言で重い風切り音を唸らせ、
上段への回し蹴りを何度も振るっている。
本気で頭を蹴るつもりらしいが、
もう止める気力もないし止めようとも思わない。
自分の両頬を挟むように張って気力を絞り出す。
「とにかく、まずは休憩と腹ごしらえしながら情報収集だ。
宿でいきなり鉢合わせる事はないだろうが、一応注意だけはしておくぞ」
「村長さんの家でぐうたらしてるって言ってましたものね」
宿を探して力なく歩き出す。
足を重くする理由はいくつか考えてはいたが、
まさか脱力感とは思いもしなかった。
そう思っていたのだが、歩みを進めるほどに踏み込む足に力が増していく。
怒りが歩みに込められる。
ほんの僅かだけでも希望を持っていた己の愚かさに怒って。
今までの旅で出会ってきた人たちを思い出す。
彼らはたとえ正道とは外れていようとも、誰に理解されなかったとしても、
自身の為すべき事に対して真摯だったように思う。
そうではない者だっていくらでも見てきた。
ツィブレに真摯さなど欠片もない事も知っていた。
それでも、微かでもいいから義務や使命に対し、
真摯に向き合ってくれると信じたかった。
勇者としての権利だけを行使し、使命や義務を一切果たさないなどと。
しかも王都に居座るのではなく、
勇者としての使命をしているふりだけは見せる狡猾さまで。
最早叱る事などしない。怒りのままに拳を叩きつけて終える。
荒くなる足音三つを聞きながら、拳を強く握りしめた。
宿で昼食を取り、少しだけ体を休めてから村長の家へと向かう事にした。
宿に併設された酒場で耳を澄ませてみたが、
勇者の事についてはほとんど言及していなかった。
呆れかえった様子で、世間話の途中に一言二言話すだけ。
だが、リレックたちが話しかけて情報を聞こうとすると、
矢継ぎ早の愚痴が飛び出してくる有り様だった。
「もう話題にすらあげたくないって事だな」
「村にいた時のわたしたちみたいですね……」
道を歩きながらのシュペナートとライチェの会話。
そう言われてみればと思い出した。
いちいち言及したくないので誰も口にしないが、
一度愚痴に火が付くと皆が一斉に不満をぶちまける。
不満を言った所でどうにもならない諦め、
ならばせめて意識の外に置いてしまおうという精一杯の空元気。
我ながらよく十年近くも我慢していたと思う。
「オレがぶん殴ったって、どうにかなるどころか悪化しちまうんだよな」
呟きと共にため息が漏れる。ツィブレを殴る事は確定事項だが、問題はその後。
村人に八つ当たりをするのは目に見えている。
反省など期待するだけ無駄だろう。
だからといって復讐を止められるはずがない。
酒場では奮発して豪華な料理を食べたので、それで勘弁してもらおう。
「リレック、村長の家はあれらしい。近くの陰に隠れるぞ」
なるべく自然を装って、シュペナートの指定した家の陰に三人で集まる。
正面から行く訳にはいかない。
ツィブレはリレックたちの顔を知っている上、ライチェが非常に目立つ。
一度ちらりと目にした程度なら気のせいと思ってくれるかもしれないが、
じっくり凝視されたら間違いなく見つかる。
そうなったら確実に出てこない。それどころか逃げる可能性さえある。
村人の話によると洗礼は初日に済んでいて、
やろうと思えばいつでも出発できる状態。
それなのに数十日もわがまま放題で居座られては、悪評も頷けるというものだ。
「これからどうしましょう? こっそり忍び込みますか?」
「それは最後の手段にしたいな」
血気にはやっているのか強攻策をとろうとするライチェ。
シュペナートが諫めると、困った顔になって村長の家を見た。
乱暴に家に踏み込んだら、
関係のない村長と家族に危害を加えてしまう可能性が高い。
関係のない者を巻き込んで傷つけたら、それはもう復讐ではない。
妻子を失った禁術使いもその一線は守っていた。
だからという訳でもないが、リレックもそれは守りたい。
打つ手が思いつかず途方に暮れていると、ライチェが肩をつついてくる。
「魔力……魔道具を持った人がこっちに向かって来てます。
大柄で、走っていますね」
「どっちから来てる?」
「正面からです。あれ、どこかで見た事あるような?」
首を傾げるライチェはさておき、正面の道を注視する。
人通りも少なく静かな通りに、
勢いよく土を蹴る音に加えて激しい金属音が聞こえてくる。
金属鎧を着た者が走ってくる時の音だ。
背の槍に触り、それを二人に見せる。
いつでも戦闘できるように準備しておくようにと意図を込めて。
ライチェが地面を足でとんとんと叩いて答える。
暫しの緊張。
それが破られたのは、道を走ってきた人影がはっきり見えた時だった。
「はあ、ひい……やっと着いたぞ……」
息も絶え絶えの状態で、村長の家の前に立つ魔族。
黒鉄の鎧を纏った竜人。
「ウーズィ!?」
予想だにしなかった再開に驚きの声を上げてしまう。
魔王軍の三魔将が一人、ウーズィ。
王都で出会った竜人がなぜここにいるのか。
物陰に隠れているリレックたちに気付かず、
ウーズィは家の扉を少々乱暴に叩く。
しばらくして、村長らしき壮年の男が家から出てくる。
男は目の前に立つ竜人騎士の威容に、腰が抜けそうになっていた。
「貴殿が村長殿か。ここに勇者がいると聞いてきたのだが、相違ないか?
すぐに会わせてほしい、一刻を争うのだ!」
いきなり訪ねてきた魔族の騎士にそんな事を言われて
はいどうぞと勇者に会わせる者はいないだろう。
あのツィブレなら間違いなく怯えて出てこない。
リレックたちには確信に近いものがあった。
それに頭が回らないほどに、今のウーズィは焦っているように見えた。
ウーズィが村長の肩を揺すり始めた時、リレックは自然と飛び出していた。
ライチェとシュペナートもその後を追う。
「ウーズィ! 何やってんだ!?」
「お、おお!? リレックたちではないか、久しぶりだな!」
知り合いのリレックを見て少し落ち着いたのか、ウーズィは村長の肩を離す。
酒場や宿で会ったなら一杯奢りつつ話でもしたい所だが
今はそんな状況でもない。
「少し落ち着けって、村長さん怯えてるだろ。まずちゃんと説明した方がいいぜ」
「うむ……焦り過ぎてしまったようだな。申し訳ない、村長。
王都から急ぎここに向かったもので、疲労もあって乱暴な事をしてしまった」
深く頭を下げるウーズィに、村長の怯えは少し和らいだようだ。
「ウーズィさん、どうしてこの村に? 勇者とは関わらないはずじゃ?」
「そうも言っておれん状況になったのだ。村長殿も落ち着いて聞いてほしい。
この村に、勇者を狙って三魔将の一人が迫ってきている」
とてもではないが落ち着いていられない言葉を聞き、
悲鳴を上げようとする村長の口を素早く押さえるシュペナート。
悲鳴を聞かれたら間違いなくツィブレを逃がしてしまう。
村長の視線は激しくリレックたちとウーズィの間で揺れ動いている。
リレックたちが話の内容に対して落ち着きすぎているからだろうか。
なぜここまで冷静でいられるのか、自分でも分からないのだが。
「名を三魔将ギゥルレーク。人魔戦争で不死身の剣士と呼ばれた者だ。
奴が吾輩に突然連絡をよこしてきてな、
魔王様のために勇者を殺すから手伝えと。
場所も指定されていたので、慌てて王都からこの村に来たという訳だ」
件の三魔将と対等な関係のウーズィがどんな存在か
理解してしまったのか、村長が激しくもがく。
ライチェとシュペナートが二人がかりで必死になだめすかし、抑えている。
そんな村長の方を向き、じっと見つめるウーズィ。
「貴殿と勇者の協力がどうしても必要なのだ。村の人々を守るために。
ギゥルレークは魔王様以外の命を何とも思っておらん。
機嫌が悪い時に目につけば、人間も魔族もお構いなしに殺す。
一刻も早く人々を避難させ、勇者と共に奴を討つしかない」
あまりに突拍子もない話のはずだが、ウーズィの真剣さに村長の動きが止まる。
しかしそれを信じていいものか。村長はリレックに目で問いかける。
「もし勇者をどうこうしたいなら、ウーズィは正面から殴りこめばいいだけだ。
喋ってない事はあるかもしれねえが、きっと本当の事しか言ってねえよ」
竜人騎士の誇りを見てきたからこそ言える。信じられる。
誇りの道を外れるような行いをするはずがないと。
村長はそれを聞き、口を押えていたシュペナートの手をゆっくりと退かした。
表情と態度に冷静さが戻っている。
「村民をどちらへ逃がせばよろしいか」
「方角で言うなら、北西だ。
奴は南から来ると言っていたから、王都への道から離れた北が良いと思う」
ウーズィの提案に力強く頷く村長。村を背負う者の決意と覚悟。
頼もしい姿に、うさん臭い髭をした大農場の豪農を思い出した。
「それでは、勇者様にもお伝えして……」
「待った。そのまま伝えたらあいつは間違いなく逃げる。
だから美味い物でも献上しに来たとか言ってここまで連れてきてくれ。
首根っこ掴んで連行する」
「あなた方は一体何者なのですか?
ウーズィ殿だけでなく、勇者様とも知り合いのようですが……」
シュペナートの言い方が相手をよく知っているものだったためか、
村長は疑問を抱いたらしい。
勇者と旧知の仲で、三魔将のウーズィとは友人のように話す旅人。
それだけ聞けば、古文書に一行くらいは記してもらえそうな登場人物だ。
「何者もなにも、オレはただの農民だよ。
何でこんな事に首突っ込んでるのかはオレの方が知りてえよ」
ただ勇者の顔面を殴り復讐を果たしたいだけだったのだが、なぜこんな事に。
大きなため息をつくリレックに怪訝な顔をしながらも、
村長はすぐに行動に移す。
妻に状況を説明して慌ただしく家を出て行った。
勇者様の事はお任せしますとだけ言って。
村長の妻が勇者を、ツィブレを呼びに行く。
リレックたちは家の壁に背をつけて隠れる。
この位置ならば入口からは死角になっていて、ぱっと見では分からない。
「ウーズィ、出てきたら首根っこ掴んで持ち上げてくれ」
「心得た」
小声で指示するリレックに従い、ウーズィは左腕に力を込める。
人間一人など容易く持ち上げるだろう。
暫くすると、お気楽な話し声と共に入口へ向かってくる男女。
まだ声変わりしていない少年の声は、
村で散々聞きたくないと思っていた憎らしい声だった。
「まったくさー、勇者をわざわざ呼びつけるとか、
そっちが来いって言いたいよね」
「部屋に籠りきりではお体にも悪いですし、ついでにお外へ行きませんか?」
「メルカがそう言うなら、たまにはいいかなー」
会話相手のメルカという女性は知らないが、間違いなくツィブレの声だ。
聞いた事のないような猫撫で声で、豪華な料理が口から出てきそうだったが。
シュペナートは自身の顔を鷲掴みにしており、
ライチェからは殺意が実際に見える気さえする。
話し声がすぐ側まで近づき、扉が開く。
「ん? 誰もいないみたいだけど……ぅおえッ!?」
ツィブレが顔を出した瞬間、ウーズィが首根っこを掴んで宙に持ち上げる。
「ツィブレ様!?」
「すみません、ちょっと動かないでいてもらえますか。
こいつに火急の話があるんです」
ライチェが構えをとりながら扉の前に立つ。
そこにいたのは法衣を着ている魔術師らしき美少女。
メルカと呼ばれていた彼女が、勇者の供をしている者だろう。
「久しぶりだな、ツィブレ……!」
「げッ!? り、リレック!? 何でお前がこんな所にいるんだよ!?」
ウーズィから逃れようと、
じたばたしながら自身を掴んでいる腕に手を掛けるツィブレ。
当たり前だが竜鱗に覆われた強靭な腕はびくともしない。
「おまえが畑を滅茶苦茶にしたからですよッ!」
「犯した罪には罰が与えられる。俺たちがそれを執行しに来ただけだ」
「案山子女に魔術師野郎まで……」
激情と冷徹、相反するような怒りをぶつけるライチェとシュペナート。
ツィブレは焦った様子でメルカをちらりと見てから、
ウーズィに視線を移し喚きだす。
「降ろせよトカゲ野郎! 僕を誰だと思ってるんだ、勇者だぞ!」
「トカゲとは心外な。吾輩は魔王軍の三魔将が一人、ウーズィ。
短い付き合いだがお見知りおきを、勇者殿」
「三魔将!?」
メルカが印を結ぼうと腕を上げた瞬間、
ライチェの突きが彼女の頬すれすれを通り過ぎる。
悲鳴を上げる暇すらなかったのか、彼女は青ざめた顔で案山子を見る。
「動かないでって言いましたよね。
ウーズィさんの話を黙って聞いてほしいんですけど」
ライチェに気圧されたのか、メルカは大人しく腕を下げた。
心配そうにツィブレを見つめながら。
ツィブレがなぜ自分を助けないのかと喚き散らすかと思ったが、
メルカと見つめ合うだけで何も言わない。
「長々と聞く気はなさそうなので簡潔に言うぞ。
お前を追って三魔将の一人がこの村に迫ってきている。
このままでは村人が奴に殺されてしまうから、お前がそいつを討つしかない」
「三魔将がもう一人!? それを僕が倒すって、できるわけないだろ!
他の方法ないのかよ!?」
予想通りの言葉に頭を抱えたくなる。
この様子では戦闘訓練もした事すらないだろう。
恐ろしいまでに強かった、あの老剣士の孫のはずだが
故郷でも剣を持った所など見た事がなかった。
「お前が大聖剣も抜かずにわがまま放題で、ぐうたらしてたからだろうが!
勇者が無理だって言うなら最初から断りやがれ!
王都でも好き放題しやがって!」
「う、うるさい! 聖なる短剣が僕を選んだんだから、僕が勇者なんだよ!
ちょっとくらいいいだろ、勇者なんだから!」
「勇者としてやるべき事をやってから言えッ!」
口論の熱が増していく中、突然シュペナートに腕を掴まれた。
何をするのかと思い視線を向けると、
リレックの振り上げられた腕が掴まれていた。
無意識に殴りかかろうとしていたらしい。
シュペナートは言っているのだ。
この拳に込められたものはそんな軽いものじゃないと。
ただ激昂して殴る一撃が、誇りある復讐であるものか。
少しばかり冷静になり腕を下ろした。
「三魔将ギゥルレークは、その短剣の魔力を探知してこの村へ向かっている。
怖気づいたなら短剣を捨てて逃げるがいい」
「ふ、ふざけんなよ! これを捨てたら、勇者じゃなくなっちゃうじゃないか!」
聖なる短剣が認めたからの勇者。
逆に言えば、ツィブレが勇者である事を証明する物は短剣だけだ。
それを失って逃げ帰ったなら、今までやって来た事の報いが全て降りかかる。
勇者であったから我慢してくれた。
勇者の証を捨てて逃げた、ただの悪童を許すはずがない。
それを理解しているから、ツィブレは短剣を手放さないし、手放せない。
「逆に言えば今が最大の好機かも知れんぞ?
ギゥルレークは単独でこちらに向かっているそうだしな。
待ち伏せもできるし、地の利もお前の方にある。
吾輩が知りうる限りの情報も全て提供しよう。
今なら吾輩も手を貸してやるぞ。どうする?」
ツィブレの動きが止まり、小さな唸り声をあげながら考えている。
クソガキだが何だかんだで頭は悪くない。
その知能の全てを自分の快楽と他人への嫌がらせに使うだけで。
三魔将のウーズィが助力してくれるという、二度とないであろう機会。
頭の中の秤は凄い勢いで揺れ動いているのだろう。
「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば!
お前ら、何があっても僕を守れよ!」
「何でわたしたちが、おまえを守らなきゃいけないんですか!?」
どの面を下げて言っているのかリレックたちに命令するツィブレ。
ライチェもいい加減に我慢の限界に達したようで、怒りを爆発させた。
そんなライチェの肩に手を置き、未だに吊り上げられているツィブレを見た。
「ツィブレの野郎を殴るためには、殺させる訳にはいかねえんだ。守るしかない」
「今殴って、ウーズィさんに任せたらいいじゃないですか!
相手は三魔将ですよ!? こんな奴のために命を懸ける必要なんかありません!」
ライチェの言う事は正しい。
ツィブレを守って死線に挑むなど、吐き気がするほど愚かな行為だ。
この村の人々がどうなろうとも、リレックたちには大して関係がない。
ここで逃げても、非難するのはツィブレだけだろう。
それでも戦わなければならない。
理屈だ正論だどうこうの問題ではないのだ。
「こんなクソガキのために命懸けるわけないだろ?
オレはオレのために命を懸けるんだ。
この拳に乗せてきた思いは、オレの復讐は、そんな適当な一撃じゃダメなんだ」
「リレックさん……」
悲しそうに俯くライチェの頭を撫でてやる。
ツィブレが何か喚いているが、聞く気もしなかったので右から左に流した。
復讐とは本当に自分勝手なものだ。
関わる者を悲しませ苦しめて、それでも止める事ができない。
ならばせめて誇り高くあろう。
どのような形であれこの物語を終えた時、
リレック自身が納得して終われるように。
「あ、あの、説明してもらえないでしょうか、何が何やら……」
「すまんが時間が惜しい。移動しながら話すとしよう」
状況について来れず困惑するメルカだったが、
ウーズィはツィブレを持ち上げたまま歩き出してしまう。
「メルカさん、だったな。
俺が簡単にだが説明するから、まずはウーズィと一緒に行こう。
君も魔術師だろう? 俺は土の魔術を使うが、君は?」
「私は火です。水と風も一応は」
使える魔術を言ったメルカに驚くシュペナート。
どう見てもツィブレより少し上くらいの年齢で三属性を使うという。
彼女への説明はシュペナートに任せ、
リレックとライチェはウーズィの隣を歩く。
陽気な竜人の横顔は、歴戦の騎士たる風格を感じる真剣なものだった。




